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悪魔に捧げる鎮魂歌  作者: 西季幽司
第四章
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誰が悪魔を殺したのか?④

 何時ものジムに来た。

 今日は、なまった体を虐め抜くつもりだ。明日は筋肉痛が心地よく感じるだろう。通い慣れたジムだ。見知った顔ばかりだが、話しかけたことなどない。皆、無言で持ち上げることができる重量を競い合っている。

 ヒラメがいた。名前なんてしらない。俺が勝手にそう呼んでいるだけだ。顔が平たいからヒラメだ。年の頃は、俺よりふたつ、みっつ下だろう。ビギナーだ。筋トレを始めて、まだ日が浅いようで、背は高いが、やたらと細い。

 ヒラメがベンチプレスをやろうとしていた。

 おいおい、初心者が一人でやると危ないぞ、と思ったが、俺を含め、周りにこれだけ人がいる。まあ、大丈夫だろう。そうは思ったのだが、大阪のホテルのジムを思い出した。会田と一緒に筋トレで汗を流したことを。

 楽しかった。筋トレは一人でコツコツやるものだと思っていたが、誰かと一緒に汗を流すことで、何時もより余計に負荷をかけることができた。時間も気にならなかった。

 そのことを思い出した時、「手伝いましょうか?」とヒラメに声をかけていた。

 自分でも驚いた。どちらかと言えば人見知りの自分が、見も知らぬ相手に声をかけるなんて。ヒラメはと言うと、「えっ!良いんですか。是非、お願いします」と嬉しそうだ。そして、聞かれもしないのに、「実は、まだ通い始めたばかりで、何をどうすれば良いのか、分からないんです。色々、教えて下さい」と言った。尻尾があれば、ぶんぶん振っていそうだ。

 ビギナーだと言うことは見れば分かる。

「良いですよ」と答えてから、ベンチプレスのやり方をアドバイスする。ヒラメは「はい。はい」と真剣な表情で俺の話を聞いている。

 ヒラメがジムに通うのは、細身であることから、ダイエット目的でないことは分かる。何故、ジムに来ているのだろう?そう思った時、「何故、筋トレをやるのです?」と聞いていた。

 どうにも押さえが効かない。思っていることが、口をついて出てしまう。他人に話しかけたことで、少し、興奮しているのかもしれない。

 何故、筋トレをやるのか?そう言えば、ホテルのジムで会田に聞かれたことだ。アメフトをやっていたので、習慣になっている。あの時、俺はそう答えた。ヒラメは何と答えるのだろう。

「僕ですか?」と言うと、「彼女ができたんです」とヒラメが満面の笑顔で言う。「頼りない自分にサヨナラしたくて、筋トレをやると決心したのです」

 彼女を守りたい。その思いから筋トレを始めたと言うのだ。

「へえ~良かったですね。じゃあ、頑張らないと」

 羨ましい。「はい」と答えたヒラメの顔がまぶしかった。

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