1-2-17 蠱毒戦
前半、リーナ主役
後半、シルク主役です。
「……実は昨日考えていたことがあるんですけど。……この戦いが終わった後、俺達と一緒に来てはくれない……ですか?」
断られるかもしれない恐怖から喉に溜まった唾を飲み込んで、リーナさんの目をじっと見つめる。
「俺は二人がいれば毎日がもっと楽しいと思うんです。ここにいれば要らないいざこざが増えていくだけ。それにリコもこれから大きく成長していきます」
「……リコは……確かにそうね」
「だから二人とも俺と一緒に帝都に向かうのはどうかな、と思いまして。俺は二人に死んで欲しくはないし、これからも一緒にいたいです。昨日、リコと話をしてそう思いました」
この話は絶対にフラグだと思う。
それもドス黒い死亡フラグで立てれば折れないかもしれない。それでも今伝えないといけない。
「……でも私はここを離れられないわ」
「そうかもしれません。ですがリーナさんの夫は、リックさんはリコを好奇の目の中に晒したいとは思っていないはずです」
リーナさんは黙った。
薄々分かっていたはずだ。蠱毒を潰す、領主を潰すということは言い寄られていた自分達にもなにか起きるだろう、と。
それはもしかしたら同情かもしれない。蔑みかもしれない。目上の人から連れ添いになるように言われたことに対する妬みかもしれない。
それでもそれがリコに降りかからないとは言えない。十中八九、リコの身に何かしらの形で降りかかるだろう。
「……それにリコはハーフエルフです。加えて幼い部分も多々あります。長い間一緒にいたわけではないですがリコはリーナさんがいないと生きていけません」
「……それは……そうね……」
「俺はリコを救いたい。でもリーナさんだって救いたい。暗い中に花を置いていたら枯れるに決まっています。リコだってリーナさんだって」
ダメだ……何か決定打が足りない。
分かっている。俺の言葉に意味がないわけではないことを。意味がないならば「行かない」と突っぱねているはずだ。
「私にはこの宿が」
「宿とリーナさんやリコの命、リックさんならどちらを取るでしょうか?」
「……ヨーヘイは後ろ指を指されることになるわ」
「覚悟の上です。俺がいた国では親切をするということは、それだけの覚悟を持つべきだ、と評論に書いた小説家がいます。親切して裏切られたからもうしない、ではなく、しなければいけないからするだけです。この手を離してしまえば俺はもう二人を助けることはできません」
……まだ……ダメなのか。
……本当は言いたくなかったけど仕方がない。
「もし俺が勝ったら、もしこの街から蠱毒を、リーナさん達の仇が取れたら付いてきてくれませんか?」
「ッツ!」
「俺は有望株ですよ。ランクを上げることをギルドマスターと約束しましたし、ネムルからSSSランクの素質があると言われるくらいですからね。別に結婚しろとか言うわけではないです」
「でも……返せないわ……」
「なら雇います。街を出る頃にはお金が貯まっているでしょうし、戦闘も掃除なども出来るメイドを雇いたかったんですよね。リーナさんは綺麗だから映えますし」
少しだけ揺らいでいるはずだ。
だから畳み掛ける。
「リコ? リコは俺と一緒に来てくれるか?」
「お兄さんと一緒にいれるならついて行くですよ? ……マ、お母さんはなんで片意地張っているです?」
「それは……ずるいわ……ヨーヘイ」
ずるいって……いや、ホントその通りで。
でもそれだけ一緒にいて欲しいって思ったわけだしなぁ。結婚する気がないとしても俺の知らないところで結婚や、ましてや虐められていたら俺本気で嫌な気持ちになるし。
「それだけ本気なんですよ。リックさんのことは知りませんし、忘れろとは言いません。ただ目先の意地に捕われていれば返ってくるものは不必要なものだけです」
「……本当に……女泣かせね」
女泣かせって……否定出来ない……。
俺のせいで朝倉さんにも嫌な気分にさせたしなぁ。いつか謝らないと。
「行くわよ。少し時間がかかるだろうけど私も、リコも」
「俺もすぐにここを出るわけではないです。だから早く行けるようにしましょう」
俺は負ける気なんてない。
よくお前のためなら神様だって殺してみせるってセリフがあるけど、今俺はそれに近い状態だ。
「……ごめんなさい……」
小さく消え入りそうなリーナさんの声。
それはすぐに壁へと吸い込まれいなくなってしまったが、俺の頭から離れることはなかった。
その後、俺はまた寝ることにした。
少しだけ昨日の疲れがあるのか怠さを感じる。今夜作戦開始だというのに疲れは絶対に残していてはいけない。
