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バールのようなもの

「そろそろいい?」


 頭に紺の小さな帽子を乗せたテルルが言った。肩に掛けたバッグは大きく膨らんでいる。


「いいな、その帽子」

「かわいいでしょ?」

 テルルは軽くポーズをとった。紺の帽子と赤い髪は組み合わせがいいらしい。実に魅力的だ。


「もう1か所見てみるけど、まだ持てる?」

「俺のはそんなに重くないから大丈夫だ」

「私のだって重くないわよ、コートが大きいのよ」

「そんなに大きなコートなのか」

「羽毛よ、地球にもあるでしょ?」

「ダッフルコートってやつか?」

「ダウンコートよ!」テルルがあきれ顔で言った。「しっかりしてよ地球人!」


「それでもう1か所って?」

「行ってみましょう」テルルが店を出て歩き出した。「武器」


「武器?」


 武器って言ったか?こんなショッピングモールに銃とかが売ってるだろうか。


「ここね」


 通路を少し歩いて、薄暗い売り場でテルルが立ち止まった。武器屋前。


 そこは、工具売り場だった。ホームセンターのような大きさは無いが、作業用手袋や金槌やノコギリが見える。


「武器になりそうなやつを探す」

「何と闘う?」

「さっきの棒じゃダメだから。もっと強いやつ」

「ああ、長いやつは服屋に置いてきちゃったな」


「あ、いいのがある!」


 テルルは店の隅に置いてあった台車をガラゴロと動かした。

 そういえばタイヤがついてる。台車はソファーみたいに滑らない。でも台車では戦えない。


「武器じゃないのか?」

「これに乗せて運びましょう」

「なるほど」


 俺たちは店内を物色し、使えそうなものを探した。鉄の道具はけっこう錆びている物が多かった。

 海沿いの建物で入り口のガラスが割れているのだ。奥まで潮風が入ってくるのだろう。パッケージに包まれていない鉄の工具は見事に錆びていた。


「敵は動物でいいのか?」


 武器って言っても戦う相手を知らないとな。


「うーん、動物か機械か、襲われる可能性があるとしたら何かしらね」

「知らねえよ」

「知らないわよ」


「そんなに危険は無いってことか?」

「そうね、たぶんね」


 俺たちは店内をぐるっとまわって数点の武器になりそうなものを取った。

 バールのようなもの(中)とバールのようなもの(大)と鈍器のようなもの(頭が鉄じゃないハンマー)と1メートルぐらいの長さのマイナスドライバーだ。


 それと闘う時のための作業用ゴム手袋、高そうなやつを選んだ。作業用グローブは地球でも使っていた。力仕事の時に、これが有ると無いとではぜんぜん違う。


 中ぐらいの大きさの詰め合わせ工具箱も拝借した。中にドライバーセットとニッパーとラジオペンチと針金と、ほかにも色々入っていた。道具のデザインが少し違うが、道具の使用目的は地球と変わらない。


「これぐらいでいいか?」

「そうね、出ましょうか」


 俺たちは店内を入り口まで戻った。


 台車は、入り口のガラスの割れた枠を超えられなかった。一旦俺たちは車の後部を開け、服の入ったバッグを積み込んだ。そして店まで戻って、台車の上の工具を車まで運んで車の後ろに積んだ。台車は店内に置いていった。


「車の運転席が・・・」


 俺はテルルに言った。車の運転席のフロントガラスに何やらメッセージが出ている。電源を切り忘れたんだろうか、駐車違反だろうか。


「あれは、充電完了ってこと」

「充電?」

「設備のある駐車場に停めて、車内から人がいなくなると地面から充電のエネルギーが出るの。それを車がキャッチして充電するのよ」


 車の下をのぞき込んだが充電ケーブルのようなものは見えなかった。


「エネルギーウエーブっていうのかしら、地球にはまだ無い?」

「あまり知らないな、電気自動車はあるけどな」

「ケーブルで充電してたわね」



 俺とテルルは旅をしながら話をして、話に疲れると地球のテレビを見た。テルルはCMに関心を持っていた。地球の最新技術がどのぐらいなのかを気にしていた。

 電気自動車をケーブルで充電しているシーンは、CMで見て覚えていたのだろう。テルルは1回見たものはほとんど忘れないようだ。



 俺たちはショッピングモールを出て、また海沿いの道を走りだした。


「着替えましょうよ」車が走り始めるとテルルが言った。


 車の後部の生活空間は非常に快適な作りになっていて、いろいろな装備が付いている。着替えるときは天井から布の壁が降りてきて個室を作ってくれる。揺れないタペストリーみたいなやつだ。

 テルルが囲まれた空間に入り、俺はその外側で着替えた。窓の外から丸見えだが、幸いなことに窓の外には誰もいなかった。


 着替えが終わるとテルルはニコニコしながらポーズをとって俺に服を見せた。白いスカートの長いワンピースで、上にはオレンジの厚めのカーディガンのようなものを着ていた。

 初めて会ったときはマネキンかと思ったのを思い出した。スタイルがいいと何でも似あう。


「革ジャンよりも上品な感じになったな」

「この前見た映画にこんな服の人が出てきてたの。気になってたのよ」

「作ればよかったのに」

 前にテルルは、革ジャンは作ったって言ってた。


「あ!」


 テルルはサッと後ろを向いてしゃがんだ。そして脱ぎ捨てた服を丸めた。振り向いて俺を見て、何かを言いかけてやめた。


「脱いだ服は洗濯するのか?」


 俺は自分の脱いだ服を手に取った。


「それでもいいんだけど、コインランドリーみたいなお店はもうないのよ、だからここへ」


 テルルは左側についてるテーブルの下のゴミ箱に服を入れた。なんでも入れていいと言われたゴミ箱だ。


「捨てちゃうのか?」

「ここに入れたものって、取り出すことができるのね」

「そりゃ中に入れたものなら取り出せるだろ?」

「そうじゃなくて、ボロンで作れるのよ」


「ボロンって何だっけ?」

「ソファーとかバッグを出した機械」

「ああ、あれか」


「あれはね、地球で言えば3Dプリンター」

「3Dプリンターって、ガシャガシャいいながらプラスチックを溶かして作るんじゃなかったっけ?」

「それの最終進化版」

「最終進化って」俺は笑った。「どこまで作れるんだ?」


「なんでもよ」テルルは真剣に言った。



 

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