放たれた魔弾。トリガーを引いたのは自分。向けた方向は内向き。
100話を超えて連載してきたがここで自分の本業を言わせてもらえば農家だ。
農家といえば毎年自殺率上位に入る職業。
自分が見たデータだと1位が小学校の教師、2位が漁師。で3位辺りに農家があったかな。
農家の仕事が嫌で仕方ない、というわけでもない。
まぁ嫌な事は嫌だが。
それよりも何故農家をやっているのか、といえばよくある長男だから、という理由だ。
農家になる前も一応仕事はしていたが非正規の工場派遣だった。
それでも何とか抜け出したい、と当初は思っていたが稼いだ金は親に「これまで育ててやった恩返し代」として取られるし、加えて工場で働いていた頃から農家の手伝いをしなきゃならなかった。
勿論、有給なんて全部手伝いに消える。
金は貯まらないし、遊びにもいけない。
周りの友人が正規、非正規限らず、若さに任せて遊んだりしている中で経験するための金も、使える時間も、そして体力もなかった。
勿論、そこだけを見れば自分が特段不幸というわけでもない。
実家の手伝い、あるいは介護をしながら自分の仕事もこなせる人間からすればこんな言葉は甘えてると言われても仕方ないかな、とは思う。
とはいえそうした社会経験の不足に毒親育ちに加えてイジメの被害者。
自分の得た物は親に取られ、親に逆らえない精神状態になっていたし、立派な弱者男性だ。
親に逆らえない精神状態で夢もなく、結果として仕事を辞めて農家を継げと言われて農家をやるようになった。
それでも何とか筋トレという唯一の拠り所でストレスを解消しながら何とかやってはきた。
自分の欲を消して誰にも期待することなくただ平坦な人生を送れれば良い、と思っていた。
去年、正確には一昨年までは。
実際、親自身もそう思っていたのだろうが自分を殺そう、我慢しよう、と思っていた自分と違って親は欲深い。
「お前のため」という言葉を盾にして若手農家の研修というかそうしたある種のエリート農家にするための申し込みをした。勿論、一応自分がそれを望んだ形にはなったが拒否できないのが当時の自分だった。
結果としてはその研修が自殺を実行する最後の一押しとなった。
何故なら自分以外はやる気のある人間ばかりで社会経験も自分なんかとはまるで違う。
嫌嫌農家になり、嫌嫌その研修を受けた自分は場違い感を感じた。
それでも何とか頑張った。楽しい、と思った事は研修中一度もない。
それでも研修を通して何か自分の中で変わるかもしれない。
結果として変わるには変わった。
自分は死んだ方が良いという考え方に。
勿論、別にその研修でイジメられたとか、そうした事ではない。
社会経験不足、農家としての覚悟、知識、技術の不足。
全てその場の誰よりも劣っていたがそれ自体はやはり嫌嫌農家をやっている以上、仕方がないし、自分が悪い。
自分が考えを変えたのは研修でのとある夕飯、その時は研修施設の外でのバーベキューだった。
正確にはバーベキューの後に講師に割り当てられた部屋での少人数での飲みだった。
その部屋での飲みでは引率の講師から説教地味た会話を聞きながらの飲みだった。
何時もの事で自分には愛想笑いと頷くぐらいしか出来ない居心地の悪い環境ではあったがそれも農家として、と何とかこなしていた。
その時の説教はその日の研修でたまたま災害などに対して畑の被害の心構えで常に他人のせいにすることなく、自己責任とするように、という心構えを講義でしたこともあってその飲み会でも自己責任の大切さを説教されていた。
すると突然ドアが開き、その施設のスタッフがやってきて自分達研修生のいる前で引率の講師に対して睨みつけながら「外で酔っ払って施設の建物に向かって小便をした跡が見つかった。この事は上に報告しておく」
という非常に恥ずべき事だった。
