1-2-18 蠱毒戦2
シルクとロイの関係性が書かれている話です
後、話の都合上短くしています。書き出しはあるかもです。
シルクは即座に背負っていた両手剣を手に取る。二十や三十はいる人の中、彼は武器を構えた。その時に能力を発動してはいない。
解いた後もシルクに気づくものはいない。当たり前だ、働く者達の目には生気なんてものはないのだから。
『潰さないと。僕の活躍次第で作戦は失敗するかもしれない。……そう考えるのはさすがに傲慢かな』
無意識にシルクは笑う。
強敵が出たから、興奮しているから。そんなありきたりな理由だけではない。差というものがこれ程までに悲しくて嬉しいものだと初めて感じたから。
「僕は! 星の使いのリーダー、シルク! 故あって貴様らを断罪する!」
右手に付けられた腕輪に左指でなぞる。
一瞬にしてその呟きに近い声はトンネルで響く声のごとく周囲に伝わっていく。笑顔によって出来た溝が深くなるのを自覚しながら、先よりも大きな声を上げた。
「蠱毒! 僕は君達という存在を許すつもりはない! 街の平和のためにやられるがいい!」
そこにはただ街を守るだけのヒーローという見た目ではない男がいた。何かを奪われたような、そんな悲しみを瞳の奥に隠しながら大声を上げる何か。
そしてそこに人が集まり始める。
それはさながら音に反応して群がるゾンビのようで気持ち悪さばかりを募らせた。周囲の人も顔を顰めながら武器手に取り、そして、吹っ飛んでいく。
何人もの人が一薙でくの字に折れ曲がり吹き飛ばされる。さすがに驚きを隠せない人達は一瞬行動を遅らせてしまった。
「変幻、幻に飲まれていなさい」
変幻の弱点といえば一度見せている幻を上書きすることが出来ないことである。つまりはシルクが視界に入らないように幻を見せていたならば、行動不能にさせるための幻は見せられない。
不殺の精神、なんて大層なものをシルクが持ち合わせているわけではない。それでも助けられる命や改心させられるものが相手ならば殺す気などサラサラない。
「さすがは有望株である冒険者の一人ですね」
「……ロイか。そうでもないさ。さあ、来たということは作戦の続きでしょ。始めようよ」
褒められても良しとしない。
良しとすればあの時の誓いは無駄になってしまうから。約束を違えてしまうこと、それだけは絶対に許容することが出来なかった。
全員の捕縛が済んですぐにシルクは駆け出した。住民や雑魚兵は仲間に任せればいい。シルクが与えられた行動はロイと敵を倒すことと、先の魔法具の起動のみだ。
奴隷商館と書かれた扉に手をかける。
「……そうか、ドット君も戦っているんですね」
大きな爆発音が響きシルクはそう呟いた。
「ここからが本番ですよ。こんな大きな音がするということは彼も本気ということです」
シルクは小さく首肯した。
同時に開けようと試みるが鍵がかかっているのか開けることが出来ない。小さく舌打ちをしてから手に持つ両手剣で扉を切り刻む。
シルクの見たこともない姿にロイは驚きながらも手に持つ杖を前に構えた。
「火球撃葬」
多重魔法は普通才能がある者でも簡単に行うことなど出来ない。ましてや切り札として使う程の高度な方法をロイは片手間で撃ち込んでいく。
何かに焦っていたのか、いきなり開いた扉に驚いて構えるすきもなく鎧を纏う人達にそれは当たっていった。
威力を抑えているのか、中にいた人達は気絶するだけで済んでいるが、それでも大火傷は免れることが出来ない。
「……火球の多重詠唱。さすがですね」
「あんな頑強な扉を叩き切ったシルクには言われたくないね。私はこれでも賢者の後継として名前が上がるくらいなのですから当然でしょう」
才能があるのは当たり前であって、その自分すらも驚かせるシルクの方がおかしい。
そうロイは言ったのだがシルクはさほど気にした様子もなく「そうですよね」と笑った。
「……なにか来ます」
「分かってるよ。多分、Bランクほどの魔物かな。……やるぞ」
「ええ……」
大きな鬼を前にしてロイは杖を突き出し虚空から五本の剣を浮かばせる。シルクはそれを見てから駆け出し現れた大鬼の、オーガの腹を斬った。
「幻惑」
オーガは雄叫びを上げ腹を抱えるが不思議そうな顔をするだけだ。それもそうだ、切られたはずの腹から出血はなくピンク色のモヤが出ているだけなのだから。
「座礁」
オーガの顔が引き攣る。
腹からいくつもの剣が飛び出し切り刻んでいたのだから。体を動かそうにも言うことすら聞かない。
「……私の能力は敵を動かせなくさせるんだよ。だから無理に動かなくてもいいさ」
嘲笑気味に頬を吊り上げ杖でオーガの頭を叩く。瞬間、爆発を起こし思い何かが倒れる音が響いた。
「こんなに強い魔物を使役する人は蠱毒にはいなかったはずなんだけどな。……異変でも起きているのかな」
「どちらにせよ、絶好の機会なのです。太子といえども、邪魔はさせません」
「はいはい、こういう時でもお堅いんだから。……冒険者上がりでお堅い人なんて初めてだよ」
「何分、性分ですので。それを言うのならばロイ様もうずうずしていますよね?」
ロイは当然と言いたげに笑顔を作った。
薄いモヤが裂けていくようにロイから噴出し始め辺りを包む。そこに立っていた老人はもう居ず、シルクの視界に残っていたのはシルクより少し若い少年のみ。
シルクは少しだけ満足気に微笑んだ。
「楽しい、ですか?」
「まあ、君と仲がいいのは当然としてもさ、いっつも様付けだったから呼び捨ては新鮮だったね。それにヨーヘイだっけか。彼も多分気づいているんだろうな」
「ネムル様は明らかに気づいていましたね。ヨーヘイは……少しだけ分かりません。鋭いようで鈍い、強そうで弱い、そんな反対の言葉が両立する存在ですから」
「違いない」
身分の違いからシルクが先を歩きロイが続く。先程のモヤは消えることなくロイの体を包み先までの雰囲気とは違ったものを醸し出す。
少し舞った土煙が地に落ちた後には誰もいない。オーガを使役していた術者がいないことを不思議がりながらも二人は進んだ。
「……彼、欲しいな。まあネムルが許すとは思えないけど」
「例え帝国の次男坊とはいえ程度がありますからね。ネムル様を敵に回してこの街が潰れるのだけは嫌ですよ」
「帝国が潰れるのは仕方ない、と。……変わらないねぇ、その故郷愛は」
奥に進めば光の刺さない松明に照らされた道だけが続く。先にドットが進んでいるからか、倒れている人達が路肩におり道の至る所に傷がついている。
そんなことを意に介せず二人は雑談をしながら進んでいた。人によってはそんな二人の方が蠱毒よりも怖いと思う人も少なくないかもしれない。
「……お手並み拝見、召喚士にして錬金術にも長けた存在の。私の敵となるか、もしくは……」
「その前にこの依頼を受けたせいでロイ様は王妃様にどやされるのですから、言い訳を考えた方がいいのではないですか?」
「……雰囲気壊すなぁ。まあ、そこはシルクに放り投げるよ」
シルクは心底嫌そうにため息を吐きながら至る所にある扉を開けては調べてを繰り返した。
次はドットがメインになると思います。
ヨーヘイが出るのは次の次か、その次あたりですかね。その前にユラの話も入れるかどうか悩んでいます。オーガを呼び出す術者などもそのうち。
次回も2週間以内には投稿します。
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