24話 ギルドマスター
「初めまして。私がこの冒険者ギルドのマスター、ギルバーツだ」
受付の人に案内された部屋に一緒に入るなり、黒い髪をオールバックにした中肉中背の男が挨拶をしてくる。
年齢は俺よりも一回りくらい上だろうか。
この人が冒険者ギルドのトップ……!
雰囲気あるなー……。
「まずはそこにかけてくれ」
「あっ、はい、失礼します」
俺は言われるがまま、近くにあった椅子に座る。
「君がシナイ君だね。単独でワーウルフの『バグ』を討伐したとのことだけど、その時の事を説明してもらっていいかな?」
「はっ、はい!」
別に悪いことをした訳じゃないのに、ギルバーツの厳格な雰囲気につられて思わずかしこまってしまう。
緊張したまま、俺はバグとの戦闘の経緯を簡単に説明する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……っと、大体こんな感じです」
「なるほど、分かりました」
俺が山で修行していたことは省略したけど、今まで人と関わらない生活を送ってきたこと、久しぶりに街に行ったら『バグ』に遭遇した冒険者パーティーと出会ったこと、取り残された冒険者を助けるためにダンジョンに向かったこと。
そして、そこで『バグ』と相対して、俺が勝利したことを簡単に伝えた。
「なるほど……。ミラ、例のものを」
「はい、承知しました」
ギルバーツが部屋に残っていた受付に指示をする。
へー、あの受付の人、ミラって名前なんだ。
ミラは部屋の棚を開けると、そこから袋を取り出し、机の上にそれを置く。
「あのー、これはなんですか?」
「今回、シナイ君が『バグ』討伐した報酬だ。受け取ってくれ」
受け取ってくれって言われても……。
袋の中を開けて確認してみる。
「『バグ』の素材はギルドの方で買い取らせてもらった。その上で、今回の報酬は金貨五百枚だ」
「ごっ……!?」
金貨五百枚だって!?
数年は暮らせるほどの報酬じゃないか。
てか、袋重っ!
「思ったより報酬が低くて不服か?」
いや、不服どころか逆のリアクションなんですわ!
いくらなんでも、魔物を一匹討伐しただけでこの報酬は貰いすぎな気がする。
「シナイ君が冒険者で、かつ、バグの討伐依頼をソロで受けていたら報酬は金貨千枚を超えていただろうがね」
「せっ……!?」
想像を超えた金額に思わず言葉を詰まらせてしまう。
「『バグ』の討伐にはそれだけの価値があるってことだ。それに『バグ』の素材を使った武器や防具は高値で売買される。その売値の一部をシナイ君が手にするのは当然の権利だ」
「はぁ……そうですか。それではお言葉に甘えて受け取らせていただきます」
こんな大金を見せられていまだに現実感がない。
でも、無一文の俺にこの大金は正直助かる。
ギルバーツの言う通りに金貨を受け取ることにした。
「それで、シナイ君はこれからどうする予定なのかな? もしよければ冒険者ギルドに登録しないか?」
「俺が冒険者にですか?」
「ああ。最初は最下位のアイアン級の冒険者から始まるが、単独で『バグ』を討伐できる君ならゴールドやプラチナはおろか、最上位のミスリル級も夢じゃないと思うが」
ミスリル級か……。
ライカが言っていたけど、冒険者にはランクがあって、そのランクに見合ったクエストを受けてるんだよな。
確か、下から順にアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと続いて、最上位にミスリルってランクがあるって言っていたはず。
ちなみに、ミスリル級の冒険者は『勇者』とも言われ、その実力は一人で一国の騎士団にも匹敵するレベルと言われているらしい。
「自分はそんな器じゃないですよ。それに当分の生活費は頂いたのでこれで少しゆっくりしようと思います」
「そうか。優秀な冒険者を獲得できると思って期待していたんだが。残念だ」
「すいません」
「今日はわざわざ来てくれてすまなかった。帰り道はわかるかな? 本当ならミラに案内を頼みたいところだけど、まだ仕事があるのでな」
「はい、来た道を戻るだけなので大丈夫です」
どうやら用事も終わったようだ。
ライカを待たせる訳にもいかないし、早くギルドの入り口まで戻らないとな。
俺は部屋を出ようとする直前で、ずっと気になっていたことを聞くことにする。
「ああ、すいません、最後に一つ質問していいですか?」
「なんだい?」
「ギルバーツさんって元冒険者だったりします?」
「ああ。一応ミスリル級の冒険者だったが」
えっ、ミスリル級だったのか!?
強いんだろうと思ってたけど、まさか最上位の冒険者だったとは。
ギルドマスターになるにはそれくらいの実力が必要なんだろう。
……だけど、それだと更に疑問点が出てくる。
「ギルバーツさんがミスリル級なら、ミラさんは何級なんですか?」
「……どういうことだ?」
どういうことって言われても、そのまんまの意味なんだけど。
「だって、ミラさんの方がギルバーツさんよりも強いですよね?」
魔法のことはよく分からないけど、それでも人の力量を測る目には自信がある。
ギルバーツさんもそれなりの手練だと思うが、それでもミラさんの方が数段実力が上なのは感じれる。
「「……っ!?」」
俺からの指摘に二人は言葉を詰まらせたようだ。
……あれ?
何か余計な事言っちゃったかな?
「あー、変な事言ってすいませんでした! それじゃあ失礼します!!」
変な空気に耐えられなくなり、俺は逃げるようにその場から出ていくことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「驚きましたね。まさか見破られるとは」
「ええ。シナイさん……名前を覚えておきましょう」
シナイが去った部屋でギルバーツとミラが会話をする。
「それにしても、そろそろ受付業務なんてしないでギルドマスターの仕事をしてくださいよ、ミラ様」
「嫌ですよ。面倒事は優秀な秘書である貴方がやりなさい、ギルバーツ」
そう、ギルバーツはこの冒険者ギルドのマスターではない。
本当のマスターはこの白髪の女性、ミラである。
「自分の実力をミスリル級なんて、よくそんな嘘をつけましたね。貴方は現役時代、プラチナ級だったじゃないですか」
「あなたの代理としてマスター業務をしているので、肩書きもお借りしただけですよ。元ミスリル級冒険者のミラ様」
「それにしても、あれほど簡単に実力を見破られたのは初めての経験です。いつかお手合わせしてみたいですねー」
「……絶対にやめてください。あなたが本気で戦ったら街が二、三個は消えてしまいます」
「うふふ、それで済めばいいですけどね」
ミラもまた、シナイの底知れない強さを把握していた。
「シナイさんに関する報告は全て私を通してくださいね」
「かしこまりました」
ミラ様に目をつけられるなんて、シナイ君はついてないなと、ギルバーツは密かに同情するのだった。