問題はここからだ。
引率の講師は謝り倒した後、施設のスタッフが部屋から去ると口を開いた。
最初は酔っ払って立ちションした馬鹿な研修生に対して怒りを爆発させていたが、次第に怒りの矛先が変わっていく。
「何故、あのスタッフはこんな事をわざわざ言いに来たと思う?スーツを着た会社のサラリーマン相手ならこんな事わざわざ言いに来ない。農家だからって見下してるんだよ。」
それからは日本社会への不平不満の暴露大会。
農業は食べ物を作るから他の娯楽の延長の仕事と違って人間が滅ばない限り未来永劫絶対に無くならない職業。
農家は食を支えているからもっと丁重に扱われるべきだ、不当に見下されている。挙句の果てに他の業種を見下す発言。
加えてそれをその場にいた研修生にも同調を求め、研修生も止める事なくそうだそうだ、と同調した。
講義での自己責任論、そして少し前の厳しい農家としての心構えの説教とは真逆。
他責の上に責任転嫁、さらには傲慢な理屈と我儘な欲望。
飲みの席だった、何処にでもある事。
確かにそうかもしれない。社会経験が非常に粗末なものしかない自分には農家という物をあまりに清廉潔白として捉えすぎていただけなのかもしれない。
農家って所詮はこんな物、というだけの事実かもしれないがコレを発したのがエリート農家育成の研修に引率としてやってくる県でも有数の農家の代表者ともいえる人間の発した言葉、そしてそれに同調した若手農家達。
それを素面で傍観していた自分だがその日から農家と言う物に対して考え方を変えていった。
パズルのピースがハマったように。
あるいはルービックキューブが決まっていくように。
落ちゲーで連鎖が繋がるように。
ドンドンドンドン思考が進んだ。
そして結論としては日本の停滞した現状を作り出したのは農家だと。
日本が変わるには農家が変わるしかない。
日本が滅ぶとしたら農家がその起点となる。
この結論に至るまでの考え方は次回以降に書きたいと思う。
そして、その農家に自分も嫌嫌ながらなってしまっている。
どうしたら良い?と考えるが無能で無力な自分にできる事などない。
そうして自分はもう自分の欲を殺して平坦に生きていく事すら農家である以上、苦痛しか伴わない、と感じた。
そして自分を終わらせる事を選んだ。
自分語り、悲劇のヒーローと感じても良い。
もしかしたら読者の中には農家がいるかもしれないから憤慨しているかもしれない。
日本の問題はそんな単純じゃないんだよ、と思う人もいるかもしれない。
確かにそうだ。複雑に様々な問題が絡み合っている。
だか逆算すれば人間のもっとも原始的な欲望である食欲、それに対応し、世界でも最古の職業でもある農家があらゆる問題に根を張り、関わりを持つ。
絡み合って複雑なプログラム、機械であっても分解して掘り下げてみれば0と1。オンとオフ。単純な事を幾重にも合わせた物。
勿論、ただの一人の人間の素人考えだ。知識も足りなければ考えも浅い。
勝手に考え込んで勝手に死ぬしかないと考えて、勝手に実行して失敗しただけではある。
自分で考えた自分の教訓だ。
弱者男性の自虐ネタのエンタメとしてバカにしながら見ても良いし、教訓として受け取り自身の考え方のパーツにしてもいい。
ただ自分は自身の溜め込んだ物を解き放つだけの自慰行為の延長。
究極的には読み手の自由。
案の定ヘラッた気もするが今後も読んでくれるならまた次回。
毒親でなければ、イジメがなければ、農家を継がなければ。そんな風には思わないでもないが最早過去の事。
こうなってしまった以上自己責任だし受け入れる事しかできない。
かといって受け入れた先に何かあるわけでもない。
夢などないし、欲もない。
だが平坦な道、刺激のない道、苦痛しか感じない道でも考える事は出来る。
適当に生きてきた。これからも適当にやるさ。