モコソ
ショッピングモールを離れ、着替えてシートに座ると眠くなってきた。
「1回眠りましょう」
テルルも眠いようだった。
外を見ると空には雲が増えていた。また雨の時間だ。
交互に繰り返す晴れと雨の星。テルルは雨が2回降るうちの1回を眠りにあてた。
俺もそれに合わせた。感覚で言えば、4時間ほど眠って12時間起きている感じだった。
雨の続く時間は短い時もあれば長い時もあったから、規則正しいのか正しくないのか、俺には判断できなかった。ただ、テレビを見ると地球時間がわかったし、この星のサイクルは24時間ではないってことは理解できた。
「この電波は私のいたラボからこの車に送ってるんだけど、地上は通信網が弱いから」
テレビは見れるときと見れない時があった。地上は厳しく電波が規制されている。テルルはそう言っていた。星間戦争だ。
シートをベッドにして俺たちは眠った。眠るときはアイマスクをした。遅い車の静かな振動は気持ちよく眠れた。
寝て起きて、食べて話をして、テレビを2人で見て、たまに車から降りて運動した。
旅の中で、外の空気が少しづつ冷たくなっていった。
テルルはまた歴史の話をした。科学者のテルルの専門は、惑星運動に関する宇宙関連、星系外の宇宙探査、それに歴史と大衆心理という宇宙とは別のジャンルも詳しいらしかった。
一般大衆の集団心理が歴史を作る。それが彼女の考え方だった。
「家ごとの設置型通信機も、地球で言うと電話ね、それも持ち運べる携帯電話タイプになって、ひとり1台持つようになって、データ通信網も出来て、パソコンみたいな機械も普及して、どんどん機械は進化したの」
「地球と同じだな」
「生活にどんどん新しい機械が入ってきて、便利な世界になっていった」
「地球も俺が子供のころは不便だったが、いつのまにか便利になった」
「40年であっというまに地球の科学も発展したわね」
「そうだな」
「私が小さいころにモコソと呼ばれる機械が登場した」
「これか?」
俺はゴーグルに変化する黒い板を取り出した。
「そうね、でも最初は地球のスマホと同じ。電話が出来て、メールが出来て、ちょっとネットに繋げてって感じだった」
「スマホだな」
「だんだんそれが高性能になって、みんなが依存するようになっていった」
「スマホ依存って聞いたことあるな」
「今の地球のスマホと同じぐらいに私たちのモコソも進化して、さまざまなアプリケーションがモコソの中で動いて、人々の日々のデータを収集していた」
「データの収集?」
「地球でもスマホはデータを収集してるわよ。その人の興味のあること、興味のあるもの、生活パターン、行動パターン、日常の会話もこっそり聞いてるかもしれない」
「聞いてるぜ、声で話しかけると反応する機能があるんだ」
「私たちのモコソもそうだったの」
「とことん地球と同じだな」
「全ての買い物を、モコソを使ってするようになって、買った物や使った金額もモコソにデータが蓄積されていった」
「キャッシュレスってやつだな」
「そしてある時、ひとつのアプリケーションが作られて、爆発的に普及したの」
テルルは窓の外を見ながら話していた。太陽は前よりも低くなり、夕暮れという感じになっていた。
車が長い時間をかけて移動したのだ。
太陽が低くなったということは、惑星の夜の側に近づいているということだ。
「どんなアプリだ?」
「ジルコンという名前のアプリケーションで」
テルルは外を見ながら、横に座る俺の手を握った。
「日本語で言えば、神アプリね」




