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閑話 リーナの手記

閑話なので短いです。

 いつの頃だったかしら。


 確かあなたと出会った時は「一目惚れをした。俺の元に来てくれ」、そんなことを言っていた気がするわ。


 あの時は排他的なエルフの里を出てすぐだったのよね。私も妖精達から聞いて悪い人ではないことは知っていたわ。


 でも無理やりパーティを組んだのは駄目だと思うわ。私じゃなかったら怒っていたわね。


 それでね、あなたとの子供がようやく十三歳になったわ。母子家庭とはいえ、真面目に育ってくれて嬉しいの。少し話し方が変なんだけどね。


 確かリコの誕生日だったわ。彼が来てくれたの。名前はヨーヘイって言っていたけど、響きから言えば東の国出身ね。とてもいい人だったわ。


 こんなに古びた宿を見て「やっていますか?」なんて聞くんだもん。普通は外見で泊まろうとは思わないはずよ。最初は不信感が強かったわ。だって私の耳を見て頬を緩ませたんだから。


 でも妖精達がそんなことはないって言っていたの。まるで純エルフのような高潔さと親和性があるって。嘘もついていなかったしね。


 リックと初めて受けた依頼を思い出したわ。あの時はあなたの力を信じられなくて身勝手に行動したわね。やっぱり私はエルフ族なんだって理解してしまったもの。


 でもリコは私とは違っていた。妖精達との共感も私より優れていて、そして人の感情の起伏をすぐに理解出来る。そんな子がヨーヘイのことを褒めていたんだから。


 そして次の日だったかしら。領主の息のかかった者がヨーヘイに接触したわ。そしたらなんて言ったと思う?


 そこの宿屋の金額を聞いていたの。自分自身で私に金貨を渡すくらいお金を持っているのによ。風の妖精の『風の囁き』で聞いていたけど面白かったわ。それでいて金額メインで力任せで客を奪おうとしていたことも知れた。そして蠱毒が関係していることも。


 でも強いはずの蠱毒メンバーが戦わないことを選んだのよ。ヨーヘイは確かに強いと思ったわ。私の鑑定を弾くくらいだから。


「俺の本能が兄ちゃんに手を出すなと言っている」だってさ。強いのに優しいとか女性にモテて当たり前よね。ただでさえ顔もかっこよくて不公平なのに。あっ、リックよりもカッコイイわよ。ジャンルは違ってあなたはワイルド系だったわね。


 その時にあなたとの馴れ初めを思い出したの。初めて体験した挫折、仲間が何人も死んだB級ダンジョン【竜虫の繭】でのことをね。


 おかしかったものね。入ってすぐにC級のベアーワームが現れるなんて。なのに私は……私は……。


 あなた達に中に入ることを勧めたのよね。ここまで強くなった私達なら出来るって。ただ私が強くなりたかっただけなのに。エルフの里で自慢したかっただけなのに。


 そしてBランク級パーティ【青焔】は潰れたの。たった一体のドラゴンワームによって。




 ◇◇◇




「リーナ! あなたのせいで!」


 あの時、私は彼女の言い分に何も言えなかった。そう、今回の件は私が猪突猛進に、身勝手に進んだことが原因なのだから。


「とはいえ、俺達がやるしかないよな」


 リックはいつものように私を庇ってくれた。でもその優しさが辛かった。分かっていたから、妖精達が何人も死ぬ未来を見たって言っていたから。


 私に出来ることは三階層まで降りてしまった皆を、私の命にかえても守ることだけだった。この中で一番強いのは私、それは周知の事実で誰も否定はしない。一度槍を持てば周囲は荒野に変わるほどの高火力な炎魔法。生まれながらの天才ともてはやされた私なら出来ると、未来を変えられると信じていた。


