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2人

 ここがたぶん、人が人として完璧だったポイントだったと思う。


 私は良しとはしないけれど、生物として、知的生命として、完璧な社会と完璧な肉体を作り上げた瞬間だったと思う。

 病気は無く、労働は無く、自然も破壊しない。そして犯罪も無い。


 でもね、ここでひとつの事件が起きた。


 ここからは、ボロンという機械の話なんだけど、もうすぐお客さんが来る。



「誰が来る?」

「世界最大のボロンを動かす人」

「ボロンって何でも作れるあの機械だろ?」

「そうよ」


「世界最大って、何を作る?」

「核ミサイル」

「は?」

「防衛衛星」

「おお、防衛衛星がどれだけでっかいか知らないが」

「宇宙船」

「宇宙船ってあるのか?」

「無いけど、作る予定」

「どこで?」

「宇宙よ、あたりまえじゃない」

「そうか・・・」



「テルル、もう来るぞ。入口まで迎えに行ってくれ、受付に入館許可をふたつ発行した。窓口の中に出てるからな、渡してくれ」

「わかったわ。トミ、行きましょう」


 俺たちは久しぶりに建物の外に出た。地下だが。


 地下の、俺たちが初めてここに来た時の入口だ。

 外に出ると俺たちの乗ってきた車がそのまま停まっていた。ここに来た時に1回服を取りに戻ったが、それ以来もうずいぶんと長い間来ていなかった。

 俺たちが来た時に、変なはみ出し方で停まっていた黄色い車は(本当は白い車だが)きちんと駐車スペースに停めなおされていた。マリーが移動させたんだろう。


 地下の空気はひんやりとしていた。

 相変わらず暗い空間をオレンジの光が照らしている。静寂に包まれた地下空間で俺とテルルはしばらく待っていた。


「車で来るのか?」

「そうでしょうね、歩きってことは無いわね」

「あの小さな黒い姿なんだろ?」

「そうね」

「どうやって車を運転するんだ?」


「あの体はね、機械と一体になれるのよ。車と一体になれるの」

「ハンドルは握らない?」

「そうね、ハンドルもアクセルもブレーキも、何も触らない」

「よくわからん」

「それに、自動運転だってあるでしょ」

「ああ、忘れてた」

「少し寒いわね」

「中で待つか?」


「待って、何か聞こえる」


 タイヤのキキキーという音が遠くで聞こえた。耳を澄ましていると、規則的にキキキーという音が聞こえてくる。そしてそれが、段々と大きくなってくる。


 地下空間にタイヤの音が響いている。たぶん下の階から登ってきている。

 ここは地下10階だから、それよりも下の階から走ってきてるってことだ。そしてタイヤが悲鳴を上げるほどスピードが出ているってことだ。


 突然角から四角いジープのような大きい車がズギャギャギャーと4輪ドリフトで現われ、車はスピンしながら俺たちの前で停まった。轢かれるかと思った。


 車は迷彩に塗装されていた。

 色は黒と、おそらく青と灰色。オレンジの照明で色が良く分からない。

 迷彩塗装された大きなジープはバックで駐車スペースに入った。


 運転席から黒い小さいのが大きなバッグを持って飛び降りた。そして後ろのドアからも小さいのが現れた。バッグを引きずっている。


 運転席から出てきた小さいのが歩いて来てテルルを見上げて言った。


「ナゼ、アメリカジンニ、シナカッタ」

「日本人が好きだって言ったじゃない」

「オイ、ニホンジン、キサマノ、コンジョウヲ、タタキナオシテヤルカラナ」

「こいつは何を言ってるんだ?」

「さあ」


 後部座席から出てきた小さいのが俺を見上げて自己紹介した。

「コ、コンニチハ、プロメ・ティーム、デス」

「富沢だ、トミって呼ばれてる」

「トミサワ?」

「富沢文春」

「フミハル」

「トミーでいいぞ」


「ニホンジンデ、トミーナンテ、イルカー」

「うが!」


 18キロある金属生命体に足のすねを蹴られると、シャレにならんほど痛い。俺はそこでしばらくうずくまっていた。

 俺のうずくまる横で、テルルと小さな2人はトラン語で何か喋っていた。


「そろそろ平気?」

「ああ、何とか・・・」


 入口を入り、受付で入館許可を2人に渡した。小さな2人は入館許可を腰に巻いた。そしてマリーの研究室に向かった。

 2人は廊下を大きなバッグを引きずりながら速足で歩いた。


「その袋は何だ?」

「フク」

「服?なるほど」


 マリーのラボに入ると、俺は2人のために禁止されている操作をした。今回は再生カプセルの前に大きなカーテンがあった。テルルが用意したらしい。テルルは生まれ変わってから女性らしい振る舞いが増えた気がした。



 再生が終わるとカーテンの向こうでゴホゴホと咳をしていた。テルルが水を渡して面倒を見ているようだった。

 しばらくして服を着た2人がカーテンの向こうから出てきた。


 身長は160ぐらいで2人とも赤い髪を後ろで結んでいた。片方は暗いピンクと茶の迷彩服で、髪を後ろで簡単に結んでいた。もう片方は白いブラウスに黒いロングスカートで、髪を後ろで三つ編みにしていた。

 歳は20代中盤に見えた。トラン人の年齢とか誰も教えてくれないが。


「あたしはストルン・ティームだ。ティーム少佐と呼んでくれ」

 迷彩服が言った。俺の足を蹴ったほうだ・・・

「少佐なのか?」

「いや、違う。上から6番目って地球だと何だ?」

「知らん」

「下から35番目って地球だと何だ?」

「知らん」

「前に見たアニメの少佐がかっこよかったからな、少佐でいい」

「知らんが・・・」


「私はプロメ・ティームです。双子なので、プロメと呼んでください」

 白いブラウスのほうが言った。双子?


「ティーム少佐、両方ティームだが」


「ではストルン少佐と呼んでよい。許す」

「なんなんだ・・・」


「トミー軍曹!食事の時間だぁ」

「軍曹じゃねえよ!」




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