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板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年9月22日

 山奥にたたずむちっちゃな村、このはな村のコミュニティラジオ、このはなFM。金曜夜のDJは板谷楓さん。彼女のトークと素敵な音楽で綴る番組の様子を、小説スタイルでお楽しみください(もちろんフィクションなので番組も放送局も実在しません)。

 もっともなんだかんだで、作者が現実の世の中に対して抱いている不平不満を登場人物の名を借りて吐き出してるだけという話もありますが。

 このはな村の設定は、第十部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月9日」および第十一部分「板谷楓のスイートメイプルタイム 2023年6月16日」の本文にて紹介しています。

 みなさんこんばんは、板谷楓です。

 週末の夜、このはな村役場分署の一階サテライトスタジオから生放送でお送りする番組、板谷楓のスイートメイプルタイム。

 この番組では、このはな村のさまざまな情報と、落ち着いた音楽、そしてわたしのとりとめもない雑談を、ミックスさせてお送りしています。かたい話ではありませんので、どうかリラックスしてお聴きくださいませ。


 今日は、東京とリモートで繋ぐという番組初の試みをしています。去年までやってた、みよたみのりのこのはなだよりではよくリモートやってたんですが、この番組では、わたしがリモートで話すの苦手ってのもあって、今までやっていなかったんです。

 ですが、今日はこちらのゲストの方から売り込みがありめしたので、さっそくお呼びします。

 みよた苗さーん!


 「はーい! こんばんおめ……」

うわー危なかった、いきなり放送禁止用語言うのは予想してたけど、相変わらず容赦無いなーもう。

 で、今日はですね、なんか苗さんが新しく怪しい商売を始めたとかで、それをコミュニティFMとはいえ公共の電波を私物化して宣伝して私服を肥やそうと悪だくみしてると聞いたのですが。

「人聞きの悪いこと言うんじゃありません! まったくもう、先輩に対する敬意ってものがないんだ からなー、楓さんはー」

うわー、目上の人の心身を土足で踏みにじってもケロッとした顔でお馴染みの苗さんから、おまゆうフレーズ来ましたー! ここであんまりツッコむと時間なくなるので、ざっくりみよた苗さんについて紹介しますね。


 みよた苗さんは、このはな村で子ども時代を過ごしたのち、東京の大学に進学。卒業後はお父様が経営されている不動産会社に社長秘書というかたちで就職、現在はと社長の威を借る狐と化して充実した守銭奴ライブを送っています。なお先月から出演してくれている、優香さんやマヤさんと同学年で、わたしの中学校の先輩です、って、苗さん聞いてますかー?

「あ? 誰が聞きますか! わたくしに対する誹謗中傷と悪意が溢れかえる、かつエビデンスのへったくれも無い紹介という名の名誉毀損を!」

 あーはいはい、ラジオお聴きの皆さん、わたしたちいつもこんな感じで苗さんディスるのが慣例ですのでお気になさらずどうぞー。


 つか、さっさと苗さんが会社のお金を横流しして作ったという新業態のお店ってどんなお店なんですか?

「はい、よくぞ聞いてくださいました! 今回、弊社フォーセブンティーンインベストメント、略してジャニ……」

こらー! 社名にさりげなく時事ネタを盛り込もうとするなー! リスナーの皆さん、お分かりですか? 苗さんはわたしの先輩の中でも最も危険な、ヤバい言動で世間をざわざわさせるのが趣味という人なので、そういう兆候が見られたらすぐ止めますんで気にしないでくださいね。

 で、苗さんの始めた事業って、いったい何なんですか?

「よくぞ聞いてくださいました!」

二度目です。

「この度、始めましたのは、なんと! 飲食店です!」


 飲食店、ですかー。いや、、打ち合わせ段階でそれは知ってたし、早く言えって思ってたんですけど、それにしても苗さんにしては普通な業種ですよね。

「まー、そうかもしれないですねー。まー、ウチ的にはもっと個性的かつ低コスト高収益な、あなたには呪いがあついているから献金という形で徳を積みなさい、手始めにこの壺を」

はいそのボケもストップ! 苗さんはほんっと、炎上を狙って仕掛けるのが正義だと思ってる、正しい意味での確信犯なので、その都度修正しないといけないのが面倒ですけど。で、今度こそ本気のプレゼン、お願いしますよ!


 「はい、がってん承知です! ではさっそく。ここ数年、新型ウィルスが猛威をふるったせいで飲食業界は大きな打撃を受けました。ただ今年になって飲食業界も他業種同様に持ち直しと盛り上がりを見せてきています。ですが」

です、が?