 例え死ぬことが確定的で諦めなければいけない、あの状況でも。


 そしてあいつは来た。


 最初は私の目を疑ったわ。S級の魔物なんて初めてだったしドラゴンと付くには不釣り合いな見た目。狼ほどの大きさを持つ芋虫だったもの。


 でも怖かったのはその後だった。


「やるぞ! ドラゴンワームが何だってい」


 前衛職の一人が死んだ。私達のパーティは六人、そして前衛はリックともう一人しか残っていない。


 中衛である私は何度も炎を放ったわ。それでも効かなかった。そしてあいつは口もないはずなのにニヤリと笑ったの。


 一瞬にして消える芋虫だったもの。転じてそこにいたのは圧倒的な大きさのドラゴンだった。ワイバーンなんてものじゃない、本当の龍。


 一瞬の呼吸、一番に動いたのは私じゃなかったわ。


「リーナ!」


 リックが、あなたがマジックリュックから大盾を取り出してドラゴンワームのブレスから身を守ってくれた。あの時には恥ずかしけどあなたを一番にかっこいいと思ったわ。


 だんだんと溶けていく盾を地に刺してあなたは言ったわね。「総員逃げろ!」って。


 本当はリーダーである私が言うべきだったこと。でも逃げ切れたのは私とあなただけだった。冒険者ギルドでは感謝されたわね。異変を一番に知らせてくれてありがとうって。




 ◇◇◇




 パーティが全滅した寂しさから私はリックと結婚したわ。リコが産まれてからは冒険者家業も辞めたし。


 そこからあなたの名前が売れ始めたのよね。冒険者ギルドが何とか封印に追い込んだドラゴンワームを討伐したとかって。そのお金で宿屋を立てたけど、あなたは死んでしまった。


 結核、そんな病名だったかしら。


 栄養の偏りもなくておかしいかった。かかるわけがないと思っていた。それの犯人がまさか、今の領主なんて思わなかったわ。


 名前が売れるって言うのは酷なものね。簡単に指名依頼であなたを呼び出して仕事を渡すのと同時に弱らせていく毒を飲ませ続けたのだから。


 今も領主から愛人になれと勧告されているわ。まあ、なるつもりもないのだけど。


 価値があるからってリコも連れてくるように言っているし。ならないのなら奴隷として、なんてさ。


 私は人として、宿屋の店主としてやってはいけない事をやるわ。リコを守るために領主と戦う。


 もしかしたら勝てるかもしれないの。


 お客様である彼の力を借りれば蠱毒にだって、どこまでも行ける気がするの。いつまでもあなたのことを思っています。でも、彼のことを好きだと思う自分もいるの。


 だから彼を利用させてもらう。彼の、ヨーヘイの奴隷になれれば私もリコも安泰だから。陰ながら私はヨーヘイを支えたいの。


 蠱毒の嫌がらせも彼が現れてから少なくなったわ。私は……私は……。




 ◇◇◇




 そして俺は静かに紙を元の場に戻した。


 分かっている。読むべきではなかった。リーナさんからの好意もキチンと会話の中で知りたかったから。


 でもここまで言われてしまっては、いやリコのためにも戦わない手はないよな。俺が本気で戦おう。


 そう、強く決心した。そのためにはランクを上げなくてはな。今日、ギルドマスターと会うのなら決め事の一つや二つは出来るだろうし。それに強い奴をギルドは欲しているはずだ。帝都とここに拠点を持つのも悪くはない。


『シャノン、つまらない意地はやめだ。蠱毒の情報をくれ』


 リーナさんが手を汚す必要はない。安心してほしい。


 リコに手を出す?

 昨日のうちにその手立ては潰した。


 宿屋に手を出す?

 今しがたユラへメールとして、明日から宿屋で待機するように頼んだ。明日から仕事はなしだ。


 今日は流石にギルドマスターに会わなくてはいけないからな。


 そうして俺は蠱毒を、そしてここの領主を合法的に潰す策を考えるようになる。

次回は9月13日までには投稿する出来るように頑張ります。


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