第54話 サーキットでキャンプ
キャンプ場についたところで、交代でお風呂にいくことにした。
「杏、先に行っておいでよ。明るいうちに荷物移動しとくよ」
「じゃ、お言葉に甘えて。ルドルフ、行く?」
「僕、パパを手伝う。力仕事、しとくね!」
私はちょっとルドルフと入浴したかったのだが、笑顔で「力仕事しとく」といわれたら逆らえなかった。まあ私が入っている間に荷物の移動、修二くんとルドルフが入っている間にバーベキューの準備をしておくというのは理にかなっている。
ここではホテルの大浴場がキャンプ場の風呂も兼ねている。ホテルは高校時代に父と来たことがあるのだが、そのときは部屋の風呂に入ったから大浴場は初めてだ。
脱衣所は混んでいないが、ファミリーが多い。子どもたちはどうしても走り回ってしまい、お母さんたちに叱られている。清潔なところで着替え、風呂場に入ると大理石でつくられていて、なんか格調高かった。
一日野外でホコリを浴び続けていただろうから、丁寧に頭から足まで洗ってから浴槽に入る。風呂場は暑いくらいだったので、問題ない。
浴槽に浸かると大きなガラスから夕日が見える。幸い雲が全く見えず、今夜は満天の星が約束されると思う。2年前札幌でみんなで星見キャンプ(正確にはバンガロー泊)したことが思い出される。のぞみと明くんは、この秋星見キャンプは行けたのだろうか。北海道ではこの時期、キャンプ場はもう冬季閉鎖になっているだろう。
売店のアイスに目が留まったが、我が子に抜け駆けして食べるのは気が引け、がまんしてキャンプサイトにもどる。木々の間の歩道は風が冷たくなりつつあった。
サイトでは荷物の移動を終えた修二くんとルドルフが、コーヒーを飲んでいた。
「修二くん、ルドルフにコーヒーは早いんじゃないの?」
「いや、ちょっとだけ。砂糖とミルクをいっぱいいれたよ」
「ルドルフ、おいしかった?」
「うん、甘い」
「じゃ、僕達も風呂行ってくるか」
「うん」
「ルドルフ、アイスあったよ。食べといで」
「わかった。食べてくる」
私は肉とか野菜を切ってバーベキューの用意をする。序盤は肉野菜ミックスの串焼き、そこで私はお腹いっぱいでダウンするだろう。ご飯も鍋で炊く。これは家で密かに何回かやって練習してきた。炭火で炊いた炊きたてご飯はきっと美味しいだろう。そろそろかなと思い、炭火に火をつけた。これも動画で予習してきたので大丈夫だ。
炭火グリルの角にご飯の鍋をのせる。しばらくすると沸騰してきた。お米の煮える匂いがし始めた。
「ママー!」
暗くなってきた道をルドルフが駆け上がってきた。ルドルフは銀色のバッグを持っている。
「ママ、アイス買ってきた。あとで食べよ!」
「ドライアイス入れてもらったから、食後で大丈夫だよ」
「ありがと、ルドルフ、修二くん」
風呂上がりに一人で食べなくてよかった。
バーベキューは美味しかった。ご飯も少しおこげの匂いが香ばしい。ルドルフは無限に食べてしまうので、焼くのが忙しい。
「杏、せっかくだからワイン飲みなよ。飲み過ぎたら僕が片付けるから」
飲みすぎるのが前提なのは納得できない。
「まあまあ、おいしいんだから、飲みすぎるのも自然だろ」
「私まだ、何にも言ってない」
「パパは魔法がなくてもママの考えがわかるんだね」
「ルドルフ、もうお肉焼かないよ」
「ごめんなさい、僕は聖女様の味方だから」
私は遠慮せず、ワインのボトルを開けた。
もうお腹いっぱいのところで、修二くんとルドルフが買ってきてくれたアイスを出す。少し溶け始めていて食べやすくなっている。ルドルフには風呂上がりのアイスをがまんさせてしまったような気がする。
「ママと一緒に食べたほうがおいしいよ」
ルドルフは私の考えを読んでうれしいことを言ってくれる。実の子でもここまで親孝行な子はなかなかいないのではなかろうか。
「もうお腹いっぱい」
と私が言うのに修二くんは、
「まだいけるだろう」
と言ってニヤリとした。
「ほら、これ」
と言ってとりだしたのはアップルパイ。
「どこで買ったの?」
と聞いても、
「秘密秘密」
と教えてくれなかった。
修二くんはそれをアルミホイルでくるみ、もう残り少ない炭火にのせる。私はポットでお湯を沸かす。
「コーヒー?」
とルドルフが聞いてくるので、
「お茶にしよ。寝れなくなっちゃう」
私はほうじ茶のパックを取り出した。
修二くんの読み通り、温めたパイはおいしかった。
もう真っ暗になった。魔法瓶にお湯を入れ、火を消し寝る支度をする。
寝袋に入ればすぐに寝れるようにして、星を見ることにする。
そういえば寝袋については、来る前にひと悶着あった。
私も修二くんも、札幌に移り住むときに寝袋を持ってきていた。引っ越しのとき便利だからである。その寝袋を今回ふたりとも持ってきていたのだが、ルドルフのはない。
「ルドルフ、ママと一緒に寝よ」
と誘ったら、修二くんが反対した。
「いやいや、パパと一緒だろう」
そのあとめずらしく二人で喧嘩になり、ルドルフが仲裁してルドルフはレンタルの寝袋に入ることになったのだ。
「僕は寝袋なんかなくてもだいじょうぶなのに」
確かに冬の北海道を野生状態で越したのだから問題ないだろうが、それはそれである。
少し星を見ていたら、
「僕、先に寝る」
と言って、ルドルフはテントに入ってしまった。
暗くしてしまえば満天の星である。2年前の星見キャンプを思い出し、M31を探す。
「修二くん、M31見えた」
「ほんとに?」
「うん」
私は双眼鏡でその白いぼーっとしたものを眺める。
「僕も見えた」
「修二くん」
私は双眼鏡を手渡した。
しばらくして修二くんは、
「双眼鏡、もう一つ買ったほうがいいね」
と言うので、
「ちがう、もう二つ」
と言ったら、笑いで返事された。
私は星空の下で、本当は違うことを考えていた。
この空の向こうにあの世界、ノルトラントのある世界があるような気がしていた。
あっちは技術の遅れた世界だから、田舎に出れば毎晩満天の星だった。聖騎士団にしても王都の郊外だからかなりの星が見れた。距離はともかく、この星空があの世界につながっていて、父様、母様、それにヴェローニカ様、アレクサンドラ校長、ジャンヌ様、レギーナ達親衛隊、たくさんの人々も同じ宇宙を違う角度からみているのではなかろうか。
そういえばこっちに戻る直前、私達は初夜を迎えていた。こちらの世界では新婚生活を思いっきりエンジョイしているが、あっちの世界の新婚生活はどんな感じなのだろう。
「もう寝ようか」
修二くんに言われて、私達はテントに入った。




