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第22話 両親の説得

 去年のSHELの一般公開のとき、本来なら実験はすべて停止するのだが榊原先生はチョッパー分光器だけ動かしていた。そして修二くんをそそのかして私のスマホに位置情報アプリをインストールさせ、その情報とチョッパー分光器の測定結果を突き合わせることを計画していた。それによってチョッパー分光器のデータのあれ具合と私の位置との相関をあきらかにしようとしたのだ。あとで落ち着いて考えたら、私と測定器の安全距離とかがわかりそうで有益な実験だとは思った。だがあのときは無断でやられたのでカッときてしまい、勢いですべてのデータを消去してしまっていた。


 まあそれはともかく唐沢・神埼両家にルドルフの存在がバレた翌日の日曜日、私と修二くんは新発田先生とルドルフをのせて車で都内へと向かっていた。両家に状況を説明するためである。榊原先生が行くと言ってくれたのだが、新発田先生はまだ私達に責任を感じているとのことで同行してくれた。

 7月近い関東の空は厚い雲で暗い。どうルドルフのことを説明するか、うまく考えがまとまらない。後ろの席から新発田先生は、

「僕がうまく説明するから、聖女様は運転に集中していいよ」

と言ってくれる。

 首都高はスカイツリーの近くで渋滞になってしまった。ルドルフはうれしそうにスカイツリーを見上げていた。


 渋谷の隣の駅の高級ホテルの地下に車を入れる。このホテルの個室を予約してある。土日の昨日の今日で予約がよく取れたものだと思う。両家の両親にいっぺんに説明するため、このホテルまで来てもらうことにしたのだ。親とはいえ呼び出しておいて待たせるなど失礼極まりないが、新発田先生に無理を言ってかなり早い時間に東海村を出た。予定通り渋滞にはつかまったが、予定の30分前には到着できた。ほっとしてロビーに向かうとなんと、すでに4人がそろっていた。ロビーの一角の椅子に両家が向かい合って、なにやら話している。そしてお互いペコペコしているから謝罪合戦の最中に見える。

「新発田先生」

「うん、ルドルフくんは僕が見ているから、行っておいで」

「「ありがとうございます」」


 高級ホテルのロビーで出せる最大戦速で移動する。

 修二くんが小声で言ってくる。

「杏、おちつけよ。新発田先生にまかせれば大丈夫だから」

 要は黙っていろということだ。確かに余計なことを言いそうな気がしないでもない。

「わかった。私はとにかく頭をさげてる」

「つきあうよ」

 やっぱり修二くんは私の王子様だ。


 修二くんはひとりで4人に挨拶し、少し遅れて登場した新発田先生を紹介した。新発田先生の登場で、両家の親たちは大人しくなった。


 予約していた個室に通された。大きなテーブルを囲んで一同着席したが、なかなかだれも口を開かなかった。その様子を見て取った新発田先生が話を始めた。

「みなさん、急にこのお二人が養子をとったことで、混乱されたことと思います。それで事情を知る私が、ご説明いたします」

 新発田先生が一同を見回した。

「まず、ルドルフくんは本来この世界の住人ではありません。本当は異世界のドラゴンなのです」

 一同あぜんとしている。

「実は修二さんと杏さんは、異世界に行って、帰ってきたのです。その異世界で、杏さんとお仲間がルドルフくんを卵から孵し、ルドルフくんはドラゴンとして彼らを守ったのです」

 言葉を失う一同に、先生は言葉を続けた。

「メチャクチャな話だとお考えでしょう。私も最初は信じられませんでした。私も病気で休職中とはいえ物理の研究者です。異世界など夢物語だと思っておりました。ルドルフくん」

「はい」

「皆さんに向こうの世界の景色をみせてあげてくれないか」


 ルドルフから私の脳裏に、なつかしい映像が送られてきた。

 最初に見えたのは、8歳の子どもの私達のすがただった。

 そして魔物に襲われ戦闘になったとき、戦争で城壁に立ち指揮をとったとき、騎士団で生活する様子など懐かしい光景が次々と見せられた。それでわかるのは、私がルドルフを呼んでいないときでもルドルフはちゃんと私達の様子を気にしていて、ときどきはこっそり覗きに来ていたことだ。そして最後に見せられた映像は、私達8人の結婚式だった。


「みなさん、おわかりいただけましたか。杏さんや修二さんの様子を見れば、事実であることがおわかりいただけるでしょう」

 私は自然と涙していた。


「まあおおよそのことはわかりました」

 お義父様は納得してくれたようだ。

「しかし先生、ルドルフくんは二人の子どもということであれば、いつまでも先生のところにお世話になるのも申し訳ない。修二、幼稚園をさがさないといけないな。東海村は幼稚園が少ないのか?」

「あ、いや」

 修二くんが返事しようとしたのを新発田先生はさえぎった。

「あのですね、ルドルフくん自身が幼稚園へ行くのを嫌がっているのですよ。正確には勉強に忙しくて幼稚園へ行っているヒマがないのです」

「勉強ですか」

「ええ、両親の生きる物理の世界を早く理解したいのでしょう、電磁気学を勉強したいそうで、僕が小学校の算数から教えています。明日から中学の数学です」

「そんな、ご迷惑を」

「いやいや、楽しいんですよ、一緒に学ぶのが。ははは」

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