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カルタータ  作者: 希矢
第五章 『魔術師は信頼に足るか』
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その80 『(番外)班分け(レンド編7)』

 飛行船が目的地に針路を変え、新入りたちの稽古期間も終わりを迎える。そうなると、大規模討伐の日があっという間に近づいてくるのを肌に感じた。

 これから始まるのは、班分けだ。主船を含めた五つの船をチームとして分け、そのリーダーたちが新入りをもらい受ける。優秀な新入りたちの争奪戦が行われるわけだ。

 主船の大会議室で、大きな机を前にして五人のリーダーとその補佐たちが、顔を突き合わせている。議論が交わされ始めた。


「おいおい、砲手の……、アンナだっけ? 本気で俺のところに入れるのか」

 途中、止めてくれよと言わんばかりの発言をしたのは、ユアンだ。ユアンは今回新しく大砲が配備されることになる船のリーダーとして就任している。このリーダーは頭目が決めている。頭目にどのような考えがあるかはわからないが、同じ人間が長いこと務めることは殆どない。その為か、かつてはレンドもリーダーを務めたことがあった。

 ユアンの発言を聞いたヘキサが噛みつく。

「何か文句あるっすか? うちがみた中でも成績が抜きん出た優等生っすよ」

 自分の生徒ということで、ヘキサにも折れたくない部分がある。一方で、新人りに大砲を持たせたくないというユアンの保身も分かる気がした。

 今回の作戦の概要については、既に半日前に説明がされている。端的に言えば、空の大蛇(スカイサーペント)を、船の数をもって、逃げ道となる雲がない場所まで追い込む作戦だ。最終的には空の大蛇(スカイサーペント)を取り囲んで、大砲を撃ちまくることになる。

 レンドは想像する。空の大蛇(スカイサーペント)の動きが速すぎて、どの船も必死に追いつこうとする。ある船は上空から、ある船は魔物の真下と、その時の船の位置は様々だろう。そこで下手な砲手が誤って撃とうものなら、その砲弾は仲間に当たるかもしれない。そうなれば目も当てられない。

「基本のナイフの成績がこれではな」

 ユアンが机の上に広げられた用紙の一枚を持ち上げて言った。机の上には新入りたちの総合成績が事細かく記載されている。ユアンが持ち上げているのは、今話題に上がっているアンナのものだ。

「そんなに嫌なら、引き取りたいところっすが……」

 苦虫を噛みつぶしたような顔をするヘキサに、ヘキサのリーダーであるシェイクスは首を横に振った。

 シェイクスは山のように大きな大男だ。顔が過去の戦いで傷だらけになっており、鍛え上げられた体は魔物すらも片手で縛り上げそうなほどだ。小柄なヘキサとはずいぶん対照的だった。

 その外見のせいだろうか、首を横に振られただけなのにその存在感に空気がぴりぴりとした。

「お前のところに新入りの砲手を配置するのはまずいだろ」

 レンドもシェイクスの態度に賛同した。それを受けて、お前はどっちの味方だよと言わんばかりのユアンからの視線を受ける。今回レンドは、ユアンの補佐という立場なのだ。ユアンの余計なことを言うなという気持ちもわかるにはわかる。

「そうっすよね。さすがに囮役の船の砲手に新入りは……」

 今回、ヘキサが担当する船にはベテランが揃っている。空の大蛇(スカイサーペント)の鼻先で囮役となる為だ。

 空の大蛇(スカイサーペント)を取り囲むにあたり、どうしても一隻の船が魔物の動きを誘導することになる。実際どの船が魔物の標的となるかは魔物の気分次第だが、一隻だけを先行させることで確率的に最も魔物に発見されやすい船を作ることができる。更に砲手により的確な威嚇射撃をいれることで、より確実にする。そうすることで、魔物の動きを制御しやすくするのだ。

 尚、主船がこれを引き受けるといざというときに指示が出せない。そこで主船を除いた次に優秀な船に白羽の矢が立った。とにかく砲手の腕が大切な為、今回初めて大砲を配備することになる船は除外されている。当然、その砲手に新入りが成り代わるのは、あり得ないだろう。

