第24話 札幌で夏休み
夏が来た。夏休みというかお盆休みは10日弱しかないが、修二くんと私は北海道に「帰る」予定にしていた。東海村はめちゃめちゃに暑いし、ルドルフに札幌国立大をじっくりみせてあげたい。SHELは原子力関係でいろいろと厳しいので連れて行ってあげることができないので、札幌の様子をみせてあげたいのだ。前に札幌へ行ったときは戸籍をつくるだけでほとんどとんぼ返りだった。飛行機だけ3人分席をとってあり、明くんのところか玲子ちゃんのところかに泊まる話になっている。玲子ちゃんからは、なんなら小樽の玲子ちゃんのご実家にもきてほしいととてもありがたいお話があった。少なくとも顔は出したいと思う。
例によって茨城空港から飛行機に乗る。お盆休みということで飛行機は満席である。また3人というのがよろしくなく、2人並んで座れる席と少しはなれた窓際に1人ということになってしまった。修二くんが、
「僕が一人で座るよ」
と言ってくれたのだがルドルフの意見はちがった。
「パパとママで並んで座りなよ。遠慮しないでさ」
などと生意気なことを言う。強くすすめてくるので、たまにはルドルフの意見に従った。ルドルフの隣は感じのいいおじさんで、挨拶だけはしておいた。
今日は修二くんに窓際に座ってもらう。修二くんはいつでも私になんでも譲ってくれるので、今日くらいは景色のいい方に座ってもらった。
飛行機の離陸というのはいつでもワクワクするものである。
滑走路のはしに一旦停止し、エンジン音が大きくなり、最初はゆっくりだが飛行機が走り出すとどんどん速くなっていく。心のなかで行け!行け!と思ってしまう。そしてちょっと体が席に押し付けられ、地面が遠ざかっていく。修二くん越しの窓からは地面が見えたり空が見えたりする。いつも感心するのは、機体の姿勢を変化させればかならず体にその加速度を感じさせるはずだが、それがほとんどわからない。パイロットの方が乗客に不快感を感じさせないよう、ていねいに操縦しているのだろう。
そんな丁寧な操縦をしてもらっているので、乗客として私は何も怖くない。でも私は右手をのばし、修二くんの左手に重ねた。ただただ二人の時間を感じていたかった。
幸せな時間というのはあっという間に過ぎるものである。私は飛行機の振動で目を覚ました。だから正確には幸せな時間を満喫して過ごしたのではなく、単に寝て終わってしまった。おまけに喉が痛い。
「風邪ひいちゃったかな?」
「口開けてねてたよ」
ちょっと恥ずかしい。
ルドルフの隣の方に挨拶をする。「ご迷惑でしたでしょう」と言うと「戦車の話がおもしろかった」との返答。どうもルドルフは勉強していないときは戦車の道にいれこんでいるようだ。
前回迎えに来てくれたカサドンは、真美ちゃんと道東へ旅行中である。迎えに来るとか抜かしていたのだが、そんなことより真美ちゃんを大切にしろと追っ払った。そういうわけで特急で札幌へ行く。今夜はとりあえず明くんのところに転がり込む予定だ。荷物を置きに地下鉄に乗り換える。ルドルフは地面の下をすすむのが面白いらしく、真っ黒な窓の外を見つめていた。
地下鉄の改札で明くんとのぞみが待っていた。手を振る二人に私の足がつい速くなってしまう。
「ママ慌てないでよ」
そう言うルドルフは満面の笑顔だった。
久しぶりの明くんのお家は、入ったらいきなりいい匂いがしていた。
「ちょっと早いけど、お昼の用意しといた」
ニンニクとトマトの香り、パスタだろうか。
「下茹でしてあるから、すぐできるよ」
明くんとのぞみの部屋は、前に来たときと比べて簡単に言えば女性要素がふえていた。まずかわいい写真立てが増えていた。明くんとの2ショットかと思ったら、上高地で6人写っていた。もちろん2人のほかは、私、修二くん、優花、健太くんだ。テーブルには切り花がある。ちっちゃいぬいぐるみもいくつかある。のぞみはボーイッシュなキャラだったが、やっぱり女の子なのだ。
「ママ、失礼だよ」
「あは、ごめん」
ルドルフは私の思考を読んでしまう。
「ルドルフは人間の考えてること、わかっちゃうの?」
「ううん、親しい人だけ。ただ、悪意ある人は何となく分かるし、他人でも読もうとすれば読める」
「そっか」
とにかくルドルフに隠し事はできないようだ。
「大丈夫、ママの考えは僕じゃなくてもみんなわかってるよ」
思い当たるフシはある。
お昼はやっぱりパスタをトマトソースで和えたものだった。厚切りのベーコンがゴロゴロしていて美味しかった。ナスも美味しいし、粉チーズとよくあっている。ルドルフはもちろん口のまわりを真っ赤にして、みんなに笑われていた。
私の不満点はただ一つ、ワインが無いことだが昼食から泥酔するわけにはいかないのでしかたがない。それを口にしたらのぞみが、
「夜は飲むか!」
と言った。
そう言えば札幌の2年間、女子会と称して私の家でよく飲んだ。それを思い出していたらルドルフが、
「ママの暮らしてた家見たい!」
と言った。




