1ー2ー24 始まる孤独
行く途中の道でオークが出るという計算外なことはありましたが僕達には楽勝でした。
「オークすら簡単に倒せる僕達なら山の奥に入るのなんて簡単だよ!」
「そうよね! いっぱい魔物を倒して皆を驚かせましょ!」
こんな浅はかな考えが間違いでした。
僕達はそこで話してはいけないものを外に出してしまったんです。どこにも知られていない、伝説にすら残っていない太古の魔物を。
僕達の村では絶対にしてはいけないことが三つあります。一つ目に殺人です。これはどこも変わりないと思います。
二つ目に嘘をつくことです。村が繁栄してきた一番の理由は正直に話し生きていくことで他のどこよりも幸せに生きていけると考えられていました。
三つ目に森の深部に入ることです。
これは僕達も、村の誰も理由を知りませんでした。今となっては行く勇気すらありませんが昔の無知な僕達は三つ目の掟を破ります。Sランクの魔物がたくさんいる中で僕達は無力です。ですが僕達は幸運でした。そんな敵とも出会うことなく一番の深部まで行けたのですから。
……あの時に死んでいればよかったと、エリザに帰るように言えばよかったと思っています。終わったことは変えられないですけど、もし出来るならあの時に戻りたいです。
少し脱線してしまいましたが僕達は最深部であるものを見つけてしまいました。
「赤い色の……門……?」
「エリザ知っているよ? これはね、勇者様が知らせたジンジャっていうののトリイっていうものらしいんだ」
「エリザは物知りだね。……でもここにトリイって……なんでだろう……」
トリイと呼ばれる門が五層になって連なっていました。幼い目から見ても感じ取れる異変です。
「きっとこの奥に宝物でも埋まっているんだよ!」
「それならそれを持って帰ればもっと褒めてもらえるね! 早く行こ!」
一歩踏み出しました。
一つ目のトリイの中に入った瞬間に背筋が凍ります。一度も体験したことがない死という感覚でした。
「ヒッ……」
悲鳴をあげることが精一杯。
僕達はそこで腰を抜かしてしまいました。
赤いトリイが余計に赤くなってきた時にもっとおかしなことが起こります。
「行かなきゃ……」
「エリザ……?」
僕の隣にいたエリザが奥へと向かい始めたんです。目は白一色で口は半笑い、ただ「行かなきゃ」と繰り返すだけで僕の言葉には返事がありませんでした。
不思議とその時には恐怖はありませんでした。僕は今でも思っています。あれはトリイの奥にいる存在の試練だったんだと。
奥に向かうと一匹の大きな狐がいました。
幾重にも重なる大きな尻尾を丸めてエリザを見た瞬間に鳴き声をあげました。この狐が僕が蠱毒で見かけた狐です。
そしてその狐がエリザにキスをした時に試練の中身を知ります。狐は消えていきエリザの体が青く発光しました。そう狐はただ僕かエリザのどちらかがへばるのを待っていたんです。
片方がへばればもう片方はどうでもいい。狐の狙いはエリザとなっていましたが、もし少しでも僕の方が早く倒れていたら。……その時には僕はここにはいなかったかもしれません。
狐となってしまったエリザに元の面影はありませんでした。一言「コン」と鳴いた後、上空に飛び立ちます。僕はその時に意識を失ってしまいました。
その後はどうしたのか覚えていません。
ただ一つだけ覚えているのは命からがら帰ってきた村に人はいませんでした。至る所に転がる死体、死体、死体。
街の影に見慣れた服の人を見かけました。
丁寧に四つの骸が重なっていて黒く燃えカスのようになっていましたが、今でもよく覚えています。その人達は僕とエリザの両親でした。
吐き出してすぐに復帰することは難しく、さすがに幼い僕でもどうすればいいのか悩んでいました。ご飯を食べようにも何もない。
だから僕はあることを決めました。
村を捨てて強くなろうと。
狐を倒して願わくば取り憑かれたエリザを救い出そうと。
僕は家の奥に仕舞われた父親の肩身の片手剣とお金を手に森で暮らし始めました。最初は火魔法を、次に水魔法を完全に扱えるようになって、十二になるまで洞窟で暮らしました。
そして街に来て今に至るわけです。
◇◇◇
