投げる
少しして、管制室に全員集合との放送が流れた。管制室とは、初めてこの船に乗った時に激しい揺れに耐えた部屋のことだ。
行ってみると、プロメと少佐がシートに座ってモニターを睨んでいた。
「みなさん、これから少し揺れますので、シートに座ってシートベルトを着けてください」
プロメの前の大きなモニターに船外の宇宙の映像が映っていた。
アームが2本伸びて、2本の腕で小さい石を掴んでいるのが見えた。プロメがボロンで作った3メートルほどの大きな石だ。
「何が始まるんだ?」
「軍曹、これからな、これを投げる」
「どこに?」
「地球に決まってるだろ」
「決まってるのか・・・」
「みなさん、回転を上げますので遠心重力に注意してください」
プロメが言うと、グォンと斜め下に体が引っ張られた。シートに座った俺たちは右に強く引っ張られた。シートベルトが体に食い込むほどの力だ。それがどんどん強くなっていく。
「まだなの?!」
テルルが叫んだ。かなり限界に近かった。
「いっくぞー!」
少佐が叫ぶと、モニターの中の2本のアームが大きくブォンと動いて画面から見えなくなった。
「制動かけます」
体が逆側に引っ張られ、徐々に体が軽くなった。
「お疲れさまでした」
重力が元に戻っていた。
「しばらくしたら地球行きの船を作ります。見学しますか?」
「どこで作るんだ?」
「製造空間です」
「外側の宇宙空間じゃないのか?」
「内側で作ります」
「面白そうね、みんなで行きましょうよ」
俺とマリーは頷いた。
プロメの準備が終わるまで、俺たちは食堂で時間を潰した。
「地球のテレビって、ここだと見られないのかな」
「地球は近いけどね、この船は電波通信の設備が無いのよ」
「電波通信ってパラボラアンテナみたいなやつか?」
「そんなものね」
「宇宙船なのに?」
「トランとの通信はプラセオだし、地球に今プラセオを投げたけど、到着するまでまだ少し時間がかかるわね。それにアレは別の目的でほとんど使っちゃう予定なの」
「トランでテレビを受信してたやつは?」
「あれは私の研究室にあるけど、もうそろそろ残量が無くなる頃ね」
「前に、残り10パーセントって言ってたっけ」
「もうほとんど残ってないはずよ」
「そうなのか」
「みんな暇そうだな!」
食堂に少佐が入ってきた。
少佐は自販機から飲み物や軽い食べ物を出し、俺たちと同じテーブルに座ってパクパクと食べた。
「しょうがない、あたしのコレクションを入れておくから好きなのを見ていいぞ」
少佐が大きなモニターを指さした。
モニターに何かの一覧が表示された。よく見るとアメリカの映画が並んでいた。
「あとで全部見られるようにしとく、とりあえずこれだけな」
「すごいコレクションだな」
「地球だと怒られそうだけどな、ここは地球じゃないからな!」少佐は笑って言った。
俺たちは荒廃した世界が舞台の映画を見て時間を潰した。
映画の中では、太った女たちの胸に搾乳機が付けられ、悪の軍団が牛乳の代わりに母乳を飲んでいた。牛がいないのだろう。
巨大な金庫の中に入れられていた美人たちが、大きなトレーラーで逃げ出す話だったが、荒れ果てた無秩序の世界では、美人は金庫の中のほうが安全な気がした。
「ここの4人は、間違いなく金庫の中に入れとかなくちゃいけないレベルだな」
「やめてよ、私だって逃げ出すわ」
「私はこの坊主頭の女がいいな、トレーラーを運転してみたい」
「マリーは確かにトレーラーが似合いそうだな」
「そうだろう」
俺たちはのんびりと楽しい映画を見て、映画が終わったころにプロメと少佐が現れた。
「本当は少し前に準備できてたんですが、この映画が終わるまで少し待ってました」
「なんで?」
「この映画が好きだからです」
「うん、いい映画だったな!」マリーが言った。「バカなところが実に良い」
「それでは地球行きの宇宙船を作ります。エレベーターで下に行きましょう」
「了解だ」
俺たちは全員でエレベーターに乗ってボロンの製造空間に下りた。
地球に行く船を作るという。いったいどんな船なんだろうか。
プロメが手を広げると、床の大きなボロンにオレンジの四角が現れ、大きくなったり小さくなったりした。
「どこまで作れるんだ?」
「小さなものから大きなものまで」
プロメがそう言うと、床のオレンジの枠が10センチぐらいに小さくなってから、はるか遠くまで大きくなった。
「直径76メートルの円形をしていますので、そこまでは作れます。あと高さは9メートルほどですので、それ以上は外のじゃないと作れません」
「なるほど・・・」
1回広がった四角はゆっくりと縮み、20メートルほど離れた所で大きな長方形になって止まった。
「まずは小さい物からいきます」
オレンジの枠が光り、長い何かが地面から顔を出し、それがニュルっと作成された。
出てきたそれは、地球の大型トラックだった。後ろに銀色の貨物スペースがある。よく見るとナンバーも付いていて、フロントにはヒノと英語で書いてあった。トラックはちょっと古ぼけていて、使い古された感じがする。
「何を作るんだっけ?」
俺はトラックを見ながらプロメに聞いた。たしか宇宙船なんじゃなかっただろうか。
「これはスキャンしてコピーしたものではなく、設計図からの自作ですので、トラックに見えますが中身はぜんぜん違います」
「トラックを改造したわけではないのか」
「トラックをスキャン出来ませんので」
「地球には行ったことないものな」
「そうですね」
「続いて船です」
地面からトラックを囲むように白い壁が出てきた。壁はすっぽりとトラックを覆ってしまった。トラックは地面から持ち上がり、白い船の中に隠れてしまった。普通の海を行く船だった。天井からアームが降りてきて、倒れないように船を固定した。
「上は?」
おそらく上から見たらトラックが丸見えの状態だ。
「今から作ります」
少し離れた所に船の甲板と操船するための高めの操縦席が現れた。天井からアームが4本降りてきて、その船のパーツを掴み、トラックの上にフタをした。プラモデルみたいだ。
「大きなクルーザーみたいだな」
「コウシンマルみたいだな」
「なんだっけそれ」
船の下から船を固定するための台が出た。タイヤが付いている。
台は船を持ち上げ、ぐるっと回転させた。
「なかなか良い出来じゃない」少佐が言った。
「次に水中用です」
船の左右にV字に黒い大きいのが作成された。半円の黒いそれは、中が空洞だ。
「これを閉めます」
ガコーンと音が響いた。船は黒いのに包まれて見えなくなった。
そこには巨大な長くて太い潜水艦があった。真っ黒な潜水艦に大きなクルーザー船は収納されてしまった。
「この外に宇宙用です」
さらにV字に何か黒い半円で、潜水艦よりも大きいのが現れ、潜水艦をゆっくりと持ち上げた。
「完成です」
「これは・・・」
俺たちは潜水艦が挟まれた黒いのを見上げた。




