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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
最終章 朧月夜の夜に
106/106

百六話

「なんでそうなるわけ?」

「ああ、もう、ほら、危ないって。だってあんな目に遭っても簡単に許す位だし」

と言いながら、また馬からずり落ちそうになっていた私の腕を顕成は引っ張りあげた。

「あんな目って、またその話?」

「違うんだね、良かった……」


 良かった……?

 トクンと胸が鳴り熱くなる。

「あ、君が傷つかなくて、ね」

 顕成は言い直した。


「私、道雅様のこと、そんな目で見たことないよ」

「そう」

 また沈黙――


 今度は顕成がそれを破った。

「縁談の話があったんだって?」

「え? ああ、うん」

 何故顕成が知っているんだろうと、面食らいながら答える。

「結婚……するの?」

「しないわよ! だって私はあなたの事が……」

とまた大きく横を向き、顕成の方へ振り返ろうとしたその時。


 馬がぶるるっと震え、私はバランスを崩して頭から後ろに向かって傾いていく。

「月姫!」

 私と、手を伸ばした顕成は一緒に落馬した。


 とっさに瞑ってしまった目を開けると、顕成の胸元が目の前にあった。

 彼に抱えられた形で落ちたようだった。

 半分起き上がって顕成を見ると、彼は目を閉じ、くの字の状態で横たわったままだ。


「顕成、だ、大丈夫?」

 顕成はゆっくりと目を開けた。

 でも宙を見つめて黙ったまま。


「大丈夫?」

 もう一度聞くと、顕成は口を開き、

「君、さっき――」

と言いかけて止まる。


「え?」

「……いや、ちょっと肩を打ったけど大丈夫。月姫は?」

「私は平気。でも顕成は肩打っただなんて、痛いんじゃ……」

「痛くないよ。君が無事で良かった」


 顕成はごろんと、私の横に仰向けになって、ほうと息をついた。

 周りは草原が広がっていて、白い小花が所々咲いている。


「顕成、ごめんなさい。私がまた無茶をしたから……」

「昔もこんな事あったよね」

 顕成は仰向けのままこちらを見上げて微笑む。

「僕には必死に謝りながら、自分も枯葉まみれなのに僕の装束はたいてくれて……かわいいなあって思った」


 か、かわいい?

 その言葉に胸の鼓動がまた大きく鳴り出す。


「そ、そう? あ、でもあの時、男の子の格好してたけど」

「君はどんな格好していてもかわいいよ」


 二度目。

「でででででも! 流石に僧衣ではそうは言えないんじゃない?」

「ああ、藤助殿に聞いたよ。そんな事もあったみたいだね。君、変装が趣味なの?」

 からかうような口調で手を伸ばし、私の髪を梳く。

「ち、違う……」

 いつもなら、怒って反論しそうなところだけど、ドキドキしてしまってこれ以上声にならない。


「今夜は朧月夜だね……」

 目を細めて微笑みながら、かすれた声で囁かれる。


「うん……」

 いつの間にかすっかり陽が落ちていて、ぼんやりとした月明かりに包まれていた。

 秋にも似たようなやり取りがあったことを思い出す。

 今日は春の虫の声が静かに響いている。

 私もそっと仰向けに横になり、月を見上げた。


「変装と言えば……先月さ、土御門第へ女房に扮して行ったじゃない?」

「うん?」

「あれ以来、そういう趣味の男だという噂が広がっちゃったよ」

「ええっ! そうなの?」


 びっくりして起き上がろうとすると、顕成に袖を引き戻され、そっと仰向けにされた。

 更に、顕成は私の両肩の横に手をつき、真上から流し目で見下ろしてくる。


 ど、どういう体勢、これ――

 私は息を飲む。


「だから僕にはもう縁談の話は来ないと思うよ? どうしてくれるの?」


「そ……それはごめん……」


「責任とってくれるよね?」


「え? せきに……」


 顕成はふっと涼しげに笑い、顔を近付けてきて……。


――あのような場面では、黙って目を閉じられるべきでしたよ――


 いつかの右京の言葉を思い出し、私は慌てて瞳を閉じたのだった。


 完

改稿前の作品に入れていただいた感想をコピーします。

------------------------- 感想その1 -------------------------

【投稿者情報】

ユーザID: 912106

投稿者: 有月めぐる


【良い点】

 第七十六話あたりから、惟義の意外な背後関係に顕成の出生の秘密も関わってきて、より面白くなりました。

 道雅様は最後まで、男前のいい役割でしたね。完結おめでとうございます。


【感想その1に対する返信その1】

感想ありがとうございます。面白いと書いてくださり、とても嬉しいです。くどかったり、言い回しがおかしい部分も多々あり、恥ずかしい限りですが、何とか完結まで持って行くことができました。

次巻も執筆中ですので、公開していくのは少し先になるかも知れませんが、よろしくお願いします。

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