依頼を受けているユラに薬草の採取を頼んでからベッドで寝転んだ。疲れることのない体が欲しい。元の世界と同じことを考えてしまうな。
ステータスを弄りながらユラの返信を見る。今日はやけに返信が早い。
内容は『薬草については任せろ。道具も渡しておいた』だそうだ。優秀な部下を持つと上の人は楽でいいね。
昼頃、目が覚めた。
その頃には疲れなんて残っていない。机の上に置いてあった薬草を倉庫に入れてからリーナさんに挨拶をしておく。
心配されたけどすぐに帰ってくることから割と簡単に納得してくれた。もう隠す必要もないと思いダーインスレイヴを腰に差す。
目指す場所は二つ。
奴隷商館と敵陣の周囲に道具を置くことだけだ。そしてその時が来た。
◇◇◇
夜の闇の中、シルクは走っていた。
頭の中には洋平を尊敬するような、畏怖するかのような気持ちでいっぱいである。
まず初めにシルクが今回の戦いで最前線を任されたのは適任であった。それは彼自身が理解していたことである。ではなぜそう言えるのか、それは彼の固有スキルが関係していた。
変幻。
それが彼の固有スキルであり修羅場を乗り越えるために使い続けた自慢の能力である。自分より弱ければ自分を隠し、相手の方が強ければ確率で幻惑状態、つまりは幻を見せることが出来る能力。
だからこそ、この能力の詳細は誰にも語らないでいた。バレてしまえば対策を立てられてしまう。そんなことでは自分の故郷を、街の安泰を願うフックギルドマスターの思いを果たせなくなってしまうかもしれないから。
『僕は弱い。能力がなければ平凡的な成長しか出来ない、これ以上の発展を望めない冒険者でしかなくなってしまう』
平凡的だから戦った。強くなって強くなって他への牽制に使ってもらうために。そのためには蠱毒や魔物のコロニーは邪魔でしかない。
一人の少年からの情報が入る。
若い新入りの情報で信憑性なんてさらさらない。それでもシルクは調査した。コロニーなんてものが出来ていれば街への被害は甚大なものだ。
もし、街に魔物が入ったら。
もし、僕を狙わずに住民を、新入りだけを狙ったら。
もし、それだけでシルクが動くには十分な理由となった。そしてそこにそれはあった。
調査という自分達にあった依頼。
潰すのは簡単であっても依頼には入っていない。少しだけフックへの信用を失ってしまう。早く潰せばいいものを、と。
だがそう時間がかからずにコロニーは潰された。それも情報源のヨーヘイという少年と仲間が、だ。
話に聞けば配下であるユラが倒したらしい。
でもシルクは信じなかった。だから影で少年を見た時に確信する。
『この人がコロニーを潰したに違いない。なんて面白い人だろうか』
洋平への気持ちは簡単なものだった。
最初はただの興味、そして出会って尊敬の念を抱くようになる。特に棘もなく柔軟な対応を取り、仲間への配慮なども考える。なにより自己犠牲の精神は深くシルクの心境に変化を与えた。
『あの顔は私達の能力を知っていただろうな』
『……彼はすごいよ。僕なんて目じゃない。初めてSSSランクと凡人との差を感じたよ』
帰り道のロイとの話。
そこに嘘はなかった。
作戦決行前にシルクに付け加えられたもの。
それはシルクが一人でやるには簡単にして、それでいてロイには荷が重いものであった。
全てを見透かす洋平に恐怖を感じながらも決行した。
「……魔力充填。ヨーヘイ君、君の作ったものの力を見せてくれ……」
魔力の網、いわばネットワークの中心をシルクに変えた。これは短時間で、それでいて一瞬でやらなければ発動させられないことだ。
洋平でも出来たかもしれない。
それでも洋平はシルクに仕事を任せた。それがなんともシルクの気持ちを、心を楽にさせる。
ポケットから一本の瓶を取り出して口に運んだ。甘い飲んだことのないシュワシュワした何か。なのに、それは効果を発揮した。
「魔力も回復した。これで行けるはずだろう」
薄く心地悪い風がシルクの髪を撫でる。
そして一件の店の周り、民家の並ぶ地域で大きなサイレンが響き渡った。
シルクやロイの話も後に書きます。
なんで自分自身を凡人と評すのか、Aランク冒険者という天才の域にいるにも関わらずそう考える理由などお楽しみに。
またどのような作戦なのか。
そこも楽しみにしてもらえると嬉しいです。
次回も2週間以内には投稿します。
興味があればブックマークや評価よろしくお願いします。
※私事ですがPV10万を達成しました。誠にありがとうございます。そして今後ともよろしくお願いします。




