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「やだっ、どうしてそんな嘘をつくの!?」
突然甲高い声で目を潤ませ訴えた言葉に、私は眉を顰めた。
「ご自分でドリンクをかけた癖に、わたくしのせいだと仰るのですね!?なんて濡れ衣かしら!ひどい!」
うっうっ、とわざとらしく顔を覆って泣き声をあげる。
「........な、にを」
ドレスにシミをつくった令嬢は、目を見開き信じられないものを見る表情だ。それもそうだ。彼女が言っていることは支離滅裂。一体何がしたいというのか。
「どうした、ジェシカ」
「殿下~」
戻った王太子殿下の腕に絡みつき儚く消え入りそうな声で泣きついた。彼はそんな彼女を庇護するように片腕に抱きすくめる。
「あの方が.....ドレスにドリンクをかけられたって。わたくしは何もしていないのに.....ひどい嘘だわ」
「なっ、おい、そこのご令嬢。それは本当か!」
「....あ、そ、それは」
トランドル男爵令嬢を背中側に庇って、ご令嬢を糾弾する王太子殿下は鬼の形相だ。その高圧的な態度に震えて彼女は何も言えない。
それを肯定と受け取った殿下は顔を真っ赤にして、プルプル震え、殊更怒りを強めた。
「何ということだ!ジェシカの美貌に嫉妬したか!どんな理由があろうと罪をなすりつけようなど、なんと愚かな。お前、どこの娘だ」
「あら、嫌ですわ殿下。わたくしの学院に通っているテーナ子爵家のリルハ嬢ですわよ」
テーナ子爵?留学生でなく?と私は首を捻った。
彼は高齢で、子供が居ると聞いたことがなかった。
仮にも王妃教育を受けていた身だ。貴族の状況は把握しているつもりだ。
.....遠縁の子を養子にしたのだろうか。
「ジェシカはよく知っているな。皆の顔や名前をきちんと覚えて礼を尽くす、女神だ」
私は、いや当然でしょうとツッコミたくなるがことの成り行きを見つめた。
「うふふ、お恥ずかしいですわ殿下」
「リルハ・テーナ子爵令嬢。顔と名は覚えた。ジェシカ・トランドル男爵令嬢にいわれもない罪を着せようとした愚かな行い、悔い改めよ。おい、この女を牢に連れて行け」
その言葉を聞いてリルハ嬢に向かって兵が動き出した。
「.....あの。少々宜しいでしょうか?」
私は壁際に置かれた白い革張りソファから立ち上がり、読んでいた本を胸に抱えて、小さく片手を挙げた。
「....何だ、ジャスミン・リーフェント公爵令嬢」
私の声に、数メートル先で動いていた兵と王太子殿下、トランドル男爵令嬢、リルハ嬢が静止する。
殿下はピクッと肩を震わせて冷たい視線をこちらに向けた。別に期待はしていないが、面倒だと前面に出す姿にため息が込み上げた。しかし、言わねばなるまい。
「リルハ・テーナ子爵令嬢は無実です」
「は?」
私の訴えに殿下が間の抜けた声で聞き返す。
あなた、仮にも王太子殿下でしょう。舞踏会の最中に素が出てしまっておりますよ?
心で毒付きながら、私は近くの給仕にまずリルハ嬢にタオルを持ってくるよう指示した。
それからゆっくりと殿下とトランドル男爵令嬢に語りかけた。
「.....私、ここから一部始終を見ておりました。彼女にドリンクをかけたのはトランドル男爵令嬢です」
「なっ、なにを!わたくしがするわけないでしょう!」
カッと顔を赤くしたトランドル男爵令嬢は、私の身分が公爵令嬢であることなんて丸無視して、噛み付いてきた。一部の貴族がその態度に目を眇めている。




