1ー2ー10 強者
すみません、いきなり用事が出来て書く時間がありませんでした。
少しだけ混乱している頭をスッキリさせるために剣を振る。素振りといえば素振りだけど型なんてあったもんじゃない。
駄目だ、いくらやってもいいアイデアが思いつかない。守るだけが正義でも、倒せる手ではないだろう。領主というだけあって狙われることも多いだろうから防犯面も駄目だ。
それに称号に影響がある。殺さなくてもいいが悪事は白昼の元に晒さなくてはいけない。それの英雄扱いを受けるのは俺じゃなくてユラだ。となればやることは決まっている。
『俺とユラのランクを上げる』
『構いませんがマスターは目立ちたくないのでは?』
確かにそうだ。でも名前が売れれば俺が狙われる。逆に力も周りに知られるから手出しをしづらいだろう。ましてや俺に毒は効かない。
指輪を軽くさする。済まないな、作るための素材が少ないから作ることは出来ない。あれは魔力を多く使って作るものだから万全を期さないといけないから今は作れない。
『ミラを引き取りに行く。ミラとユラは宿屋の防衛。俺は情報収集がてらに依頼を受けるか。ユラと交代して依頼を受ければダメージも少ないだろうし』
『分かりました。それではユラには先に戻るように話をつけておきます』
これで簡単に手は出せないはずだ。
その後の食事の味は覚えていない。いつもより早く食べていたと思うが特に指摘はされなかった。
◇◇◇
「こちらがギルドマスターの執務室となります」
一見は質素な木造の扉。
だが鑑定眼で見るとその価値がわかる。エルダートレントを素材として作られた扉で耐火性と防音性に優れたものだ。
その前に俺とユラが通されていた。リーシャも付き添いらしく扉を叩き「連れてきました」と返事を待つ。
しばらくして中から「入って良い」と高圧的な声が聞こえ、リーシャは恐る恐る扉を開いた。
冒険者に礼儀というものは特に必要がない。俺も例え目上であろうと屈するつもりもない。
そして俺はリーシャを抱き寄せて、ダーインスレイヴを振り抜いた。金属音が響いて四本のナイフが地に落ち刺さる。力試しか、それにしてもギルド職員ごとやるその馬鹿さ加減に言葉も出ない。
「なるほど、力はあるようだな」
目の前にいるのは厳格そうな髭を蓄えたおっさん。ステータスは俺よりも高く二千とある。
「それで話とはなんでしょうか。ギルドマスターさん?」
「……そうだな、まずは君たちにのランクについてだ」
そう、この人こそアスの街の冒険者ギルドマスターである。そして俺達をとても値踏みしている視線で貫いてくる。実際、あまりいい気持ちはしない。
「俺はランクをあまり上げたくはないです。冒険者として目立つつもりはないですしね」
「それで実力を隠しているのかな?」
俺は首を縦に振った。
「だけど今回は気が変わりました。どうすれば早くランクを上げられますか?」
リーシャごとやったその考え方には腹が立つが今は我慢するしかない。こいつの権力も何もかもが分からないし、下手に動いて冒険者ギルドも蠱毒も敵に回したら無意味だからな。
「……それよりも先は済まなかった。試すとはいえリーシャ君ごと、新人の君に攻撃を仕掛けてしまって」
頭を下げてくるがどうでもいい。
上っ面かもしれないし本気で謝っているのかもしれない。でも鑑定眼にも本当か嘘しか出ないし興味のないことだ。
「私は主が許すのであればその謝罪を受け入れます」
「……俺はリーシャが許すのなら許します」
「私もヨーヘイさんに守って貰えたので、かっ、構わないですよ」
こんな余興のようなものに時間を潰していられない。
『マスター殺気がダダ漏れです。ユラやギルドマスターならともかくリーシャにはキツすぎます』
『……殺気?』
「……本当に済まなかった。そこまでリーシャ君のことを思っているなんて」
うん? リーシャのことを思っている?
