アスタティン
俺は缶詰をバッグにどんどん詰め込んでいった。
そしてエレベーターの扉の前に缶詰のいっぱい詰まった重いバッグを置き、ボロンで次のバッグを作った。
「俺の」を付けないで「バッグ」と言うと、缶詰を詰め込んだ黒いバッグと同じバッグが出てきた。この星ではスタンダードなバッグなのかもしれない。
「俺のバッグ」と言ってみると、俺の登山用のごついリュックがもうひとつ出てきた。同じくたびれ具合のまったく同じ物だった。
エレベーターが開いてテルルがバッグを下に持って行った。その時にテルルは俺に「次はこれ」と指示を出し、俺は言われるがままに、缶詰や飲み物や、乾燥させた何か酒のつまみのようなものや菓子を詰め込んでいった。何回かそんな作業を繰り返し、テルルは多くの食料を下に持って行った。
「このぐらいでいいかしらね」
テルルはエレベーターから降りてきて言った。俺は自販機からペットボトルに似た飲み物の容器を取り出しているところだった。
「そんなに長旅なのか?」俺はテルルに聞いてみた。余裕で2か月以上暮らせそうな量の食料だったからだ。
「そうね、正直に言うとね、私も外に出るのは久しぶりなのよ。他の地域がどうなっているのか、よく分かっていないのよ」テルルは下を向いて、俺が床に置いたバッグをじっと見ていた。「たぶん食料の補給は出来ると思うんだけど、念の為ね」
「なんかモンスターとか出てくるのか?」
「そんなのは出てこないわよ」テルルは笑って言った。「たぶんだけどね」
「下に行きましょう。出発準備よ」
俺とテルルはエレベーターに乗って下に降りた。
下に降りると、さっきの薄暗い倉庫みたいな場所だった。俺が最初に見た広い空間だ。
しかしモコソと呼ばれるゴーグルで見ると、そこにはアイコンがたくさん浮かんでいた。床には様々な矢印があり、壁には様々な文字が書かれていた。
そしてエレベーターの近くに黒い大きな車が止まっていた。
タイヤが4つ付いていて、運転席にガラスの窓がある。マイクロバスぐらいの大きさだ。マイクロバスより少し天井が低く、その代わりに少し長い。トラックとバスの間ぐらいの乗り物。
「トミ、後ろを開けるから、それを積んでくれるかしら」
テルルが空中で手を振ると、車の後部が観音開きで両側に開いた。俺はコンクリートの床に残っていた黒いバッグを4つ車に積み込んだ。
車の後部には他にもバッグがいくつも置かれていた。俺が食料を詰め込んだバッグだ。そして車内を見るとテーブルやイスが左右にあって、キャンピングカーとバスの中間ぐらいの空間に見えた。
壁には四角いモニターもついていた。
地球のテレビが見られるのかもしれない。
「積んだぜ」
俺が扉から離れると、扉は自動で閉まった。
俺は車の前に回った。
テルルは運転席のドアを開け、ドライバーシートに座っていた。トラックのように少し高い位置だ。そしてフロントガラスに表示されるカーナビのようなものを操作していた。
「それじゃあ、出発しましょう」テルルがこっちを見て言った。「助手席はそっちね、日本と同じ右ハンドルよ」
助手席側に回ると、扉は勝手に開いた。俺はトラックに乗るように車に登って助手席に座った。中もトラックみたいな運転席だったが、席は2つしかなく2つのシートの間に歩けるほどの空間が開いていた。
席に座ってみると、運転席周りのデザインが微妙にいろいろと違っていた。SF映画に出てくる未来の車みたいだった。
「どこに行くんだ?」
「とりあえず、友達のところまで」
「テルルの他にも人がいるんだな」
「そうね、いっぱいいるわ」
そう言ってテルルは車を発進させた。エンジン音は聞こえないしエンジンの振動もない。電気自動車だろうか。
テルルの前には丸いハンドルがあって、それを大きく切って車の向きを変えた。右足がアクセルで左足がブレーキらしい。テルルの操作を見てすぐに分かった。
「ゲート、オープン!」テルルは楽しそうに言った。「アスタティン!」
「何それ」
「ゲートオープンって意味よ」
倉庫の壁の一部が開いて、奥に上り坂が現れた。その坂を車が登っていく。
上り坂は長く、オレンジのランプが壁に並んでいた。
オレンジに照らされた暗い一直線の上り坂の100メートルぐらい先に、閉まっている銀色の扉が見えた。車は扉を目指して坂をグングン上っていく。
「かなり深かったんだな」
「そうかしら、地下4階ぐらいよ」
「他の建物も地下4階以上あるのか?」
「もっとあるけど、地下には地下の生活空間があるのよ」
「地下で暮らしてるのか?」
「そうね、地上に出なくても地下にも道はあるんだけど、トミに地上を見せたいから地上で行く」
「そうなのか・・・」
ビルの上から地上を見たときは、まったく人影は無かった。でも人々が地下で生活しているのなら納得できる。友達に会いに行くってことは他にも沢山いるんだろう。
「アスタティン!」
坂を上りきるとテルルはそう叫んだ。そして銀色の扉が開いた。
「雨か」
扉が開いたときは眩しく感じたが、実際には外は薄暗く、雨が降っていた。車が外に出ると車体を雨が叩いた。雨粒は大きく、バラバラと車の天井から音がした。
扉を出るとテルルは左にハンドルを切って車を止めた。車が出てきた扉を見ると、自動でゆっくりと閉まるところだった。
目の前には小さなロータリーがあって、それを木々が囲んでいた。ビルの前の小さなロータリーだ。ビルには正面玄関のような、大きなひさしの付いた場所が見える。そして横に地下への扉があった。
ロータリーを囲む木々は、やはり斜めに生えた木だ。全部の木が太陽の方角を向いている。太陽は今は見えないけれど、雲の向こうの太陽に向かって生えている。今にも倒れそうな違和感があるが、木登りはしやすそうだ。
「上から見た感じだと、特に荒れた感じは無かったけど、ちょっと慎重に行きましょう」テルルが雨の森を見ながら言った。
車はロータリーを出て、森の中を一直線に伸びる道路を走りだした。
一直線の道には、たまに交差点が現れる。そして信号はモコソに表示された。赤と青だけ、それに青の点滅。青の点滅が黄色ってことらしい。モコソを外すと裸眼では何も見えなかった。交差点には何も立っていなかった。
「それじゃあ、ここからは自動運転モードね」赤信号で車を止めると、テルルはハンドルを放した。そして立ち上がった。「後ろに行きましょう」
どうやら安全だと判断したらしい。
車の運転席は、歩いて後ろに行けるようになっていた。真ん中に通路があって、宅配業者のトラックみたいだ。
「自動運転か、すごいな」
俺は後ろに向かうテルルを追って立ち上がった。屈まないと頭をぶつけそうだ。
「地球も、もうすぐここまで技術が進んでしまうわね」テルルは背中で言った。
「自動運転はダメなのか?」
「どうかしらね・・・」テルルは少し考えてから答えた。




