談笑
結果、断った。
だってそんな無理難題なら受けるはずがない。まあ、僕的にはこの忌まわしい4つの翼が無くなるのは嬉しく思う。が、翼に関して嫌な思い出があるというか思い出しつつある記憶の断片にあった。
僕の翼は元々六つあったようなのだ。
嘘ではない、本当なのだ。
以前、翼は天使の強さの証明であるのだが僕は翼があるのにも関わらず、力はなく弱かった。故にそのうち二翼は兄の手によりもがれてしまったのだ。
その頃、両親は兄の教育に勤しみ僕どころか妹弟にさえ目を向けていなかった。両親は過剰なまでの兄へ期待し、兄はその当てつけを僕や妹弟にしていた。暴行という形で。
『なあ………お前なんかに俺の気持ちがわかるか?あの狂った父さんと母さんに囲まれる気持ちを!』
そう叫び、両親も知らぬ秘密部屋でお腹を抱えうずくまる僕の頭を蹴り続ける。離れた場所には既に痛みに気絶した弟妹が倒れている。
二人は初めこそ抵抗するものの、兄の魔法により拘束されサンドバック状態に。
『お前には翼が六つあって、俺には二つしかない。それなのに、なんでお前は弱い!俺より普通は強いはずだろ!?』
脳がグラグラする。朦朧とする意識で、僕が理解したこと、それは。
兄は狂人になってしまったこと。
そしてその兄が僕を恨んでいること。
本来なら翼を多く持つ僕が期待され、兄の立場にいたであろう。が、そんな未来はなかった。兄にとっては初めは期待されるのは優越感バリバリだったはずだ。他の兄弟と比べて、両親に贔屓されてたからだ。
けど、両親の徹底した過剰で異常な英才教育により壊れた。きっとそれは、幸せだった兄にとっては地獄より死よりも恐怖な体験だった………と思う。
兄はきっと、それを僕に変わって欲しかった。
オリンピアのフルの使命と家訓から逃げ、両親とは縁を切りたかったのだ。せめて、俺より翼を持っているならもっと強くあって欲しいというただの兄の怠慢だった。
『お前が……お前さえ居なければっ!!』
そう言って僕の背中の翼の生え際に手を異常なまでの握力で握り引っ張る。勿論、翼は簡単にもげるわけでもなく、かつてないほどの激痛を味わったのだ。
天使にとって翼は体の一部であり、神経が繋がっている。
だから、剥がれ血からの限りに翼を引っ張られた時は、全神経がひしひしと糸のごとく悲鳴をあげ、気絶するにも痛みでできず、一刻一刻が永遠に感じられた。
悲鳴を嗚咽も零せぬほどの痛み。なぜ、忘れていたか疑問に思うほどの苦痛。それから翼は二度と生えては来なかった。
だから、翼を剥がれるのは二度とごめんだ。
「うむ、主人もなかなか苛烈卑劣な過去を持っておるの。不憫じゃ」
本当に思ってんのかよ。
「本当じゃよ。同時に羨望じゃとも思うの。どんな記憶であれ思い出しつつあるのじゃから」
思わずハッとした。当たり前のことだけど、ファトは全てが分からないのだ。僕は名前は作られた記憶があった。けど、ファトは自身の名前しか知らない。それがどれほどの恐怖か僕とは似ていても似つかないものもある。
「ごめん、ファト……」
「なぜ主が謝るのじゃ?」
「だってお前は記憶一切ないんだろ?それってすごく怖いんじゃないのか?」
すると、ファトは自虐的に愉快げに笑った。
「わしを誰じゃと思っておる。わしは悪魔じゃぞ?恐怖や苦痛はむしろもってこいじゃ。無知とは、道とは素晴らしいものじゃぞ?」
なぜならこの世の全てがわしの知識の糧となるのじゃからな、と言い切った。その瞳には自信を知る貪欲な探究心と先見えぬ未来へと好奇心を抱いていた。
「…………やっぱ、ファトは悪魔だな」
ファトの心からの嘘の無い言葉。それが悪だろうが関係なく、ただ羨ましく思うと同時に尊敬した。誰もが迷うであろう事を当然のように答える。少しだけ、ファトのことは知れた気がした。
思わず笑うと、ファトは不思議そうに首を傾げる。
「何故わらったのじゃ、主よ?」
「……いいや、なんでもない。お前はやっぱり最低最悪で、最高の悪魔だ」
「そこは相棒と呼んで欲しかったの………」
その日、ファトとは一晩を通して何気ない話をした。ファトの質問に僕が答え、僕の答えにさらなる疑問を重ねる。そして僕の抱えた悩みを、僕にはない趣向で答えてくれる。
それは、とても楽しく悲しく嬉しく羨ましく――――――――――――――――愉快な談笑だった。




