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精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる  作者: かざみん
第三章 太古に眠りしドラゴン

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帰郷


***************




 荷を()んだ馬車が港町を出発した。シハナたちへしばしの別れをつげ、(みなと)はスレブニーへ乗って馬車のあとをついていく。物資の輸送のため道は拡張(かくちょう)され、警備の往来(おうらい)がふえて以前より安全な道のりになった。


 港町の沿岸ぞいに建てられた住居へ避難民(ひなんみん)はうつり、周辺にあったテントは撤収(てっしゅう)された。いま建つのは漁師(りょうし)や行商のテントだけだ。


 越冬(えっとう)した小麦の芽が伸びつつある。新芽をみて鼻を鳴らしたスレブニーが道脇の草を食べるのを見守り、荷馬車を見失わないペースでゆっくりすすむ。

丘陵(きゅうりょう)へ差しかかるとブドウ畑がひろがり、むこうの丘で山羊(やぎ)を放牧してる。休眠していたブドウは棒で支えられて列を()す。春の風が吹けば芽のでる時期だとラルフが言っていた。葉を落とした枝は冬のなごりを残していた。


 剪定(せんてい)のおわってないブドウの木を整える小作人の姿がちらほら見える。




 南門をぬけると新しい家が完成して町の人が行き来してる。避難しているあいだに生活の基盤(きばん)が港町へ移り、もどって来ない人もいた。人口は少し減ったけど、もともと北と南の中継地で長閑(のどか)な町だから問題ない。かわりに山辺の村や北城塞都市(きたじょうさいとし)にいた人々がヴァトレーネへ移り住んだ。


 北城塞都市は多くの人が居なくなって以前より衰退(すいたい)してしまった。アッピウスを中心に兵士やその家族がもどり、少しずつ復興(ふっこう)しているとツァルニの書簡に(しる)されていた。




「お兄ちゃん! 」


 南の路地で遊んでいた子供たちの1人が走ってきた。うしろを小さな光りが一途(いちず)についてくる。


「エリーク! 」


 スレブニーから降りると少年は湊の腰元へ抱きついた。髪をかき乱すように頭をなでれば白い歯をみせて破顔(はがん)した。


 エリークの両親は沿岸からヴァトレーネへ移った。素朴(そぼく)な生活をしていた人たちなので(さわ)がしい港町よりこちらの方が住みやすいのだろう、今日はブドウ畑の剪定へ出かけている。


 友達に呼ばれたエリークは路地へ()けていく。湊の肩で()ねていた妖精のベルも少年のところへ舞いもどった。




 南の公園はすぐそこ、スレブニーの手綱(たずな)を引いて歩いた。到着した馬車から荷を運び入れてる。玄関で手伝っていたミラがこちらに気づき、うれしそうな声をあげた。


「ミナト様っ」

「ミラ、ただいま! 」


 ヴァトレーネ邸の修復がおわり、使用人たちはさきに帰って掃除や家主(やぬし)(むか)える準備をしていた。湊も早めに港町をでて手伝う予定だったけど、ラルフの抵抗にあい直前に来るはめになった。


 今朝の抵抗ぶりも(すさ)まじいものだった。おかげでラルフを引き()ったまま歩ける距離は増えたように思う。




 こわれた壁や風呂場は真新(まあたら)しくなり、中庭には若木が植えられていた。手伝う湊が木箱をおいて途中休憩(とちゅうきゅうけい)していたら、ミラが同じくらいの木箱を抱えて通りすぎた。兵士やヒギエアに限らず、みんな湊より力持ちな気がする。


 白い漆喰(しっくい)のなつかしい部屋へ到着した。ベランダや窓は取り替えられ、あたらしい木の香りが(ただよ)ってくる。どこで購入したのか、高級そうな絨毯(じゅうたん)()いてあって足元が暖かい。


 木窓の内側へ(たの)んでいた物が取り付けられていた。閉めても外の光を取りこみ部屋が明るい。


 むこうの世界にあった障子(しょうじ)もどき、と言っても紙の部分はすくなく下半分は細ながい木を(たて)に組んでる。引き戸のすべりが悪いのでラルフに(みつ)ろうをねだることにした。


 湊は荷を片づけ部屋を見まわった。掃除もすみ床や壁はピカピカになってる。ルリアナは姉のいる港町へのこり、新人のメイドさんをミラが指導してる。昼時(ひるどき)になってミラが昼食を(たず)ねてきたけど、断ってある場所へむかう。




 新しい中央橋をこえてヴァトレーネの北側へすすむ。スレブニーを道草(みちくさ)させながら町を移動していたら新築の兵舎がみえた。兵士用の風呂も復活し、住居のそばに食堂と併設(へいせつ)され利便が良くなった。


 ひょっこり顔をのぞかせれば、キッチンから美味しそうな匂いがしてくる。


「親父さん? 」

「ミナト! ああもう、なかなか帰って来ないから心配したぜっ!! 」


 食堂の親父が泣きじゃくってなくて安心した。毛むくじゃらの腕に引き寄せられてハグされる。港町からヴァトレーネの兵舎へ食材を送る時に、親父()ての手紙もちゃんと付けていた。


 お土産(みやげ)胡椒(こしょう)を受けとった親父は料理を作りはじめる。昼の仕込(しこ)みもあって昼食はまたたく間に用意された。豆と肉のスープに香草とカッテージチーズの()えもの、密度の高い塩パン。


「おまえのおかげで皆に好評でなぁ」


 にっかり笑った親父にうながされ、ディップみたいな香草チーズをパンへつけた。ニンニクがほのかに香りパンがすすむ、塩と茶色の親父の料理は進化していた。


「うへ~腹へった~。おっミナトじゃ~ん!? 」


 午前の仕事をおえた兵士たちが食堂へ入ってきて、シヴィルもとなりへ座った。ヴァトレーネの兵士たちは建築や街道の巡回(じゅんかい)、道路づくりで走りまわっている。


「ツァルニがさぁ、山の(とう)を強化するって言いだして大変なんだよ~」


 敵が簡単に侵入できないよう、塔のまわりに壁をつくっているそうだ。毎日材料を山の上へはこび足が筋肉痛だとシヴィルが(なげ)く、しかしどこか楽しそうに目をくるくるさせてる。


「ツァルニは? 」


「今日は休みだよ! 部屋から出られないようにドアを木箱で(ふさ)いだから、いまごろ寝てるんじゃない? 」


 パンをスープへひたしたシヴィルの口が三日月形(みかづきがた)になった。働きすぎのツァルニに対する彼なりの気遣(きづか)いのようだけど、あとで(しか)られる姿が想像できる。


 知ってる兵士たちもあつまってきて近状を伝えあった。(ひげ)もじゃアーバーの腰もすっかり良くなり、仲間たちと山の上へコンクリートの材料を運んでいる。腰を悪くしてからやっと風呂のよさを理解したそうだ。


 スレブニーで町を見まわっていたら、帰郷(ききょう)した人々にも声をかけられる。『名前は分からないが、灰色の馬に乗って困ったところへ颯爽(さっそう)とあらわれる黒髪の人』と湊は呼ばれていた。


 あしたはラルフもヴァトレーネへ帰ってくる。




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