DNA
マリーとの生活が始まると、マリーは俺の子種を文字通り搾り取った。
搾り取っては研究し、研究しては搾り取った。そしてたまに血も抜かれた。
地球人とトラン人とでは、そのままでは子供ができないようだった。
マリーは研究室にこもりっきりで、研究をしながらテルルの状況に気を配っていた。
俺はショッピングフロアにあるゲームセンターで、体を動かすゲームにハマり、それに飽きると、銃でモンスターを倒すゲームにハマり、レースゲームにハマり、ロボットを操縦するゲームにハマり、暇な時間を潰した。
隣にはスポーツジムもあり、ランニングマシーンなどの設備もあった。運動不足にならないように、俺は体を動かした。
ゲームセンターで体を動かし、スポーツジムで体を動かし、マリーと運動し、のんびりしたい時にはマリーの研究室で眠るテルルを見ながら過ごした。
トランの映画やテレビの録画映像もあったが、残念ながら日本語字幕は付いていなかった。
ショッピングフロアには本屋もあったが、もちろん読めなかった。
俺はテルルを待ちながら延々と時間を潰した。ゲームに飽きてくると、マリーの研究室で日本のテレビを見て時間を潰す機会が増えた。
そんな長い時間の中で、マリーはDNAの話を少しずつしてくれた。
専門用語が多く、覚えるのに難儀した。覚えの悪い俺に、マリーは何回も同じ話をして、俺も多少は覚えた。要約するとこんな感じだ。
なあトミー、すべての生き物の体ってのはDNAにしたがって作られてる。
単細胞の単純な生き物から、人のような複雑な生き物までな。
人の体ってのはものすごく複雑なんだ。知ってるか?
そのものすごく複雑な体を作り、維持し、動かすための情報がすべて小さな小さなDNAに書き込まれてるってわけさ。
DNAってのは細胞の中に入ってる。
そしていろいろな物質が細胞の中で、DNAに書き込まれた設計図を見て作られてる。
体に必要な栄養だったり、体の部品だったり、ただの連絡用メッセージだったりするんだが、それが細胞の中で作られて、細胞の外に放出される。
細胞ってのは、ひとつひとつが極小の3Dプリンターなのさ。
それが体の中で、必要なものを必要な時に必要な分だけ作ってるのさ。
そしてそのバランスが崩れたときに、人は病気になるんだ。
地球でもDNAの解読は進んでるみたいだが、もう少しだな、結構なところまで近づいてる。
私たちも昔、地球人と同じように必死にDNAを研究してた。長い長い間な。
そしてな、ある時、私たちは全てのDNAを読み解くことが出来るようになった。
読み解くってのは、理解したってことだ。ゴール地点だな。
ゴールがスタートって話もあるがね。
それでも私たちは、ゴールにたどり着いた。
DNAに書かれている文字を読めるようになった。意味がすべて分かるようになった。膨大なデータ量だ。
私たちはそれを理解し、好きな場所を書き換えられるようになった。いや、それを目指して研究してたから、それがゴールだったからそれで良かったんだがね。
その力を手にして私たちが最初にやったのは、幼い子供の治療だった。生まれながらにして病気の子供だ。
彼らはDNAの設計図が間違ったまま生まれてきちまってた。だから薬じゃなかなか治らないんだ。
だけどね、DNAの間違っている部分を修正してやると、子供の病気はウソみたいに治っちまった。うれしかったね、どんな病気でも治すことができた。
正常なDNAとその子たちのDNAを比較して、問題になってる間違ったDNAの場所を探して、正常な子供の情報に書き換えてやるんだ。それだけでよかったんだ。
小児科の難病患者ってのがいなくなったよ。
次に薬の効かない難病になった患者の治療だ。ここはそういう施設だからね。
長い間、治らない病気に苦しんでる人たちが、研究もかねて収容されてる場所だからね。
彼らはどんな薬を投与してもいろんな数値に異常が出てたりする。
筋肉が徐々にしぼんでいったり、骨が脆くなっていったり、逆に骨が太くなっていったりね、自然治癒力がほとんどなくて風邪がいつになっても治らない、治せないってのもあるし、満腹中枢が動かなくていつでも腹ペコってのもあるね。
そういう難病もね、DNAの異常な場合がほとんどだった。変なスイッチが入っちまってるんだな。
DNAにはさ、スイッチがあってさ、オンオフを制御しながら調整してるんだ。それで体のバランスを取ってる。普通の人はな。
でも彼らのスイッチは壊れてるんだ。必要なものを作れなかったり、必要のないものを作り続けたりさ、それで体のバランスが崩れて病気になっちまったり、病気が治らなかったりするんだ。
それで、長い時間はかかったけど、この病院の難病患者もほとんどが回復した。
これもうれしかったね、最高だったね。
みんなが笑顔だった。
夢かと思うほどにね。
この技術はナーヌにも提供した。戦争相手の隣の星さ。
戦争は冷戦状態だったし、経済や物流の貿易はあったからね。
軍部の意向もあって、いくつかの交換条件と引き換えに貴重なDNA技術を売ったんだ。きっとナーヌは高い金を払ったと思うけどね、それでも平和的な出来事さ。
2つの星で多くの難病患者が苦しみから解放されたんだからね。




