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恋心

 テルルの話の続きだ。




 人が人として完璧になった世界。


 知的生命体として、完璧な肉体と暴力性のない平和な精神を持って、所有という概念を捨てて、お金も捨てたわけね。


 労働は無く、すべてAI管理の機械任せ。完璧な安らぎの世界ってやつね。


 食べ物はボロンで元素から合成する。コピーデータをもとに肉や魚や野菜の料理を作るの。まったく同じものをね。


 膨大な料理をスキャンして、おいしい料理のデータを集めて、料理の味に一生飽きることは無いってぐらいのデータを集めてね。

 そして今後は動物は一切殺さない。植物も完全にノータッチ。そういう仕組みを作ったの。



 でもね、ひとつの事件が起きたのよ。


 私たちに唯一残った強い感情、それは恋愛感情だった。


 暴力をふるうような感情は排除して、物欲も無意味な世界になったけど、人を好きになって、好きな人を手に入れたいという感情はあったの。


 そしてね、ある時、ある女の人が、職場の大きなボロンを使って、好きな人を作ったの。


 ボロンは人も作れたのよ。


 その人はちゃんと好きな人に告白して、でも別の好きな人がいるからって断られて、それでも大好きで、何回か断られて、どうしようもなくなって、自分の気持ちが抑えられなくなって、好きな人をコピーして作ってしまったの。


 でもね、作った人もやっぱり、別の好きな人がいるわけよね。だって同じ人なんだもの。


 目覚めて、ここはどこだろうって思って、目の前には何回か告白されたことのある子がいて、「何でここにいるの?帰ってもいい?」って聞いて、そうしたら女の子は「ごめんなさい、ごめんなさい」って泣き崩れてしまった。訳が分からなくて彼はそのまま家に帰った。

 そうしたらもう一人の自分がいたのよ。


 犯罪の無くなった世界での、犯罪だった。


 人をコピーしてはならないって法律は無かったけど、絶対にしてはならないことだってことは誰もが分かった。


 そしてね、恋愛感情もDNAから排除された。繁殖行動に付随する強い感情ってやつね。


 

 さらにボロンの開発者のプロメは、絶対に人をコピーできないようにする対策を求められた。


 ボロンの改良は簡単だった。人体の作製は禁止って設定すればいい。さらにプロメはマリーと相談して、DNAに本能的恐怖心を強く植え付けて、本当に絶対に解除できないほどに強く恐怖心を植え付けたの。


 でもそれだと破られる可能性はある。ガードが弱すぎるのよ。

 絶対に出来ないようにしなければならなかったの。


 それでね、コピーするためには、最初にスキャンをしなければならないわよね。フラッシウムという素粒子スキャン装置でのスキャンがね。


 この装置にスキャンされないためのガードを作らなければならなくなった。

 スキャンされなければコピーを作られることは無いから。

 だけど素粒子を使ったスキャンのガードは、不可能に近かった。


 でも天才のプロメは1個だけ方法を思いついた。


 人の体に特殊な重金属の合金を、血液に混ぜて循環させれば、スキャンは完璧にならず、エラーになるってことを考えついたの。


 二度と同じことが起こらないように、全ての人にその重金属を流す措置が施された。


 そして、体に金属を流したことが、あの小さな金属の体への始まりだったの。




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