第十三話
「姫様、そのご格好であっても夜の一人歩きは心配です。お供します」
と私の松明を手に取った。
「さっきは断っといて何なの?」
「私が引馬でゆっくりついていきます」
「何よ、結局来てくれる位なら最初から頼まれてくれればよかったのに」
藤助はそれには応えず黙って後ろを従った。
彼は二十代後半の青年で、うちで働いて十数年になる。幼い頃は私達兄弟の遊び相手になったり、外出する時によく付き沿ってくれたものだった。
彼は真面目で武芸に強いため、来てくれてほっとしたのも事実。男姿でも夜の道は怖い。
ついて来てくれるのは心強い。
夜の近江の町は人の往来がほとんどなく、ひっそりとしていて灯りもあまりない。満月の月明かりがなければ、もっと暗くて恐かっただろう。
四半刻ほど歩いてやっと湖まで辿りついた。その手前にある邸宅が左大将様の別邸のようだ。
「大きな邸宅……」
長く続く築地塀づたいに門を探してしばらく歩く。門が見つかり近くまで行くものの、門番らしき男を目にすると急に気後れしてしまい、私はそのまま通り過ぎた。
「ひめさま?」
藤助が一歩離れた位置から小声で囁く。
「ちょっと待って。心の準備が……」
胸を押さえて深呼吸しながら門から遠ざかる。
その時。
上から人影が落ちてきて私とまともにぶつかってきた。その勢いで互いに転倒する。
「痛!」
半身を起こして相手の方に目をやると、月明かりでその顔がはっきりと見えた。
面長の顔に、細くつり上がった狐のような鋭い目。頬に斜めに走る傷痕。
次の瞬間、男は立ち上がって脇から刀を抜き、そのまま私に向かって振り下ろしてきた。
私は恐怖で声も出ず、その場で固まる。
しかし、すかさず藤助が飛んで来て男の刀を手にした刀で止めた。
よろよろと道の脇へ這って移動した私は、ガタガタ震えながら胸元から懐剣を取り出し、男と藤助の方を向いて構えた。
しかし、あっという間に藤助の方が男を追い詰める。敵わないと悟ったのか男は逃走していった。
「姫様、大丈夫ですか?」
と藤助の手が伸び、私は頷きながらその手を取って立ち上がった。
「あ、ありがとう。藤助がいて良かった……」
心から礼を言った。そして、ふと先程の男とぶつかった辺りを見る。
築地塀を、乗り越えてきた?