「今でもエリザのことは大切ですし愛しています。ですが、もし救えないのならば僕はエリザを殺すでしょう。ヨーヘイにそこまでの勇気はありますか?」
「……」
「僕は村には戻れません。掟を全てを破り、あまつさえ全てを失ってしまったのですから。ですがヨーヘイはそんなことありませんよね?」
「……確かに」
「自信を持ってください。少なくとも僕はヨーヘイを見て救われました。求めていたものを見つけ出すことが出来たのですから」
シルクは俺の顔を見て微笑んでくる。
そして手を取って一言だけ呟いた。
「僕はヨーヘイを信じています」
その言葉だけを残してシルクはどこかへと消えてしまった。
信じている。
俺にだって信じているものはある。今だって信じたくないものもある。
セイヤ兄を……俺なら殺せるのか。
シルクの覚悟というものはそれだけのものだ。
仲間を守りたくはないのか。
守りたいから全員を帝国に向かうように話して王国を出たんだ。
迷う必要がどこにあるのか。
いや、迷うべきだ。
俺がどうして戦うのか。
その理由を知るためには迷わなくてはいけないのだから。
きっとシルクも悩んだんだ。
結果、そういう結論に至ったんだ。
殺してはいけない。
そんな既成概念に縛られていては誰も救えない。こうやってもがいて水中から口を出して呼吸をしようとする俺すらも……。
「お兄さん? 水です」
「……うん? ああ、リコか……」
どれだけ悩んでいたんだろうか。
横から水を差し出すリコが俺の顔を見ていた。全然気が付かなかった。普段ならこんなことはないのに。
時間は……まだ日はくれていない。
「思い詰めた顔をしているのです。まるで明日には死んでしまいそうな、そんな雰囲気です」
「……いやいや、さすがに死ねないから」
「……笑顔に元気がないです」
すごいな、割と頑張って笑ったつもりなんだけど……。学校にいた頃なら誰でも騙せることの出来た万能な存在が、こうも簡単に看破されると悲しくなるな。
「シルク様となんの話をしていたのです?」
「作戦の話だよ。後は結果報告かな」
「……」
リコは俺の顔を見て訝しげな目をしてくる。
嘘はついていないはずだ。
「誤魔化しているのです。リコの共感の前には無意味なのですよ?」
「……ただ殺す必要性があったのかなって思っているだけだよ。俺はリコとリーナさんを守るためにたくさんに人を殺したからね」
「……もし殺さなかったら逆恨みでリコ達の方に向かってきていたかもしれないです。領主に話が漏れてしまっていたかもしれないです。それでも悩んでいるのですか?」
でも、それは俺の言い訳に過ぎない。
そんなことは言えなかった。大切だから殺すということは許されることであっても、俺の常識というものがそれを悩ませてくるのだ。
命は金よりも軽い、なんてよく言えたものだと思う。俺には十分、重かった。シルクのように俺は仲間を殺せるだけの覚悟はない。好きな人を殺せやしない。
……ああ、そっか。そうだよね。
「殺すんじゃない。……守るだけだよ」
「お兄さん?」
「勘違いしていたみたいだ。俺はただ殺すことで守っただけ。相手にも何か守るべきものがあって向かってきただけだ」
これも言い訳かもしれない。
でもそれ以上に納得のいく言い訳がなかった。
「最後まで俺は自分勝手だ。リコを守りたいっていう言い訳を失いたくないから、ワガママに新しく言い訳を作って殺していたのだから」
「……それでもいいですよ。いつかは乗り越えられるです」
「……そっか、なら今夜は一緒に寝てくれるか? 一人じゃ眠れなさそうだし」
リコが大きな声で「うん!」と返事をしてきた。本当に眠れなさそうだ。大切な人が近くにいてくれれば俺はなんにでもなれる。だから守るだけ、言い訳を失って、また無色の何かにはなりたくないのだから。
俺はリコと指切りをして「リーナさんにも」と聞いてみた。結果はOKだったので早く仕事を終わらせてこよう。
俺は準備を終えてからネムルのいる場所に向かった。
すみません。ここからがいい所なのですが用事が立て込んでいて二つの作品を同時に書いていられません。
ですので2月いっぱいまで投稿を控えさせてもらいます。もしかしたら一月中に出せれば出しますが期待しないでください。




