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45話 奥の手

 

「ははははっ! 面白いくらいに簡単に煽られるな、お前」


「やかましい! ボコボコにして絶対泣かしてやる!!」


「泣かすって……ガキかお前は。だが、面白い! やってみろ!!」


 師匠が楽しそうに笑いながら剣を構えながら突撃してくる。

 人を散々煽って、何が面白いんだ、このおっさん!


 いくら師匠でも、まう許さん。

 格の違いを見せてやらぁ!!



「剣技『蛇乱凶宴(じゃらんきょうえん)』!」


 師匠が連続突きを繰り出す。

 しかも、その突きひとつひとつがさっきまで使っていた『蛇乱』そのものだ。


『蛇乱』による不規則な軌道による連続攻撃……これが『蛇乱凶宴』か。


 さっき、師匠は俺のことを甘いって言いましたよね?


 だけど、今度は師匠が甘すぎる!!


「うっ……らぁぁぁぁ!!」

「なっ!?」


 師匠の突きを、俺は全く同じ威力、同じ軌道でやり返す。


 さっきから何回同じ技を見せられたと思ってるんだ?

 並の剣士なら通用するかもしれないけど、俺を相手にするなら考えが甘い。


 あれだけ見せられたら、真似をするくらい訳がない!


 師匠の全ての剣先に、自身の剣先を合わすことで威力を相殺していく。


 いうなれば『蛇乱凶宴返し』だ。


 本当なら防御も回避も余裕だった。

 だけど、あえて実力を見せるためだけに、師匠の技を撃ち落としてみせた。


 相手の剣先にピンポイントで剣を合わせるのは曲芸じみているけど、その分、技を撃ち落とされた側はショックを受けるだろう。



「……バケモノかよ……」


 師匠がボソっと呟く。


 だけど、こっちからしたら、師匠も十分バケモノじみてるけどな。


『蛇乱』を見よう見まねでやってみたけど、想像以上に手首への負担が大きい。


 それをあんなに簡単に扱うんだから、驚きだ。

 師匠が腕を無くしてから、どれだけの鍛錬を積み重ねてきたかがよく分かる。


 俺が師匠の立場になった時、ここまで愚直に剣の修行をできるだろうか……。


「速度でダメなら……これならどうだ!!」


 師匠は体を回転させながら、体をしならせ斬りかかってくる。


「剣技『蛇流牙(じゃりゅうが)』!」


『蛇乱』をベースにして、更に全身に回転を加えることで、威力を増しながら相手を斬る技……ってところか。

 今までの剣技とは違って、より威力に特化した技だな。


 動きを真似して俺も『蛇流牙』を放つこともできるけど……ここは俺の剣技で圧倒しよう!


「剣技『螺電(らでん)』!」


『螺電』は俺の持つ剣技の中でも最速に位置する剣技。

 その剣速は雷をも超える!


 俺の剣と師匠の剣が互いに交差し、そして……


「……んなっ!?」


 師匠の手にしている剣は中心から真っ二つに斬り落とされた。


「剣を砕くのでも折るのでもなく斬る……か。まさかこうも綺麗に斬られるとは思わなかったよ」


 破片ひとつ落とすことなく斬ったからな。

 俺の実力を見せるには十分だろう。


「どうしますか? まだやります?」


 武器破壊……決着の落とし所としては悪くないだろう。

 師匠も満足してくれればいいけど……。


「そうだな……剣を斬られて、とっておきの技も全く通用しない。格の違いってやつをまざまざと見せつけられたよ。正直、今のシナイに勝てる見込みはなさそうだ」


「……なら!」


「ああ……だからこそ、まだやる!」


「っ!? こ、の……頑固者!!」


 師匠は諦めずに三度目の攻撃を仕掛けてくる。

 だけど、半分の長さになった剣で何をする気だ?


「くらえっ!」

「はぁっ!?」


 師匠は、何を血迷ったのか、剣を俺目掛けて投擲してきた。


 血迷ったのか!?


 いくら破壊されたといっても、自分から武器を捨てるなんて。

 しかも、こんな直線的な投擲、当たるはずないでしょ……。


 俺は首を傾けて、師匠の投げた剣を回避する。


「っ!?」


 回避したと同時に、いつの間にか師匠が目と鼻の先まで近づいていた。


 剣の投擲はダミーで、本命は剣に注意を向けている間に距離を詰めることだったか。

 でも、今の師匠は剣を持っていない。


 それでどんな攻撃を……?


「ふっ!!」


 師匠が空手のはずの右手には、いつの間にか短剣が握りしめられていた。


 まさかの隠し剣かよ!


 多分、道着の袖の部分に隠し持ってたな。


 死装束みたいな服を着てたのも伏線か。

 ゆったりとした道着なら短剣を隠し持ってても違和感もないしな。


 一体、何手先を読んでるんだか……。

 でも!


「よっ……と!」


 師匠の隠し剣には少し驚いたけど、警戒を高めていた俺には通用しない。

 努めて冷静に、剣で対応する。


 刀身が短い分、リーチも威力も落ちているから、簡単に剣で受け止められる。


 後は、この剣を受け流せば終わりだな。


「……受け止めたな?」

「えっ?」

「お前なら回避も簡単にできただろ? なぜわざわざ受けた?」


 それは……


「この短剣で策が尽きたと思ったか? それとも受け流してカウンターをすれば終わるとでも思ったか? ……だから、お前は甘いんだよ、シナイ!」


「っ!?」


 なんだ、師匠は何を狙ってるんだ?


 剣も失い、隠し武器も防がれた。

 そんな師匠が使える次の手は……なんだ!?


 何をしてくるか分からないけど、まずは師匠から距離を取って……って、動けない!?


「逃すかよ」

「こっ……の!」


 師匠はいつの間にか短剣を手放していて、俺の裾を掴んで離れないようにする。


 本っ当に抜け目がない!!


 裾を千切って無理やり離れることはできるだろうけど、それでも数瞬の時間を奪われる。

 師匠との決闘において、この一瞬の隙は最悪だ。


「それじゃあ喰らっとけや」


 師匠から風が流れ出す。


「っ!? こ、れは!?」


「風魔法……『風ノ刃(ウィンブレード)』!!」


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