板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年12月8日
山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)。
もっともなんだかんだで、作者が現実の世の中に対して抱いている不平不満を登場人物の名を借りて吐き出してるだけという話もありますが。
このはな村の設定は、第十部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月9日」および第十一部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月16日」の本文にて紹介しています。
みなさんこんばんは、板谷楓です。
週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。
この番組では、このはな村のさまざまな情報と、落ち着いた音楽、そしてわたしのとりとめもない雑談を、ミックスさせてお送りしています。かたい話ではありませんので、どうかリラックスしてお聴きくださいませ。
全国から集まった古い車両の乗車体験でお馴染み、このはな鉄道ランドがですね、予想を超える大盛況でして冬季休業が延期になりました。年内の土日に営業を続け、雪が積もって線路が埋まった時点で今年度の営業は終了だそうです。
今年は雪がなかなか積もってくれませんので、年内いっぱい楽しめるかもしれませんね。
ま、そんなわけですので、こないだの日曜日に取材してきました。では早速、その模様をお聴きください。
というわけで、今、このはな鉄道ランドに来ています。今日も館長の黒岩さんと、
「下っ端職員の、霧積優香です」
……下っ端なわけないでしょうがっ。
以前からこの番組をお聴きの方はご存知かと思いますが、霧積優香さんは村の若手農業者のグループで広報担当のような役割をしています。そして、わたしの二学年上というコネを利用して収穫された作物を売り込みに来るんです。最近は、この番組が鉄道ランドに取材に来ることをどこからか嗅ぎつけて、こうやってスタッフを装って宣伝に来るお邪魔虫です。
「もおー、楓ちゃんってば相変わらずの塩対応なんだからー。ホントは嬉しいくせにー、コノコノッ!」
ぜえったいに、無いですっ! はいでは早速、本日より運転開始の鉄道に乗ってみましょう!
「ええー、そんなバッサリ切らなくても」
というわけで、優香さんがぐだぐだ喋ってる部分はあっさり編集でカットすることにしましたので、お聴きの皆さんの貴重なお時間の浪費が多少、いや、かなり削減できたかと思います。今うしろでドンドンとガラスを叩く音をマイクが拾ってるかもしれませんが、優香さんを運転台に閉じ込めましたので、あとは順調に番組を進められるかと思います。
「だせー! ここから出せー! ラジオに出せー!」
……さて、何も聞こえない静寂の中にたたずむこの車両ですが、どこかで見た覚えがありますけど、黒岩さん、どこを走っていた車両なんですか?
「こちらは、神奈川県の温泉で有名な観光地と、ふもとの街を結ぶ鉄道です。日本でも有数の急な勾配を登っていく、いわゆる登山電車です」
あ、じゃあ、わたしも見たことあるし、乗ったこともあるかもしれないです。わたしの足が治るかもって両親に言われて、よく行ってましたから。まあ、それにかこつけて両親が温泉に行きたかっただけなんですけどね。
車内に入ってみますと、あっ! 確かに見覚えのある車内です! でも同じような車両が他にもありましたよね?
「はい、あります。というか、今もほぼ同じ型の電車が現役で活躍してしているんです。ですがこの車両は、なかでも特別なんです」
どこが、なかでも特別、なんですか?
「動き始めるとわかりますよ」
椅子に座って出発を待っていますが、どんどん思い出がよみがえってきてます。この座席と窓の間って、木なんですよね。電車なのに運転席にはハンドルが付いてて、山の中だからカーブのきつい場所がいくつもあるためだって聞きました。実際いまは使ってないって話でした、確か。
走り出すと違いが分かるって話でしたけど、どんな感じなのか、あ、ドアが閉まりました。いよいよ、出発です。
「ゴッ、グォォガァァァァ」
……思い出した! この重低音は、吊り掛けモーターというやつですね! あ、小声でしゃべりますね。確かにこんな音で走ってる電車に乗ってました。でも、見かけは同じでも静かな音の電車もあって、わたし、父にきいたんですよ、この電車は走る時の音が小さいからパワーが弱いの? って。その時の答えは、えっと、そうそう、新しい車両もいっぱい走ってますけど、あっちも音が小さいけど普通に山を登ってるだろ? って。
なんか、わたしの子ども時代を思い出しちゃいました。電車のことはよく分かってないですけど、なんか思い出に刺さる感覚ってこんな感じなんですかね。
以上、リポートをお送りしました。
はい。スタジオに音声戻しました。この新しく動き出した電車は、つい何年か前まで現役で走っていたし、このモーターが重低音を響かせる吊り掛け駆動方式でなければ、まだまだ活躍したかもしれないという説もあるみたいです。
年内は列車の復活運転はここまでで、雪が解けて春になったら新たな車両が加わるかもしれないということです。
次に動かす車両の有力候補は、首都圏の通勤電車で、保存鉄道としては異例だそうです。冬の間も整備は続けるということなので、楽しみですね。
食レポでーす。
今週は、ラーメン!
