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朧月夜に逢ひにゆく(改稿予定)  作者: 斎藤三七子
第五章 院の怒り
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第七十六話

「まあ――結果的に無事だったからいい。何日も不自由な状態でいて、不安だったよね。正常な判断ができないのも無理はない。他は? 閉じ込められてる間、何か辛い目に遭ってはいない?」

 私は首を左右に振った。

 顕成の優しい言葉に、また泣きそうになる。

「特に何も。部屋は清潔で明かりも少し入る構造だったし、香も焚きしめられていたわ。朝晩ちゃんと食事が用意されて、着替えや手水も交換に来てくれたり生活に困らないように配慮されてる感じがした。寒くなかったのを思うと火鉢もどこか近くに置いてくれてたみたい」

「罪人じゃないんだから、その位当たり前じゃないかな」

「でも、もてなされてるかのような豪華な食事だったの。物語の冊子もたくさん置いてくれていて……あれは退屈しないようにって事かしらね。読むような心のゆとりはなかったけど」

「しかし、中将様の邸だと知らなかったという事は、彼は一度も姿を見せなかったんだね?」

「ええ。世話をしてくれる女性の他は誰も来なかったわ」

 顕成は目を細めて遠くを見た。

「目的はただ君を隠したかったのか、動きを止めたかったのか――」

「でも道雅様が何故? 惟義ならともかく」

 そう口にしながら思い出した。

――あれは、元々は私の父の家人だったのだよ――

という道雅様の言葉を。

 どうして気がつかなかったのだろう。

 惟義が父君の邸に長い間勤めていたのなら、道雅様と相当親しいのではないか?

 そして今も道雅様と繋がっていておかしくない。

 でも、いろいろ協力してくれたのに……

「顕成は道雅様と惟義が繋がっていると思う? つまり、惟義の背後に道雅様もいたのかということだけど」

 顕成は少し考え込んでから答えた。

「まだ何とも言えない。ただ、ひとつだけ、思うところがある」

 そう言ってから紙と筆を取り出し、関連人物の名前を書いて行く。

 最後に「大殿」と書き入れ、そこから「惟義」に向かって矢印を入れ、「惟義」と「中将内侍」の二人を丸で囲み、更にそこから矢印を「当子内親王」に向ける。

「前に君が言っていた事を図解するとこんな感じだよね。ここに中将道雅様が加わるかどうかは今は横に置いておいて」

「今は中将内侍様には当子様を狙う動機がないって私も思っているけど」

「そうなんだ。それで僕はこう思う」

 顕成は矢印二つにバツを加え、「惟義・中将内侍」側から「大殿」に向かう矢印を書き加えた。

「え? これって……」

「標的は当子様じゃない。大殿、つまり道長様の方だ」

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