第13話 短い札幌訪問
網浜研ゼミ室には、すでに網浜先生が待ち構えていた。
「唐沢くん、聖女様、ひさしぶり!」
「ご無沙汰しています」
「ルドルフくん、こんにちは」
「こんにちは!」
明くんもすでに来ていた。ある程度話が通っているようで助かる。わいわいとやっていたら、のぞみと小原玲子ちゃんが顔を出した。
「ルドルフ~!」
のぞみはいきなり私を放置してルドルフに抱きついた。玲子ちゃんもルドルフの頭をなでなでしている。超美人の玲子ちゃんになでられたルドルフは嬉しそうな顔をしている。ルドルフの抱擁を終えたのぞみは、私をゼミ室のすみに引っ張って行った。
「で、手続きうまくいったの?」
「うん、ルドルフがやった。戸籍謄本、見る?」
しばらく謄本をじっと見ていたのぞみは、明くんを呼んだ。
「明くん、私達も、どう?」
「お、おう」
あいかわらず押しの強いのぞみに私は笑ってしまう。面白いので明くんを攻撃しておく。
「あ~ごめん、さっき区役所で用紙もらってくればよかった」
「お、おう」
すると修二くんまで、
「あれ、ネットでダウンロードできるよ。俺、はんこも今あるし。保証人、大丈夫だよ」
とのってきた。
恩師の方々、先輩達、仲間達、後輩達、ずっと話をしていたいが飛行機の時間がある。後ろ髪を惹かれる思いで理学部棟をあとにした。
大学構内をもどると、なつかしいカフェが校門近くにある。
「修二くん、まだあのぬいぐるみ、売ってるかな?」
「ああ、あるんじゃない」
「あれ、けっこういいよね」
そう会話しながら通り過ぎようとすると、ルドルフが言った。
「僕、あそこでまほちゃんみほちゃんにお土産買いたい」
修二くんの顔を見るとうなずくので、
「いいけど、時間あんまりないからね」
と言いきかせてカフェに行った。
正門近くのカフェは、最初に札幌国立大学に来たときにも利用したし、いろいろ思い出がある。修二くんがのぞみのサンプル作りに参加していたことに嫉妬して、仲直りしたのもこのカフェだ。
カフェの売店で修二くんは、
「ぼくはSHELのみんなのお土産買うから、杏はルドルフの買い物手伝ってあげてよ」
と言うので、
「オッケー」
と返す。
ぬいぐるみは、私の家にあるのと同じシマエナガのぬいぐるみがまだあった。
「あれにする?」
とルドルフに聞くと、
「いいんだけど、みほちゃんには大きすぎるかな」
などと的確な事を言う。
「じゃ、ちっちゃいのにする?」
「うん、そうする」
「じゃ、かわいいの2つ、選ぼうか」
「うん」
ルドルフは楽しそうに2つ選びだした。私はちょっと奥で目についたかわいいのをもう一つ手に取った。
「これはルドルフに買ってあげる。3人でおそろい、いいでしょ?」
「うん!」
更に私は小鳥のマスキングテープが売られているのに気がついた。
「こういうの、女の子好きよ」
ルドルフは色違いで2つ選んだ。
私はぬいぐるみ3個にマスキングテープ、修二くんはお土産のお菓子類と買い込んで結構な荷物になってしまった。日帰りだから手ぶらに近い荷物で来たのに、帰りは大荷物で笑ってしまう。
札幌から電車で空港に向かう。茨城空港へは朝と夕の一本ずつしか便がないから遅れるわけにはいかない。その関係で札幌観光なんてなにもできなかったし、大学の人達への挨拶も挨拶しただけになってしまった。せめてもと車窓の風景を目に焼き付ける。
私はルドルフを膝に抱き、修二くんは私の足のあたりに手を置いてくれている。ルドルフの暖かさ、修二くんの手のぬくもり、どちらもしあわせだ。
「修二くん」
「何?」
「私、修二くんと出会えて、ほんとよかった」
「そう、僕もだよ」
「修二くんの感じる幸せより、私が感じてるほうがずっと上だよ」
「そうかな」
「そうだよ。修二くんと出会ってなかったら、私、きっとひとりでずっと物理やってたと思う」
「仲間はいるじゃん」
「仲間はね。でも人生のパートナーとなると、そうはいかないよ」
「そうかな? 僕としては杏が他の人に取られるんじゃないかと、気が気じゃなかったんだけど」
「そうなの?」
「そうだよ。杏はもっと自分に自信もっていい。だって聖女様だからね」
「あだ名だけだよ」
「よく言うよ」
そうなのだ。あっちの世界では本当に聖女になってしまい、それなりに活動してきた。それはそれで充実していた。
「戻りたい?」
修二くんが聞いてくる。
「戻りたくないと言ったら、うそになる。でもこっちの生活も大好き。ルドルフも来てくれたし」
「そうだね。ま、なるようにしかならないだろうしね」
いつの間にかルドルフは、私の膝の上で寝ていた。
茨城空港にたどりつくと、私のスマホに真美ちゃんからメッセージが来ていた。
「ワシだけルドルフに会っとらん。ずるい」
修二くんにそれを見せ、ルドルフには、
「今度ネリスに会いに行こっか?」
と聞くと、
「うん!」
と元気な返事が帰ってきた。




