1-2-23 終わらない孤独
少し短いです。
腕に重い感触があった。
片腕は柔らかい感触が、もう片方には誰かの乗る感触だ。柔らかい感触は何かよくわかっている。抱きついてきているリコで寝息をスースーとたてている。
「……うにゅ……お兄さん……起きたですか」
「うん、ああ、今ね。起こしてごめん」
「いいですぅ」
本当に寝る前に体を洗って正解だったと思う。血だらけの体じゃリコを抱き寄せることも、抱きとめること出来やしないから。
リコが体を起こしてくれたので上半身が自由になった。ゆっくりと誰に乗られているのか分からない腕を引き抜く。
上半身を起こしたのにまた寝息を立て始めたリコを見て笑が零れてしまう。なんだろう、すごく可愛すぎて心がすごいことになってきた。こんなにも語彙力のなさを呪うことが来るなんて初めてだ。
まだ眠そうなリコの体をゆっくりと倒して頭を撫でる。開きかけていた目が撫でることによってゆっくりと閉じていった。
方やもう片方の手を陣取っていた人は枕を失ったからか、手で辺りを探っている。パタッと見つけて微笑んだかと思うとそれを抱き寄せる。
残念、それは俺ではなくリコだ。
明るく振舞ってくれていたリーナさんの頭を撫でて、その頬を緩みを大きくさせる。その後に腕を取られて赤ん坊のように指をしゃぶられたけど、先程までの高速に比べれば幾分も楽である程度気が済むまでそのままでいた。
ダーインスレイヴを片手に外へ出る。
宿屋の小さな庭で剣を素振りしてみた。特に理由はない。寝ていたからといって、平均睡眠時間しか寝ていないから体が鈍ったわけでもないし。
振り下ろしの速度はかなり上がったと思う。よくある『〜ロス』みたいな誰かを殺して心が不安定になるとかもない。あれが最善の策だし生かしていれば逃げられた可能性もある。……それに殺すことで自分の覚悟も証明出来た。地球ならどんなことがあってもやってはいけないことだ。
「……剣に迷いがありますよ」
「シルク……」
へらっと笑いながら得物を肩に担ぎ俺を見つめる。いや、俺というよりも俺の振る剣にかな。
「どうかしましたか? 浮かない顔をしていますが」
「……いや、特には」
隠すつもりではなかったのに返答は本心を出させない。それが俺の望んでいることなのか、もしくは俺の本心自体がないということで言い訳をしたいのかもしれない。
「……今回の戦いで得られるものは多かったです。ヨーヘイさんのおかげでたくさんの証拠と貴族の検挙、それに非合法な合成による奴隷の殺害などが露見しましたから」
「確かに」
「加えてヨーヘイさんの本当の話し方を知ることが出来ましたし」
くすりと口元を隠しながら笑う。
俺もシルクの言葉を聞いて口元をササッと隠してしまう。それがとても愉快だったのか、シルクは口元を隠すのをやめて、大声で笑っていた。
「すいません」
「気にしていませんよ。一度死線を乗り越えた者同士、友情を深めてもいいのではないでしょうか」
「……分かった、この話し方でいかせてもらう。肩苦しい話し方は本当は嫌いだったんだ」
シルクはふんふんと首を縦に振る。
何かがそんなに嬉しかったのだろうか。
その後は蠱毒戦での話を続けた。幹部の強さとか戦った敵の情報とか、そこら辺の交換に近かったけど、幹部の一人を倒した話をしている最中にシルクの言葉が不意に詰まる。
「……ヨーヘイさんの活躍はすごかったです。僕とは大違いで」
肺から無理やり出てきたような言葉。
どこか苦しげで訴えかけてくるような言葉。
「そんなことはない。……もしそうならリコを危険な目に会わせることはなかった……」
「それは元から決まっていたことです。貴族に、領主に見初められた瞬間に親子に危機が迫っているのは明白ですから。……そうそう、遂に領主家に今夜、攻撃を仕掛けるようですよ。ネムル様の策略通り、誰も逃げられませんのでご安心を。……来ますか?」
俺は小さく首を縦に振る。
元よりそのつもりだし領主には一言言わないと気が済まないからな。対してシルクははぁとため息をついてから宿の中を指さす。
「少し話をしませんか? 僕の過去の話です。もしかしたらヨーヘイさんの心の迷いに光をもたらすかもしれませんし」
「……ああ」
本当に高ランク冒険者はすごいと思う。
僕の表情と視線だけで俺が悩んでいることを理解しているのだから。これが経験の差かもしれない。
俺は先に入るシルクの後ろをついていく。
「あっ、お兄さん! ……と、シルク様?」
「ああ、お久しぶりです。少しだけヨーヘイさんとお話がしたくて……。出来れば人払いをリーナさんに頼んでは貰えませんか?」
「任せて欲しいです!」
例え身分が違っていても低姿勢で優しく接する。俺はそんなシルクを見て元の生活の中でもこんな存在がいてくれれば、なんて今更なことを考えてしまう。
張り切るリコの頭を撫でながら「無理はするなよ」と言うと、「当たり前です!」と可愛らしい声が返ってきた。
リコの遠ざかっていく背中。
シルクはその頬を綻ばせて小さく聞いてきた。
「これでも殺すことはいけないと思いますか?」
「っ……分からない……。俺は……助けたことは間違いではない……と信じたい……」
確信をつく言葉に俺はただ思ったことをそのまま吐露するしかなかった。決心がつかない。ロスはないが正しい行いかどうかも分からない。それが常識だった。
染み付いた常識はそう簡単に剥がれはしない。殺人が絶対悪だと教えられれば、たとえ心を押し殺したとしても悪いことをしたと思わざるを得ない。
俺はまさにそれだった。
気がついていても知らないふりをして、何かで誤魔化そうとしている。それこそが生きることに必要であって、不必要でもある逃げというものだった。
「それでは話でもしましょうか」
椅子に座り対面越しにシルクの顔を見つめる。若いなりにも苦労をしたのだろう。その目に迷いはない。
「……まず僕の話は生まれた時から始まります」
◇◇◇
僕は田舎の農村で生まれました。
何の変哲もない、農作物を耕し売ることで儲ける在り来りな村です。その中でも僕は恵まれていたかもしれません。豪商の娘である母とBランク冒険者であった父の元で生まれたのですから。
冷害があれば母の父に頼み村は手助けをしてもらい、豊作であれば安く仕入れさせ得が出やすいようにする。
魔物が出れば父が守り、強い敵ならば父の作戦の元、防衛戦を張り援軍を待つ。そんな持ちつ持たれつの関係で村は発展していました。
そんな二人の息子ということもあり僕はとてつもない期待と信頼の中で蝶よ花よと育てられます。
そこで一人の少女と出会いました。
名前はエリザ、普通の村人の娘です。
「エリザ、今日はどこへ行こう?」
「あの山を攻略しましょ!」
その頃の僕達は慢心していました。
恥ずかしい話、その頃の僕達は天才や神童ともてはやされていましたから。それに加えて盾と片手剣の前衛の僕と、杖とローブを装備した魔法使いの後衛のエリザの前では、ゴブリン程度なら余裕でしたから。
父にはかなり反対されましたが、山の手前のところまで探検するので辞めることで話の折り合いがつきました。まだ僕もエリザも五歳の時の話です。
先に書かれた? シルクの過去編を書きます。どうしてシルクが強くなることを決意したのか。そこら辺を書いていこうと思います。
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