このはな村のラーメンって、特に変わったことはないと思うんですけどね、わたしは。でも観光で来た人とかは、懐かしい味がするってよく言うんですよ。だから、改めてどんな味なのか意識して食べたいと思うんです。
今日は、この役場分署で出前の人気ナンバーワンのお店から届けてもらいました。いわゆる町中華屋さんですね。ご主人は群馬県内で修行したので、平凡な田舎のラーメンだって言うんですけどね。
説明はさておき、早速いただきまーす。
この、ラップでぴちぴちに包んで丼のフタがわりにするのって、なんか良いですよね。これを開けるのが良くって、ちょっと開けるとそこから湯気が出てきて、おつゆの香りが、あつっ!
失礼しました、湯気が指にかかって、ちょっと熱かったです。開ける時はお気をつけて、ですね。あとは慎重にオープンしていきまして、では一口、ずずっ。
うん、いつものお店の味ですね。確かに奇をてらったりはしない、でも飽きない味です。しょうゆ味のスープですが、色は薄くて中が透けて見えます。だしの風味が強いのかな。素朴だけど、単純な味ではないんですよ。和風しょうゆらしい、深い旨みがあるんです。
麺は太め、いや中太かな? で、ややちぢれた麺です。これ、北関東が小麦文化で、うどんがよく食べられてたのと関係あるのかな。この辺も田舎風ではありますよね。
うん、美味しい〜。いつもの味というのが良いんですよね〜。
ここのお店ですけど、村の麺類って自家製麺か、村にある製麺所から仕入れてて、基本はこのはな村産の粉を使ってるんです。
さっきリポートに出てきた優香さんが説明してくれてたんですけど、長すぎなので情け容赦なくカットしました。ですので、ここで説明しますが、このはな村の小麦は寒さに当たってるからなのか、麺に強いコシが出るみたいですね。
あと、ずっと村内産を使ってると国際相場に影響されないんだそうです。まあ、当たり前といえば当たり前ですけど。
入っている具は、ネギ・チャーシュー・なると・メンマといった東京ラーメンの系譜に、季節の野菜が加わります。いまはブロッコリーとほうれん草ですね。これは野菜が安くて大量に手に入る土地柄ならではですね。
それと、チャーシューに脂がほとんど無くて、歯ごたえが硬めなんですよ。これもレトロなスタイルらしくて、厳密にはチャーシューじゃないって話も聞きますけど。
あと、このはな村でラーメンを食べられるのは中華料理屋さんか定食屋さん・食堂が多いですね。ラーメン専門店が毎年のように新規開店するんですけど、だいたいその年で撤退しちゃうっていう。
高いんですよね、このはな村の相場からすると。わたしの食べてるのも四百円で、専門店だと下手すると倍くらいしちゃいますから。
だから、お手軽なお値段で楽しめるというのでは、オススメだと思います。以上、食レポでした。
板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。
ラジオをお聴きの方に説明しますと、そもそもは一台の小さな電気機関車を走らせようとしたところから始まって、今や電車や機関車や客車などが大量に集まっています。これからも期待大ですね。
このはな鉄道ランドではフードメニューも色々楽しめるようになっています。今日紹介しましたラーメンも、頼めばすぐに来るそうです。
出前で。
ちなみに、鉄道ランドの出前は優香さんの担当です。新ネギの販売と純このはな村産メンマの開発に成功したとかで、それらのトッピングが丼に収まる限りは無料の代わりに、お土産用メンマの売り込みの圧がものすごいと思われますのでご了承ください。
お相手は板谷楓でした。
それではまた次回、ごきげんよう。
あーまた優香さん外に来てる、しょうがないでしょ編集の権利はわたしにあるんだから、大体いつも喋りすぎなんだってばもう……。
コアな鉄道ファンの方にしてみれば、今のところ突っ込み所満載な内容になっています、はい。追い追いそのへんの擦り合わせはしていきますのでご勘弁を。
まずは線路幅も電圧も違う電車をどうやって同じ線路で走らせるのかってところからですけど。
年末になって脱稿が遅れに遅れていますが、何とかペースを取り戻すべく本業もそこそこに頑張ってます(ん?)。
スタジオは土足可なんです。
板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。
お相手は板谷楓でした。
それではまた次回、ごきげんよう。