「その盛り上がりが、まだしっかりと存在しているウィルスの危険性と隣り合わせであるという事実を隠蔽して進められているようにすら見えるんです。だってほとんどの飲食店では、ふっと隣に座った客がウィルス保持者かもしれないというリスクがあるんですから。一食ごとにロシアンルーレットを引かされているようなものですよ、これは」

そうですよねー。このはな村で「こびとさん」と呼ばれていたウィルスは無かったことにされてる感じがしますよね。それでもこのはな村では、マスク割などの施策でもって、ウィルスへの戦いをあきらめてないですけど。

「おっしゃる通りなんです。そこで、お客様に新たな選択肢を提供するための新業態を始めたんです」


 なるほど、それで具体的には何のお店ですか?

「はい、ま、ざっくり一言で言うと、居酒屋です」

うわー、ベタですねー。で、どんなところが違うんですか?

「まあ、珍しいことをあえてやろうというつもりではないので、普通に食べ物と飲み物、あ、もちろんできるだけ安価で美味しく身体に良いものを提供しようと考えてます。お客様が健康に過ごせるような食を提供していきたいです」

なるほど、そこでこちらのお店では、さまざまな工夫をしてお客様が快適かつ安全にご飲食を楽しめる工夫をしている、ということなんですね。


 それでは、店内がどんな感じか、見せてもらっていいですか?

「はーい。こちらの画面に映っているのが、店内のようすです」

ほう。んーでも、普通のお店とそう変わらない気がしますけど?

「あーはい、お客様もびっくりしないように、なるべく普通の店構えを心がけてますから。でも、こうやってカメラを上の方に向けてみると?」

向けて見ると?


 おおーっ! 屋根が無い!?

 いや、無くは無いか。客席と最低限の動線には屋根がありますね。

「そうなんです! これがまず第一のポイントです。ウィルス対策に有効なのは換気。そして換気を確実に行うには、屋根を取っ払うのが一番! というわけで、ほぼほぼオープンエアーなんです! ついでに壁も不要なものは取り払ってます」

ほえー、というか壁というより、なんか、ただの塀というか……。

「塀というか仮囲いですね。マンションの新築工事がいまこう着状態なところを利用して、このお店を開きましたー!」

なるほどー。現在使っていない土地の有効活用なんですね。


 でも、他にも感染症対策って必要ですよね。どんなことをしているんですか?

「もちろんです! そこで当店では、マスクを着用していないお客様の入店お断りです!」

おおぅ、大きく出ましたね。今それ言ってるお店って、東京だとほとんど無いんじゃないですか?

「悲しいかなそうなんですよね〜。でも当店はそこをあえて、マスク着用を原則にしています」

クレームとか無いですか?

「んー、中には文句垂れてくる客もいますけど、こっちはこっちで、嫌なら来るなって言って終わりですからね。言い方は柔らかくしますけど」

えー、大丈夫なんですかー? だって今そんなこと言うと、絡まれたり、SNSに投稿されたりしません?

「あー全然平気です。最初、女性店員が対応すると食ってかかって来がちなんですが、そこでもって弊社自慢の体育会から集めた筋肉自慢の男性社員、体育会系は礼儀正しいんで営業に向いてるという社長の考えで多めに採用してるんですが、彼らが出てくると、マウント取りまくってきてた客も途端に静かになりますね」

……はは。


 「言うて、マスクしないで来たお客様でも抗原検査陰性だったら入店できますし、あとマスクしてる人が抗原検査陰性だったら、お会計十パーセント引きになりますけどね。それより何より、店内をもっと見てほしいんです。ほら」

 あーはいはい。こちら、は、客席ですね?

「そうですよー」

客席は、でも一見普通の客席ですよね?

「普通に見えるのは、楓ちゃん幸せなんじゃないかなー。隣の席や前の席との間に仕切りがあるのは、普通じゃないんだよ? 東京では」

あっそうか、仕切りがあることに慣れちゃって気が付かなかったけど、東京に限らず日本のあちこちで、その仕切りは無くなってきてるんですよね。

 あれ? でも、仕切りは付けてあるのに、お醤油とかは何人かで使う感じなんですか?

「あー。これって実は分けるのそんなに意味無いんですよ。だって、ちゃんと手洗いしてから使うんだから、という考えです。このお店は」

あー、確かに一理あるけど、手洗いとかの接触感染を特に気をつけるようにしてきたから抵抗があるお客さんもいるんじゃないですか?

「もちろんそのようなお声には対応しますので、個別の調味料もあります。でもあえてこのような形にしたのは、手洗いとかの接触感染だけ気をつけておけばマスクしなくてもいいみたいな、間違った感染症対策というか、感染症対策をしたつもりになってる飲食店がよくみられたので、そこへの啓発も兼ねてるんです。その代わり、手を洗いたくなったらすぐ洗えるように、すべてのテーブルに手洗い用の流しが設置してあります」


 ところで、肝心のお客さんは来てるんですか?

