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英雄派遣  作者: 軌条
第三話 巨人の森
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依頼人登場

 最近のわたしは取材や記事の作成などで多忙だった。今週の雑誌「払暁」に、英雄派遣会社についての連載記事が掲載されていることをすっかり忘れていた。英雄派遣会社の敷地内にある喫茶店で、ここの社員と談笑しているとき、キャスが来店した。


「あっ。ここにいらっしゃったんですね、記者さん」


 キャスは昂奮しているようだった。しかしわたしが社員と話しているので自重しているようだ。わたしは彼女に話を促した。


「話があるならどうぞ、別に取材ってわけでもないから。いいですよね?」


 わたしが訊ねると、その社員は笑って頷いた。キャスは自分の上着の中に隠し持っていた雑誌を広げた。雑誌「払暁」である。それを見たとき、わたしは思い出した。


「ああ、そう言えば、わたしの連載記事の初回が載っているんだっけ」

「そう言えば、じゃないですよ! 早速読ませていただきました!」


 キャスは何度も頷きながら該当ページを示した。わたしは自分が書き、レイアウトしたはずのその記事を眺め、ふーんと言った。


「写真の発色が薄いな……、わたしが見たときはもうちょっと鮮明だったんだけれど。印刷機の違いなのかな」

「そ、そこですか」

「ああ、ごめん。見本で一度目にしているからね」


 わたしはもう少しうまいリアクションをすべきだったかと反省した。せっかくキャスが雑誌を持ってきてくれたのに。


「あのー、記者さん。質問があるんですけど、よろしいですか?」

「もちろん。どうぞ」


 キャスは雑誌を受け取り、それを胸に抱きながら、訊ねた。


「ここに出てくるキャスって名前の人……、私のことですよね?」

「ああ、そうだね」

「どうしてキャスなんですか? 仮名を使わなくてもよかったのに」

「え? 駄目だったかな。実名を使ってしまうと迷惑になると思ったんだけれど」

「ああ、いえ、実名でも仮名でも、私は構わないんですが……。そもそも記事に私が出てくるとは思ってなかったので」


 キャスは慌てて言った。


「それより、依頼人の方や、英雄さんの名前も、全て仮名ですよね?」

「その理由が知りたい、と」

「理由もですけど、キャスとか、シエラとか、馴染みの薄い響きなので。どこからこういう仮名が出てきたのかなって」

「ああ、出典か。なるほど、確かに気になるよね」


 わたしは頬をかいた。


「『払暁』は星を跨いで発行されている世界的な雑誌だけれど、本社はわたしの故郷にあってね。社の方針として、自星の読者を優先するというのがあるんだ。この記事に出てくる仮名は、読者に違和感を抱かせない為に、わたしの星の人名リストから無作為に抽出したものを使用している」


 キャスはへえ、と感心した声を発した。


「記者さんの出身星の名前だったんですね。キャスとか、シエラというのは」

「わたしの国にそんな名前の人は稀だけどね。出身星の人名リストとは言っても、様々な国、文化圏の人名が入り乱れているから、わたしにとって必ずしも馴染み深い名前というわけでもないんだ」

「なんだか、複雑ですね」

「社が用意している人名リストを使っただけだから、名前に深い意味はないよ。質問の答えとしてはこれでいいかな?」

「はい! ありがとうございます!」


 キャスは満面の笑顔で言った。わたしとキャスは喫茶店から出て、遊歩道を通り、社屋に向かった。キャスはわたしの前を行ったり後ろを歩いたり、とかくわたしの周囲を動き回って話しかけてきた。それでも鬱陶しいと感じなかったのは、彼女が野に咲く花のように可憐な笑顔を見せてくれていたからだろう。


「記者さんの記事、本当に面白かったです。尊敬します!」

「尊敬だなんて。きみが協力してくれたから書けたんだよ」

「私の協力なんて……。本当に凄いと思います。これからも協力させてください!」


 キャスは熱心に言った。本当にわたしなんて大した記者じゃないのに。感受性豊かな年頃だから、大袈裟に反応してしまっている。わたしは苦笑するしかなかった。




 社屋に向かい、受付のほうを見ると、何やら妙な影が見えた。受付嬢以外に誰もいないはずなのに、妙に気になる。わたしが立ち止まって注視していると、キャスが声をあげる。


「どうかなされました?」

「いや……。わたしの眼がおかしくなったのかな。妙な影が見えて」

「ああ、幽体のお客さんが来ているんですね」

「幽体!?」

「記者さん、結構霊感があるみたいですね。私には見えませんけど」

「ゆ、幽体って、幽霊のことかい?」


 キャスはきょとんとした。


「ええ、まあ、そうですけど……。珍しくありませんよ」


 わたしはさすがに狼狽した。幽霊なんて遭遇したことがない。魔法の存在に慣れるのにだって苦労したのに。


「幽霊が依頼を……?」

「ええ。よくある話です。自らを滅ぼした災害や魔物を解決してもらう為に、実力のある魔術師が死の間際に術を使うわけです」


 そこでキャスがくすりと笑った。


「もしかして、記者さん、幽霊が怖いんですか? 大丈夫ですよ、ここに来るまでに幾つかの検査をクリアしているはずですから。悪霊の類ではありません」

「それは心配していないんだけど……」


 キャスがぽんと手を打った。


「そうだ! 記者さんが幽霊についてあまりお詳しくないということは! 記者さんの故郷でも、そういった話は珍しいということですね! 良い記事のネタになるのではないでしょうか!?」


 正直言って勘弁してくれという心境だった。しかしキャスは一人で盛り上がっている。


「そうです、そうしましょう! 払暁のメインの読者は、あくまで記者さんの故郷の人々なんですよね? きっと食いつきが良いですよ!」

「いや、読者の食いつきとかそういうのはわたしが考えるから……」

「すみませーん、そこにいらっしゃる幽体の方! 取材の許可を頂きたいんですけどー!」


 キャスが勝手に声を張り上げている。わたしは嘆息した。観念するしかないだろう。それに、キャスの言っていることはあながち間違っていない。記事のネタとしては悪くない入口なのだ。幽体が依頼者というのは。



 キャスが幽霊のいるほうとは違う方向に呼びかけている。私は幽体の依頼人と目が合ったような気がして、小さく頭を下げた。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 派遣人員


  B級 オージアス(魔術師)

  E級 アミ(射手)



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