表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朧月夜に逢ひにゆく(改稿予定)  作者: 斎藤三七子
第四章 嵐の中で
PR
63/106

第六十三話

「本当ですわ。顕成様が姫様をこう、抱きかかえて来られたのです」

 吉野が両腕を前に出して再現する。

 その姿を顕成と自分に当てはめて想像してみると何だか恥ずかしい。

「全然記憶にない。どうやって宇治からここまで私を運んできたのかな?」

「もちろん御車ですわよ」

「嵐の中を?」

「昨日は朝から快晴でしたわよ」

 庭に目をやると、陽の光で溢れていた。あの嵐が嘘のようだ。

「――ってことは、私、一昨日からずっと寝てたってこと?」

「そう正高様が言われていたではないですか」

 一昨日の記憶を辿る。

 道雅様の別邸に顕成が来て、横に並んで話をして過ごして――

 その前は?

 あっ、宇治殿!

「藤助! 藤助は近くにいる?」

「藤助さんなら、正高様と一緒に外出してますわよ。正高様が『月子はしばらく寝てるだけだからよいだろう』っておっしゃられて」

 全く、兄上ときたら。

 あの後、道雅様のところに無事着いて文を渡せたのか、藤助に聞きたかったのに。

「他の郎党呼びますか? 私でできる事なら私が致しますし」

 吉野が申し訳なさそうな顔をする。

「いや用を申し付けるわけじゃなくてね――吉野にも説明しなくちゃいけないわよね」


 私は吉野にこれまでの出来事と顕成から聞いた話など思い出せるだけ全部話した。

「まあ……顕成様や藤助さんにも大まかにはお聞きしていましたが、まさか姫様がそんな恐ろしい事に巻き込まれていらしたなんて」

「そうやって吉野が私を心配してくれる気持ち、今になってわかる気がするのよね。私も当子様が心配なのよ。藤助に託した文を道雅様が読んで何か対応してくださったかどうか確認したかったのだけど」

「分かりましたわ。私が宮様の周辺に何も起きていないか探ってみます。姫様、今後もご自身で行動するのではなく、私どもを頼ってくださいね」

「そうね。私は今動けないから……」

「今だけでなく、これから先ずっとですわ。顕成様にもそう念を押されましたことですし」

「は? 顕成に? 何で?」

「あら、姫様を心配されての事ですわ。もう私感動して」

 吉野は両手を合わせてうっとりとしたような顔をする。

「まさか……吉野も兄上のように勘違いしてるわけ?」

「勘違いとは? 初恋を実らせたのでしょう?」

 私は大きくため息をついた。


 一昨日。

――君に何かあったら僕は……先生に申し訳がたたない――

 そう訴える顕成の姿を思い出す。

「全っ然違うから。父上へ恩義を感じてるだけよ」

「そうでしょうか?」

「恋文ひとつもらったことないわよ。見舞いにだって来てないでしょう」

「確かにそうですが……。お忙しいだけでは」

「残念ながら違うのよ。吉野、私の今一番気がかりは当子様なんだけど」

「ああ、そうでしたわね。すぐに手配いたします」

 吉野が退室し、私はもう一度大きくため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