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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第四章
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誰が悪魔を殺したのか?③

 事務所に顔を出すと、阿部が顔を会わすなり、「藤川さん、おはようございます。私、事務所を辞めます」と切り出した。

「事務所を辞める?」

「杉山さんはもう、事務所を辞めたみたいですよ。沈む船からはゴキブリも逃げ出すって言いますものね。実久ちゃんも早く辞めた方が良いよ~って言われました」

 ゴキブリではなくて鼠だろうと思ったが、阿部に言っても無駄だ。多少、天然なところが、阿部の魅力でもある。

 やはり杉山は辞めたようだ。副所長の渡川が所長となり、事務所を引き継ぐことは公になっている。渡川と馬が合わないと言っていた杉山が辞めるのは、時間の問題だった。

「杉山さん、渡川さんと合わなかったらしいからね。渡川さんが連れて来たのに」と言うと、「えっ⁉」と阿部は目を見開いて「違いますよ。どこかの会社のお偉いさんから紹介を受けて、杉山さんを雇ったと渡川さん、言っていましたよ~私、渡川さんに頼まれて、アポを取りましたから」と言った。

 どこかの会社の幹部から紹介を受けた?

「へえ、何処の会社?」

「う~ん。保険会社だったと思いますけど・・・」

「保険会社?」

「なりた・・・さんじゃなくて、なり・・・」

「成安生命?」

「ええ、そう、成安さん。成安生命の成安さんだったと思います」

 杉山は成安生命の紹介を受けて、事務所にやって来た!成安生命と言えば、辻花家と縁の深い大阪の会社だ。もっと言えば先祖をひとつにする、同族会社だ。

 鬼政が言っていたスパイは杉山だったのだ。辻花家が成安生命を使って、杉山をスパイとして送り込んで来た。杉山が来てから、一年以上、経つと思う。随分、昔から計画を練っていたことになる。いや、井上晴秀の殺人事件が起こったのは、今から四カ月前だ。彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかもしれない。

 用意周到に仕組まれた罠だった。井上晴秀の殺人事件の調査を担当したのは杉山だった。弓月が簡単に騙された訳だ。

 杉山と話をした時、脳味噌に釣り針が引っ掛かったような違和感を覚えた。今、その正体が分かった。頭の中で雷が落ちたような気がした。

 あの時、杉山は言った。田口が怪しいと思う。やつが弓月を殺した犯人じゃないかと。鬼政に口止めされていたので、辻花高寛から聞いた話は杉山には教えなかった。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 黙り込んだ俺に、「藤川さんはどうします?」と阿部が無邪気な笑顔を向けた。

「えっ⁉何を?」聞いていなかった。

「藤川さんはどうします?仕事、続けるのですか?」

「う~ん」正直、何も考えていなかった。咄嗟に、口をついて出たのは、「弓月を殺した犯人が捕まるまで、ここにいようかなと思っている」という台詞だった。言ってから、それが本音だということに気が付いた。

 鬼政と一緒に捜査の真似事をすることが楽しくて仕方がない。

「事務所を辞めてどうするの?」と尋ねると、「実家を手伝います」と阿部が答えた。

 実家は確か、パン屋だったと思う。

「結局、ジムに連れて行ってくれませんでしたね」阿部が明るく言う。

 俺がジム通いしていることは、皆、知っている。そう言えば、昔、飲み会で阿部に「ジムに連れて行って欲しい」と頼まれたことがあった。阿部は小柄で細身、風が吹けば折れてしまいそうな華奢な子だ。その時は、本格的なジムよりフィットネスクラブで十分だと答えたと思う。酒の席での戯言だと思っていた。

「えっ⁉」驚いた。

 まさか、彼女、俺のことを、感情が乱れ、動悸が早くなる。

「パンを買いに行くよ」と言うと、阿部は「無理しなくても良いですよ。家から遠いでしょう」と笑った。

 俺が何処に住んでいるのか知っている。

「住所を教えてよ。通うから」と言うと、阿部は「はい」と子供のように返事をした。

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