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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第五章 院の怒り
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第七十九話

 顕成は父上に、私を拉致したのは道雅様の従者達だった、という部分だけ話したようだった。

 私を助けに来た時、彼は侍に向かい、『ここで拉致監禁が行われた事は既に知れ渡っている』と叫んでいたけど、実際のところはまだ顕成以外は誰にも知られていなかったようだ。

「それで私は上に報告すると彼に話したら、いったん止められてね。判断は月子に任せてくれと言うのだが、お前はどう思う?」

「報告はしなくていいわ。何かされたわけでもないし」

 それに、目的がまだはっきりしていない。

「そうか、私は明日からまた数日近江に行って来るが、よく考えて気が変わったら、私が戻って来た時にでも言うのだぞ」

「分かりました――って、戻って来るって何?」

 父上はまた眉をひそめて私を見た。

「お前は勤めに出ていながら除目も知らないのか? 私は京に戻る事になったのだよ」

「え? 近江守は終わりということ?」

「その通りだ。母上も為則も既に前に住んでいた邸に戻っているから、月子も落ち着いたら移動するように」

 それで両親や吉野がここにいたわけか、と納得した。

「でも近江に行って何年も経ってないのに早くない? 京で他の大役でも任されたの?」

「いや、しばらくは散位の身分だよ。大殿の意向だから仕方ないだろう」

 散位とは、位階のみ持ちながら、仕事を与えられていない状態のことだ。

 大殿って、またしても道長様か――


 父上が退室した後、褥の上に横になりながら先程の話を思い返してみる。

「やっぱり、あれかな――いや、絶対あれよね」

「何のことですか?」

 吉野は首を傾げる。

「父上の除目の件よ。国司の任期って四年じゃなかった? まだ二年も経ってないのに代えられたのは降ろされたというよね?」

「さあ、私は政事については疎くて何とも。でも殿様は堅実なお方ですのにねえ」

「そうなのよ。真面目な父上に落ち度はないと思うわ。となると、宇治で私がやった事が関係してるのかなって思って」

「宇治殿で姫様が盗み聞きして脅されたとかいう、あの恐ろしい話ですね? でも何故姫様が殿様の娘だと知れたのです? 三位中将様の女房の振りをされたのでしょう?」

「あの時、とっさに近江と名乗っちゃったのよ」

 近江守の娘が近江という呼び名で女房をやっていること、しかも主人は道雅様ではなく当子様だという事なんて調べれば簡単にたどり着くに違いない。

 私の行動によって、父上にまで影響を及ぼしてしまったとなると、これは何とか責任を取らないと――でもその前に当子様の方だ。


 翌日、私は当子様に会うために、小一条第へ向かった。


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