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星空

 アニメは楽しかったが、狭い空間での長時間の移動はさすがにキツかった。


 真ん中にベッドはあったが、みんなに囲まれて真ん中で寝るのは、とてもリラックスできる空間じゃない。椅子に座り疲れた俺たちは、床に座ったり色々と体制を変えながら、過ぎる時間を必死に耐えていた。


「4つ目の街に入りました」プロメが言った。

 プロメはずっと車の外についているカメラの映像を監視している。


「俺たちが全滅した街か」

「全滅じゃないぜ、俺とプロメは生きて帰った」

「撤退ですね」


「パトロールの車は多そうか?」

「どうでしょう。今のところ見えませんが、念のために前とは違う道を使います」

「任せる」

「前回は右回りでバイパスを使いましたが、今回は左回りで行きますね」

「了解だ」


 俺たちは床に寝転んだり、3つ並んだイスに寝転がったり、ベッドの上でブリッジしたり、踏み台昇降運動をしたり、必死に耐えていた。


「少佐、お笑いは無いか?」


 俺はベッドの上で逆立ちをして足を天井に付けて踏ん張りながら聞いた。


「あー、軍曹」少佐はプリンのような甘い食べ物をスプーンを使わずに口の上でプッチンして丸ごと一気に食べながら答えた。「日本人ってアメリカ人のお笑いは分からないだろ?」

「ああ、そうだな」

「同じ地球人でも、言語が違うだけでお笑いは分からなくなる」

「もしかして・・・」

「星が違うとお笑いは合わないんだよ」

「マジか」

「ぜんぜん笑えないってわけじゃないんだが、コレクションは無い」

「そりゃ残念だ」



 俺たちは4つ目の大きな街を無事に通過した。


 この通過時間を考えると、これは街というより県なんじゃないかと思ったほど、時間がかかった。日本語を間違えてるのかもしれない。


 5つ目の街に入った所でテルルが吐いた。もうみんな限界だった。


 そんなみんなの疲労状況を見て、プロメが「1回地上に出ましょう」と言った。

 車は目的地を変更し、長い上り坂を登った。

 地上に出ると、クネクネとした道をさらに登った。車はクネクネ道をしばらく登り、そこで停車した。


 プロメがサイレンと車のライトを全て消した。車内が真っ暗になった。


「出ても大丈夫です」


 プロメが外部カメラの映像を見ながら言った。


 俺たちはドアを開け、久しぶりに車外に出た。

 空を見上げると、満天の星空だった。天の川が綺麗に見えた。

 ただ、外の空気は思ったよりも冷たく、息が白くなった。それでも俺たちは、その冷たい空気を大きく吸い込んで何回も深呼吸した。


 少し落ち着いてくると、周りの景色を見渡した。


 ここは山の中腹だった。

 下を見ると、真っ暗な大地に真っ黒な工場のシルエットが見えた。その中に赤いライトをピカピカと点滅させたパトロールの車が3台見えた。3台はグルグルと街を巡回しているようだった。


 反対側を見ると、小高い山が星明りに照らされて微かに見えた。星空のほうが遥かに明るい。そこに黒い山のシルエットが見えた。


「何か建物があるわね」

 よく見ると山のシルエットの中に、人工物のシルエットが隠れていた。道路の反対側、すぐそこだ。

「これは、天然のプラネタリウムです」

「天然のプラネタリウム?」


 ちょっと聞きなれない言葉だ。プラネタリウムに天然ってあるんだろうか、天然温泉じゃあるまいし。


「入れるか見ますので少し待ってください」


 プロメはそう言って建物の入口らしき場所に歩いて行った。


 プロメの帽子が闇の中でチカチカ光った。次の瞬間「ウィン」という音と共に入口が開いたような音がした。


「入りましょう」


 テルルが闇の中で俺たちを呼んだ。


 建物の中に入ると少しは暖かかったが、暖房はついていなかった。

 入口の少し広い空間から、廊下が奥に伸びていた。

 廊下には小さなライトが床すれすれにあり、緑の弱い光が廊下を微かに照らしていた。


 廊下を奥に進むと、そこには広い空間があった。夜の闇の中で、灰色の大きなイスが背もたれを倒されてズラッと並んでいるようだった。


「ここの棚に毛布があります。たくさん取ってイスに寝てください」


 プロメはこの施設を利用したことがあるみたいだった。プロメの指示に従って、俺たちは毛布を何枚か取ってイスに横になった。


 イスに寝転がって天井を見上げると、天井は無かった。いや、天井はガラス張りだった。

 目の前に星空が広がった。


 無数の星たちが寒い空気の向こうでキラキラと輝いていた。


「ここで朝まで眠るのか?」俺は誰ともなしに聞いてみた。

「朝は来ないって言ってるじゃない」テルルが答えてくれた。


「そうだったな。夜の側ってのは、そういう事なんだな」

「そうね、夜の側なんだから、ずっと夜よ」

「すごいな・・・」


 俺は目の前に広がる星空に圧倒されていた。


「毛布ちゃんと掛けてね」

「ああ」俺は毛布を3枚体に掛けた。「何だか、星が動いてるのが見えるみたいだ」

 星はじっと見ていると、左から右にゆっくりと動いているように見えた。

「動いてるわよ」

「そりゃそうだが」


「トランは1年が地球の12日だって前に話したでしょ?」

「ああ、覚えてる。12日で太陽を1周するんだっけな」

「だから星空も12日で1周するのよ」

「そうなのか」



「私が起こしますので、皆さん少し休みましょう」プロメが言った。


 俺は星空に感動しすぎてずっと目を開けていた。そのつもりだったのだが、いつの間にか眠っていた。



 

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