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第29話 ワイン工場見学

玲子ちゃんのご実家に呼ばれた。唐沢家3人と、のぞみに明くん、合計5人でおじゃますることになった。電車で小樽駅に行くと、お父様が車で迎えに来てくれていた。ミニバンであるからこの人数でもちゃんと乗れたのには感動した。


 なんとなく後ろの座席に行こうとすると、玲子ちゃんに言われた。

「聖女様車好きですよね、助手席へどうぞ」

 私を助手席に座らせたかったのか、ルドルフの横に座りたかったのか玲子ちゃんの真意は不明だ。しかし本気でルドルフを狙うなら、まほ、みほ、あかねの東海村の3人の女子との争いになるだろう。玲子ちゃんは22才、あの3人の年齢の合計よりも数字としては大きいが女は女、舐めてかかってはいけない。女子校育ちの私は断言できる。

『ママ怖いこと考えるのやめて』

『冗談だよ冗談』


 突然笑い出した私を見て、玲子ちゃんのお父様は不思議そうな顔をした。


「聖女様はワイン好きなんですよね、玲子から聞いてます」

 ハンドルを握るお父様が話しかけてきた。

「はい、けっこう好きですね」

「余市のワイン工場はいかがですか? レストランもありますから、そちらで昼食と思ってたんですが」

「ありがとうございます、実はちょっと行ってみたかったんです」


 車は海沿いへは行かず、山側へと上がっていく。

「高速、使うんですか?」

 小樽から余市までは距離も短いのでわざわざ高速に乗るのは疑問に思えた。

「真夏ですからね、海水浴場の近くは渋滞しているかもしれません」

「なるほど」


 北海道は実のところ渋滞は少ない。しかし一旦渋滞してしまうと逃げ場がなく、なすすべもなくノロノロ運転に付き合うしかなくなる。だからこの場合高速のほうが合理的なのだ。


 山間の道から田園地帯が見え始め、すぐに余市北インターについた。畑の間を車が進むのだが、途中で私は気付いた。

「これってブドウ畑ですかね」

 棚になっていてたくさんの葉がついている。

「そうです、みんな聖女様に飲まれちゃうわけです」

「飲みたいですねぇ」

 お父様の冗談で車中は笑いに包まれた。


 ワイン工場で車から降りたら、まず工場見学にする。お腹は空いているのだが、飲んでしまったらまともに工場を見学できない気がした。


 ガヤガヤと歩いていったのだが、大量の樽が寝かされている部屋にはいると自然と私語がやんだ。茶色い光に満たされた空間だった。


 ワインたちはこの樽の中で熟成され、だんだんおいしくなっていくのだ。


 どれがおいしいのだろう。じっと見つめても私にはわからない。


「ルドルフ、どれがおいしいの?」

 のぞみが笑い出した。

「あのさ、子どもに聞くな子どもに」

「いや、ルドルフならわかるかなって、ちょっとね」

「ママ、これ」

 ルドルフが指さしてくれた銘柄をメモっておいた。


 レストランは白い天井に濃いブラウンの梁のコントラストが美しい。フローリングも同じ濃いブラウン。そしてメニューの基本はハンバーグである。ワインにハンバーグ、連れてきてくれた玲子ちゃんのお父様は控えめに言って神である。ソースはどれがいいか迷ったが、こちらのワインを使ったブラウンソースにする。そして私など女性陣はパン、男性陣はごはんにしたがルドルフと修二くんが超大盛りにしていた。

 ルドルフの子どもの姿は仮の姿、本当はドラゴンだからそれはそれは大食いである。修二くんは茨城基準のごはんの盛りに慣れてしまって、将来肥満しないかちょっと心配になった。

「聖女様、ワインはどうしますか?」

 お父様が聞いてくる。

「いえ、運転していただいているのに、ちょっと」

と本心を隠して断るとお父様は、

「いやいや~、飲んでもらうために来たんですから」

などとおっしゃる。

「お父さん、お父さんも飲みなよ。私運転する」

 横から玲子ちゃんも言ってくれ、赤のボトルを頼んだ。銘柄は店員さんのおすすめにする。


 実は私のレストランでのワインの選び方は、父に教わっている。とくにこだわりがなければいわゆる「ハウスワイン」を選んでおけば問題ない。ハウスワインとは、そのお店が自分の店にあった味のワインを大量に仕入れているものだ。安いし、絶対に間違いがない。こちらのレストランでは安価なそれっぽいのもあったが、基本は客の方で銘柄を指定する。日頃安ワインを愛飲している私は銘柄などわからないので、店員さんに聞くのが一番だ。頼んでいる料理に合わせ、最適なものを選んでくれる。なんとそれは、ルドルフが教えてくれた銘柄だった。


 実際、濃厚なブラウンソースとハンバーグに頼んだ赤ワインはしっかりと応えてくれ、私は料理とワインを堪能できた。これは酔っ払ってしまったらせっかくの味がわからなくなりかねず、かえって量をセーブできた。

「あとで売店で同じものが買えますよ」

 お父様が教えてくれたので、もちろんそのあとたくさん買って、宅配便で東海村に送ることにした。明くんも何本か買って宅配便にしていたが、宛先は東京と川崎になっていた。

「修二くん、私達も実家に送ろう」

「そ、そうだな。さすが明だな」

 危うく自分の飲みたい欲望で親不孝者になるところだった。明くんはいつもふざけているが、その向こうに彼の優しさ・思いやりがあることをのぞみだけでなく、修二くんも私もわかっている。

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