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ナーヌ

「ジルコンはね、ナーヌで開発されたのよ」テルルが言った。


「トランで作られたんじゃないのか」


「モコソのアプリケーションとして、地球だとスマホアプリってことね、モコソアプリとしてナーヌで開発されたの」

「それがトランにも来たのか」


「ジルコンの開発者は世界企業なのよ。2つの星を股に掛ける巨大企業ね」

「何だか地球にも似たような会社があるな」

「知ってるわ」

「それで?」


「モコソのアプリとしてジルコンは大衆を操って、最終的に巨大サーバーを衛星軌道上に置いたの。そしてあの電力を供給する巨大太陽光パネルは増え続け、今ではナーヌの昼側の中心に巨大な影を落としてるの」

「巨大な影?」


「ナーヌの平均気温はかなり下がり、寒冷化しています」プロメが言った。

「寒冷化って、そんなに気温が下がってるのか?」

「緑の土地は10パーセント減りました」

「ナーヌの人々はどうしてるんだ?」


「ナーヌには、ボロンもプロメリもありません」

「それってどういう意味だ?」


「ナーヌの人々は、プロメリの体にはなっていないということです。私たちとは別の方法でモコソを体内に組み込みました。機械を体の中に埋め込む方法です」

「埋め込む?」

「その方法で仮想世界へのフルダイブに成功しました」

「それで?」


「ナーヌもトランから買ったDNA変更技術で、トランのように病気の排除と犯罪の撲滅に成功しました」

「トランがDNA技術を売ったんだったな」

「そして生身で仮想世界に入り浸り、おそらく肉体の寿命を迎えました」


 俺はナーヌの地上を映す映像を目を凝らして見た。

 そこには人も車も船も、動くものは何も映っていなかった。雑草が道路と建物を侵食しつつあった。

 大きな港の海の上を、海鳥が飛んでいるのだけが見えた。


「もう誰もいないのか?」

「わかりません。もしかしたらジャングルの中などに原始的な生活を送る少数民族などが残っているかもしれませんが、長く観察していますが動く車などは発見されていません」

「そうなのか・・・」


「いつかナーヌに行ってみたいと思っていますが」プロメがナーヌの映像を見ながら言った。「ナーヌの防衛衛星が稼働している間は近づけません」

「物流とか貿易があるって前に聞いた気がするが」

「今ではナーヌと連絡が付きません。物流船の通行許可を出してくれる人がいないのです」

「なるほど・・・。高度なシステムは人がいないと崩壊するんだな」

「システムによっては、ですが」


 誰もいなくなったナーヌの地上、そして巨大なジルコンの衛星。

 人を駄目にするジルコン。いや、ジルコンは人に幸福をもたらすために作られたのだろう。仮想世界の中で人は幸福なのだから。


「防衛衛星とかジルコンの本体とか、こっちから攻撃してぶっ壊すわけにはいかないのか?」


「ナーヌの防衛衛星を攻撃すれば、冷戦モードが終わります。ナーヌがどれだけの核ミサイルを持っているのか分かりませんし、一度にどれだけ撃ってくるのかも予測できません」

「ナーヌには誰もいないんだろ?」

「あちらもこちらもAIの自動制御です」

「自動制御・・・」


「ナーヌの自動制御の設定がどうなっているのか知る術がありません」

「勝てないのか?」

「こちらの防衛衛星の迎撃性能以上のミサイルが来た場合、トランは終わります」

「そうか・・・」


 俺は宇宙空間を飛んでくる核ミサイルを想像した。それを撃ち落とす防衛衛星、そしてそこをすり抜けた核ミサイルが地上に落ちるのを想像した。マリーと俺の子供が心配だ。

 地下都市にも被害は出るのだろうか。ジルコンの作り出す仮想世界に行って戻らない金属の体の人々。


「ジルコンか・・・」


「ジルコンの本体も防衛対象になっていると思いますが、ジルコン本体の破壊に成功したとしても、ジルコンアプリで並列化された多くのモコソの中にあるジルコンアプリは消せません」

「ごめん、良く分からん」


「無理ってこった!」少佐がソファーの上で大声で言った。




 

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