25話 里帰り
「あっ、ライカ! お待たせ」
「いえ、全然待っていませんよ!」
ギルドへの報告が終わり、ライカと約束していた待ち合わせ場所に行くと、既にライカが待っていた。
やっぱり、ライカの方が先だったか。
ライカのことだから、待ってないって言いながらも、大急ぎで自分の用件を終わらせて、俺のことを待ってたんだろうな。
「シナイさんは用事終わりましたか?」
「うん。ギルドマスターと面会してびっくりしたよ」
「マスターと出会ったのですか!?」
「まあね」
ギルドマスターに会ったことを伝えるとライカは驚き出す。
まあ、俺もそんな大物と会うだなんて思ってなかったし、ライカも驚くか。
「今のギルドマスターは、名前や容姿を秘匿していているのに、そんな人と会うことができるだなんて、やはりシナイさんは凄いです!」
驚くのってそっち!?
勝手にライカから俺への評価が上昇していくんだけど……。
てか、ギルドマスターが誰かって公表していないんだ。
まあ、重要な役職だし、色々理由があるんだろう。
「ギルドマスターってどんな方でした?」
「別に特別変わった特徴もないし、厳粛で真面目そうな男の人だったよ」
「そうなんですね。……ちなみに、シナイさんとマスターがやりあったらどちらが強いと思いますか?」
「俺」
勿論、実際にやり合った訳じゃないし、戦いに絶対はない。
ギルバーツの雰囲気や佇まいから、それなりに強いのも分かる。
でも、多分やり合ったら俺の方が強いとは思う。
元ミスリル級の冒険者っていってたけど、何年も前線から離れると実力も鈍るのかな?
……はっ!?
そういえば特に考えずに、つい即答してしまった。
こんな感じで答えたら……
「流石はシナイさんです。例え、相手が誰であろうとも絶対に負けないという揺るがない自信。そしてその自信に裏打ちされた能力。私はこんな素晴らしい人の弟子になれて幸せです!!」
ほらー!
ライカが目を輝かせながら俺を絶賛してくる。
やめて!
俺はそんなにできた人間じゃないから!!
それに今回はギルバーツと戦った場合の予想を聞かれたから、俺が勝つって即答できたけど、その質問がミラだったら答えは変わってくる。
正直、ミラの強さは底が見えなかった。
俺も簡単にやられる気はしないけど、相手の力量が分からないってのは不気味でやりにくいものだ。
だから、もしライカに『ミラと戦ったらどっちが勝つ?』と聞かれたら、答えは『分からない』って答えただろうな。
……そういえば、結局なんでギルバーツよりも強いミラが受付をしているのか理由は聞けなかった。
というよりも、ミラの実力が高すぎるのが謎なんだよな。
最初は、冒険者ギルドの本部だから、雇われてる職員も一流の実力者を揃えているからミラも強いと思ったけど、ここに戻ってくるまでに何人か職員とすれ違ったがあれほどの能力を持つ人はいなかった。
ってなると、ミラの異質さが更に際立っていく。
うーん、謎だー。
「……どうかされましたか?」
ミラについて悩んでいるとライカが声をかけてくる。
「ああ、ごめん、ちょっと考え事をしてただけだよ。……うん、でも悩んでいても答えは出ないから、もういいや。お互いの用事も済んだし、そろそろライカの家に行こうか」
「はい!」
これ以上ミラさんのことを考えていてもしょうがない。
いつか彼女とまた会う機会があれば、その時改めて聞いてみよう。
今はライカの父親であり、僕の師匠でもあるロックス師匠の家に向かおう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都から徒歩で約一時間ほど離れた、小さな名も無き集落に、師匠とライカの家がある。
師匠の家は道場とも併設していて、稽古の後はよく師匠の家にお世話になったもんだ。
「うわー、なつかしいなー」
「ふふふ、おかえりなさい……で、いいんでしょうか?」
いうなれば、これは二十年ぶりの里帰りみたいなものだけど、師匠の家も道場も、古くはなっていたけど、思い出と同じ形、同じ場所にあることで嬉しくなる。
「師匠の家に行く前に道場も少しのぞいていい?」
「ええ、構いませんよ」
ライカの許可も得たことだし、俺は二十年ぶりに道場に足を踏み入れる。
そこで俺は想像もしなかった光景を見ることになる。
「……まじか」
「どうかされましたか?」
そこには、修行に出かける前とほとんど変わらない状態で綺麗に維持されていた道場があった。
もちろん二十年という年月が経っているから、多少傷んでいる箇所はあるが、それでも、今すぐ道場を再開するには十分過ぎるほどの状態だ。
ライカがいうには相当前に剣術道場を畳んでいたはず。
だから、俺は道場のメンテナンスなんてろくにしていないだろうし、とっくにボロボロになっていると思っていた。
「……この道場の維持って誰がしてたの?」
「私が小さい時は父が毎日掃除していましたし、最近は私も掃除したり、私の剣の修行の時に使ったりはしていましたね」
「そっか……よく頑張ったな」
俺は思わずライカの頭を撫でる。
師匠とライカの二人で道場を守り続けてくれたことに感謝の気持ちを伝えたかったんだ。
「なっ、ちょっ、えっ!?」
「……あっ、ごめん!」
ライカの変な声を聞いて急に我にかえった。
無意識でも女性の頭を撫でるなんてどうかしてるだろ。
すぐに手を退けてライカに謝罪する。
「あっ……!」
「本当にごめん。不快にさせたよな……」
「いやいやいや、驚きはしましたけど不快だなんてそんなむしろ私にとってご褒美といいますか物足りなかったといいますかでも今度からはやるときは事前に言っていただけると心の準備ができて助かるのでまたしてくださいね」
俺に気を遣ってくれてるのだろう。
ライカの精一杯のフォローが身に染みる。
「もうしないように気をつけるから大丈夫だよ」
「……もうしてくれないんですか……」
何故かライカが落ち込みだす。
……え?
もしかして頭を撫でてほしいのか?
……いやいや、自惚れるなよ俺。
俺は三十五のアラフォーおじさんだ。
そんなおじさんに触られて喜ぶ女の子なんているはずないよな!
……自分で言ってて悲しくなるけど、しょうがない。
これが現実なんだから。
「よし、それじゃあライカの家に行こうか。師匠もいるよな?」
「そーですねー。いると思いますよー」
ライカが拗ねてるのが少し気になるけど、気を取り直して師匠とライカの家に向かうことにした。




