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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
最終章 朧月夜の夜に
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百四話

 牛車に戻って顕成が説明すると、吉野は一度驚いた顔をして顕成と私の顔を見比べてからそっと頷いた。

「承知しました。でもそうなると、牛車の到着の方が遅くなるのでは?」

「ゆっくり歩かせて行くつもりだけど、それでも牛車よりは先に着くかもね。門の近くで待った方がいいかな?」

「いえ、お待たせするのも何ですので、平安京へは他の車を借りて入ってください」

「ん。そうさせてもらうよ」

 去り際に、空の牛車を見てふと思いついた。

「吉野一人になっちゃうね……あっ、なんなら藤助も吉野と一緒に乗って話し相手になってあげてよ」

「なんっ、姫様、それはっ」

 吉野は顔を真っ赤にして、止めてと言うように手を左右に振った。

「では私は牛飼いと共に前に乗りますので、後ろから話かけてもらえれば」

 藤助はしれっとした顔で答える。

「いや、そういう事じゃなくて……」

「姫様! 顕成様を待たせていますよ。もう出発されては!」

 吉野は私にこれ以上言わせないという勢いで私の背中を押した。

「そう……、じゃあ行くわね」

 

 馬の背に私を乗せて、顕成はその後ろに乗って手綱を手にする。

 更に手綱を持ってない方の手で、私の腰を軽く抱えるようにして支えた。

「吉野ってまさか……」

「ん?」

「ううん。こっちの話」

「そう?」

 あまり気にも留めていない様子の顕成。

 馬上での体勢を念入りに確認してから、ゆっくりと馬を歩ませ始めた。


「昔も一緒に馬に乗ったの覚えてる?」

 背中に向けて話しかけると、顕成はふっと笑った。

「初めて会った時だよね。よーく覚えてるよ。あの時は君が後ろに乗ったよね」

「あまり上手く扱えなかったけどね。あの後、たくさん練習してある程度乗れるようになったけど」

「うん。裏庭で一人で練習してるの何度か見かけたことあるから知ってる」

「え? そうなの? 全然気付かなかった」

「邪魔にならないよう、こっそり見てたからね。最近はどう? 大人になってからは乗ってないの?」

「機会がないもの。周りも許さないだろうし」

「京では女人の移動は牛車が主流だからね。じゃあ乗馬自体は久し振り?」

「そうね……あ、この前道雅様に乗せてもらったわ」

「なんだ、そっか」

 背中から小さな声で呟くのが聞こえた。

「あ、でも一町か二町分位の短距離だったから一瞬よ」

「ふうん」

 気の入っていない返事が返ってきて、そのまま黙ってしまった。

 パカパカと馬の蹄の音だけが響いている。

 空は茜色に染まって薄暗くなってきていた。


 先の方に、碁盤の目のように整然と区画された街並みが見えてきた。

 京の都はもうすぐそこ。この逢瀬もあと少しで終わりだ。

 ……肝心なことをまだ聞いていない。

 ぽつぽつと灯る灯りを目にしながら、私は少し横を向いて後ろに声をかけた。

「あの、顕成?」

「うん」

「さっきの話だけど……」

「さっき?」

「あれから……大丈夫?」

 顕成は何とも聞かず、またしばらく黙ってしまった。

 静かに馬の背に揺られながら、私は答えを待つ。

 ややあってから、

「……出生の話……?」

とかすれた声が返ってきた。

 私は黙ったまま頷く。

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