確かに好んではいるが……ああ。
「すみませんが好んではいますけどそういう関係ではないです。ただ厄介事を抱えてまして、それを思い出してしまっただけです」
「……主、言う必要はないのでは?」
言う必要がないか。
でもどうなるかは時の運だし、それを言ったことで融通をしてくれるかもしれない。まあ、賭けだな。
「俺は蠱毒とことを構えるつもりです」
「ッツ!」
ギルドマスターの声が聞こえなくなった。
聞こえるのは過呼吸とも取れる荒い息。
「本当に言っているのか! 辞めておけ! 今はSSS冒険者にそれの調査を任せている!」
「の割には情報を得ていなさそうですね。自慢ではありませんが俺は拠点の位置などを把握していますよ?」
怠慢、怠惰。そういえば簡単だが仕事が仕事だ。闇ギルドにとって拠点がバレるということは、すなわち壊滅を表す。
「……情報を提供してくれないか?」
「構いませんが俺のやることを奪わないのなら。それに蠱毒とこと構える理由があるんですよね。俺がやらなきゃいけないことは他人に任せられないので」
かの有名な偉人は言った。
一番大切なことは、単に生きることではなく、善く生きることである、と。
魂への気遣い、周囲を巻き込んでの魂への配慮。俺はリーナさんとリコの魂が汚れて欲しくはないからな。
「……力を試してみても?」
「実践ならばあなたでは力不足ですよぉ。フックマスター……。その子は計り知れないしぃ、得体が知れないですよぉ」
目の前に一人のとんがり帽子を被った幼女が現れる。手には武器がなく腕に一つだけアクセサリーをつけているだけ。
一瞬だった。瞬きの間だけでその少女は目の前に現れたのだ。
黒いローブは大きくダルダルと地に引きずられる……はずなのだけど、
「少しだけ浮いているのかな」
「おぅ、正解だよぉ。将来有望だねぇ。唾つけておきたい……えっ、駄目なのぉ?」
変な魔力が噴出している。
それも俺が出せるギリギリの魔力を使って。
浮遊術、だけじゃないな。多分、周囲へも何かを張っている。スキルではない自作の結界かな。
「その顔はぁ、気づいたみたいだねぇ。そうだよぉ、ボクはそういう子大好きだなぁ」
「お褒めにあづかり光栄、です。あなたがかの名高いSSS冒険者、ですね?」
「そうだよぉ。ボクはネムル、名前の通り寝るのが大好きなんだぁ。君は……強そうだねぇ」
小さなネムルの手と俺の手が被さる。
……すごいな。魔力以外が二倍に変わった。それだけで俺のステータスの十倍ほどの能力であることがわかる。ましてや模倣出来なかった魔力面やスキル……計り知れない。
一応は魔法全般は獲得出来た。と言っても通常属性、もとい火、風、水、土、闇、光だな。その上の魔法はなぜか無理だった。
確かにこれだけ強ければ何か勘で分かるのかもしれない。よく分からないけど。
「うん? 少しだけ、強くなったねぇ」
分かるのか。ヤバい、思っていた以上にSSS級というのは化け物みたいだ。
「ボクは君と一緒に戦いたいなぁ。そこのユラ? とか言うのじゃボクとは戦えないだろうし」
「……すみません」
「バカにしているわけじゃないよぉ。ただ伸びしろのある子はぁ、辛く言っちゃうんだよねぇ。こっちの……あれ? そういえば名前ってなんだっけぇ?」
「洋平だ」
ネムルは目を細めた。
俺を値踏みしているのか、足元から顔までじっと見つめてくる。
「……ヨーヘイねぇ。今後ともよろしくぅ。少しだけぇ、変な感じがするけどねぇ」
「ははは、気のせいですよ」
シャノンのことかな。それ以外におかしな感じはないはずだし。
と、それよりも。
「それでは一緒に来てくれるのですね?」
「構わないよぉ。何なら君の泊まっている宿に行って泊まってもいいしぃ」
本当に掴みどころがない。
やっぱり強者たるものおかしな点があるんだろうな。シオンもそうだったから。
とりあえずネムルに宿の場所を教えて俺達は話し合いの続きを行った。
次は9月20日辺りまでに投稿します。本当に申し訳ありません。
次回はイベントのフラグ建てですね。そして宿屋のリコたちも……お楽しみにです。
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