依頼人登場
キャスが言うには、その依頼人が英雄派遣会社を訪れたのを見るのは、三度目だという。見かけた回数だから、実際にはそれより多くここに来ているかもしれない。そう彼女は言った。
わたしはキャスからあまり真面目に話を聞かなかった。彼女はまだ学生だったし、全く会えない日もあった。そんなときでも特に困ることはなかった。キャス以外にも顔馴染みができたし、取材をするのに仲介者が重要なのは確かだがそれはやはりきっかけに過ぎない。妙なしがらみや関係性がないほうがスムーズに話が進むこともままある。
もちろんキャスと話をするのが嫌というわけではない。ただ、私は彼女の話を軽視していた。今思うと褒められた態度ではない。情報提供者は大切にするべきだった。痛切にそれを思う。
わたしが何を言いたいのかと言えば、わたしはこの事件の事前取材を全く行っていない、ということ。その言い訳をしていたわけだ。キャスが指差したその依頼人――ブルトンは、わたしがその存在を知ったときには既に故人だった。彼から直接話を聞く機会は永遠に失われてしまったわけだ。
事件が勃発した後、慌てて英雄派遣会社の人間から話を聞き込み、その事件の全容を掴もうと努めた。そして知ったのだ。キャスがわたしの代わりにブルトンから話を聞き、この事件の概要を既に掴んでいたこと。事件がどのように推移し、そしてあんな「悲劇」が起こったのか、把握していたこと。
わたしはキャスに謝罪した。そんなときでも彼女は笑って、「記者さんのお役に立てて良かった」と言っていた。本音だろうか。もしそれが彼女の本音なら、控えめに言っても、天使のような少女だ。
「私が把握した限りでは、ブルトンさんはここに少なくとも7度は訪れていたようです。7度とも、全く同じ依頼内容です」
「ほう……」
「聖都に侵入した魔物の退治。過去に出動した英雄さんは、ほとんどがD級とE級。依頼は滞りなく遂行され、特に混乱も報告されていません。報酬も満額支払われ、会社としては良いお客さんと言えそうです」
でも、とキャスは続ける。
「ブルトンさんと同じ依頼内容を持ちかけた人物が複数います。彼らも常連のようです。私が調べた限りだと、その人物は5人以上。数十回にも及んで会社に魔物退治を依頼したことになりますね」
魔物退治を遂行した後、英雄たちは魔物を聖都に寄せ付けない為の方策を施した。しかしその方策はいずれも効果が薄かった。
聖都の人間は、魔物がどこからか現れて侵入し、暴れていると説明した。しかし英雄たちは薄々感づいていた。
魔物がやってくるのではない。この街から魔物が生まれているのだと。
聖都エゼ=アロム。それがその街の名だ。
何ということはない、小さな星の、小さな都。全世界から見れば取るに足らない場所。盛んな産業も特になく、そこを特徴づけることと言えば、完全な計画都市であり、そしてその計画は神の意志に基づいているということ。
だが、神の意志に従って建設されたはずの都市から、魔物が産まれている。その事実を、わたしは戦慄と共に知ることになった。彼らが作り上げた計画都市はいったい何者によって生み出されたのか、わたしはキャスから話を聞いたときには既に、どのような帰結を迎えたのか知ってはいた。
わたしはまだ会ったことがなく、そして今後も会うことがないであろう、英雄ハリエットについて思う。今回の記事は彼女に捧ぐ鎮魂の儀式。そのような覚悟で懸命に取材に励んだものだ。
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派遣人員
C級 ハリエット(槍戦士)
D級 ロビン(剣士)
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