プロローグ 無能者レイ・ワーグナー
この世界は残酷だ。
ここルーネン王国は魔法大国である。国内には数多の魔法学院が存在しており、その中でも特に名高いのが、エルミナ魔法学院だ。ルーネン王国随一の名門校であり、数多くの優れた魔術師を輩出してきた。魔術師を目指す者ならば、誰もが一度は憧れる場所である。
そんなエルミナ魔法学院に、一人の無能者と呼ばれる少年がいた。
その少年は魔力を持っていない。少ないのではなく、"ないのだ"。普通、魔力は少なくとも50前後はあるものだが、その少年に限っては0である。魔力がなければ魔法を扱うことはできない。よってその少年はニヒト、つまり無能者と呼ばれていた。その少年の名は、レイ・ワーグナーである。
レイは孤児であった。そんなレイを引き取り、大切に育てたのがミランダ・ワーグナーである。ミランダは独り身で、機織りの仕事をしていた。しかしその収入は決して多くなく、レイに十分な教育を施せるほどの余裕はなかった。そのためレイは、学校に通いたくても通えなかった。いや、通えないはずだった。
エルミナ魔法学院には、理事長の意向のもと、教育を受けたくても受けられない平民の子供を生徒として迎え入れるという取り組みがあった。レイもその対象であったため、晴れて学びの場を得ることができたのだ。
しかし、喜びも束の間だった。
魔力がない。それがレイにもたらされた絶望であった。魔法が使えないことは、魔法学院であるエルミナにおいて致命的な欠陥である。それでも学院はレイを追い出そうとしなかった。むしろ、歓迎するようだった。
おかげでレイはエルミナ魔法学院に所属し続けることができた。しかしそれは、レイにとって地獄の始まりでもあった。