「それならアンナちゃんは俺のチームで引き取るぜ」

 ヴェインは自分の手元で引き取ることになっている新人りの用紙をユアンに渡す。交換という意味だろう。それから、ヴェインのチームリーダーであるアダルタにウィンクしてみせる。普通はリーダーの許可を取ってから交渉するものだが、そこは大目に見てくれよというヴェインなりのアピールのつもりだと思えた。

 アダルタはそんなヴェインの様子に顔色一つ変えなかった。褐色の肌に赤い髪の逞しい女だ。ヴェインのお茶らけた仕草に一々反応するようなウブな女ではないのだろう。

「成績は良くも悪くも並か」

 レンドもユアンが覗いている用紙を盗み見る。

 こちらは砲手ではなく、装填手だ。つまり、大砲を撃つ者ではなく、大砲を撃てるように弾を装填する者だ。そうなると、今いる装填手も渡し、逆に新入りとは別に砲手ももらい受ける形となる。

「シリエ、ねぇ」

 装填手として映っている写真には、髪を上の方で束ねた少女の顔がある。あどけない表情だが、年齢は十六。孤児院あがりだ。レンドは新入りの教育の場にいた顔ぶれを思い返す。このギルドに女子は珍しい部類なので、レンドも記憶はしていた。ただ、特筆することはない。成績の結果を示すように、全てが並で収まっているような普通の少女だ。アダルタのような屈強さはまるでなく、どちらかというとウブな類の女だろう。

 この少女で本当に問題ないか、レンドは頭の中で吟味する。装填手は大砲の回転率を早めるために二人いる。砲撃が遅れることがあれば致命的だが、そこまで悪い成績でもない。今いる装填手のうち、優秀な方を残せば凌げるはずだ。むしろ砲手を新入りにする危険性を考えれば、好条件と思えた。

 逆に、もらい受けることになる砲手が誰だったか、考える。レンドの脳裏に朧げに黒髪の男の姿が思い浮かんだ。確か、イグナと言ったはずだ。去年配属されたばかりだが、腕が悪いという噂はなかったと記憶している。

 レンドは、小さく頷いた。

 及第点と受け取ったユアンが、アンナについて記載した用紙をヴェインに渡す。交渉成立という合図だ。

「さてと、残りはこれだけか」

 机に残ったのは二枚の用紙。いつものことだが、班分けは中々に熾烈だとレンドは思う。成績優秀者はすぐに引き取られていくが、所謂落ちこぼれやどこか問題のある者たちは余る。最も表にも出せないレベルの新入りたちは問答無用で主船の裏方――、厨房や経理などに回されている。ここで話題になるだけ芽があるとも言えた。

「一枚は人数の兼ね合いから俺が引き取ろう。好きな方を選ぶがいい」

 そう発言したのは、ティスケルだ。金色の短髪に無精ひげ、面長の顔といった特徴の中で浮いているのが、きらきらとした青い大きな目だった。齢は三十五。少々細身だが、座っているだけのその姿にもどこか隙が無い。随分と余裕のある発言だが、頭目の右腕と呼ばれるだけはあって、頭目からは信頼されているらしい。主船のリーダー代理としてこの場にきていた。

「リーダー、いいっすか」

 人数で考えると、不足しているのはシェイクスのチームだった。ヘキサは嘆息して、彼のリーダーへと向き直る。

 シェイクスはヘキサの相談に、今度は首肯で答えた。

 それを受けて、ヘキサが余っていた用紙の一枚を取る。

 レンドはその用紙の氏名欄を見て、はっとする。

 そこには、テラと書かれていた。

 ナイフの技量はあっても、ヴェインの訓練で魔物を目の前にして逃げ出したことは記録として残っている。問題児として残ったこの少年の面倒を、ヘキサは最後まで見ることに決めたらしい。

「さて、これで全部だな」

 ティスケルは最後の一枚をもらい受けながら、そう発言した。

 それを受けて、レンドは改めて自身の手元の資料を見る。一人は先ほどのシリエという少女だ。

 そして、もう一枚の書類に目をやる。成績は中より下だった。だが、ナイフの腕だけは抜きんでている。その書類の氏名欄には、アグルと書かれていた。


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