「もちろん。曲の間にインタビューオーケーなお客様とアポ取りしたので、お話をお聞きします。ちなみにマイクだけお客様のところに持ってって、離れた場所からインタビューします。こんにちはー、いらっしゃいませー」

「こんにちはー」

「こんばんはー」

「女性三名様でいらしてくれましたが、当店を選んでくださった理由は何でしょうか?」

「そうですねぇ、やっぱり他のお客さんがマスクをちゃんとしてるからですね。最近はお店の方もお客さんもマスクをしていないことが増えたので」

「はい、ありがとうございます。当店では食事中も原則マスク着用推奨ですし、各客席からは換気ファンからチューブに空気を送って、お客様の飛沫やエアロゾルをすぐに排出出来る設計にしています」

 あ、どうもこんばんは、このはな村のコミュニティFM、このはなFMの板谷と申しますー」

「こんばんはー」

皆さんは、マスクをしていない人が多いお店を避けてこちらのお店にいらしたということですが、肝心のお味はいかがですか?

「とても美味しいです! お酒も、おつまみも。特にお野菜が新鮮で嬉しいです。居酒屋のサラダって結構リズムで頼んじゃうみたいなとこありますけど、このお店のはお代わりしたいくらいです」

 あ、あら、ありがとうございます。そのお野菜、このはな村のものなんですよ?

「みよたでーす。実はお客様から野菜が美味しいってお声をたくさんいただいてるんですよ。で、仕込みヤラセの類は一切してないんですが、今のように野菜を褒めてくれるお客様って多いですねー、あ、何か言いたいことございますか?」

「あ、はい。私いま子育て中なんですが野菜が高くておかず作りが大変なんですよ。でもこちらのお店みたいに、リーズナブルで美味しい野菜があると良いですよね」

わぁ、嬉しいお言葉ありがとうございます。こちらには、このはな村から野菜をはじめとした直送していますので、それを喜んでもらえるのはわたしも嬉しいです。


 で、みよたさん、ほかにも、仕入れで工夫していることはありますか?

「基本はこのはな村をはじめとした国内の産地から直送の素材を使った料理を提供しています。肉や魚も国産にこだわって、近県で採れたものを中心に揃えています」

 おー、ということは地産地消を意識してるんですか?

「それを目指してるわけでもないんですが、安くて新鮮なものを求めていると結果的にこうなったって感じです。今年は暑さで野菜が高いとは言われてますけど、実際は形が規格外になったり、予定していた出荷の時期より早く育ってしまったということも多いんですよ。当店はそういった農家さんを探して通常のルートで出荷できない野菜を仕入れたりしています」

 なるほど、ということはお値段もかなりリーズナブルにできると?

「その通りなんです! 当店は席料無しのお通し無料、食べ物は同じお皿を取り分けることによる接触を回避するため全て一人前なんですが、全て量が少ない分百円から三百円までで提供しています」

やっすーい! お客さんの反応もすごいんじゃないですか?

「聞いてみましょうか?」

「あ、はーい。安さにとてもびっくりしました。でも安くても美味しいし、その分量が少なめかなってものもあるけど、一人分だったらちょうどいいです」

「ありがとうございます。特にその点が女性に好評なんです。たくさんあっても食べきれないからって」

 わかるー。飲み物はどうですか?

「お酒も、関東甲信越の日本酒や焼酎・地ビールに地ワインを中心に揃えてます。当店は食べ物でしっかり収益を確保するスタイルなので、小売価格に少し色付けたくらいでお出ししています」

 「あ、すみません、いいですか?」

お、お客さんからご意見あるようですね。どうぞ。

「この純米大吟醸がグラスで500円って、信じられないですよ! 普通はこの倍します!」

「そちらは一升瓶で4000円くらいなんで、一合だったらそれでも余計にもらってるくらいだから、いいんですよ?」

「いやいや! 鮮度管理とかも含めての価格設定ですよね飲食店のお酒って! それにこれ、一合じゃないですよ? 絶対」

そうなんですか? 苗さーん、カメラで寄ってもらっていいですか?

 って、うわー。これもっきりですよね。もっきりというのは、木の枡の中にグラス置いて、そこにお酒をなみなみ注いで桝にあふれさせるやつなんですけど、もっきり用のグラスって普通もっと背の低いの使いません? グラスだけで一合入るはずだから、そこから溢れさせるとかなりの量になるんじゃ……」

「あー、多い分にはいいかと思ってー」

大丈夫かな、このお店持つんだろうか……。


 それはともかく、食レポでーす。

 今日はお店自慢のデザートを送ってもらいました。これはフルーツシャーベットですね?

 んんっ! 甘くておいし〜い! これは、桃と、梨ですね?

「そうでーす! 夏から秋にかけて、思いっきり旬の、桃と梨のシャーベットに、このはな牛乳で作ったアイスクリームを合わせましたー!」

 あ、やっぱりこのはな牛乳なんだ。コクがあってほんのり甘いの。そのアイスクリームをまあるく盛って、その上にキューブ型とか星形とかのシャーベットがたくさん乗ってるんです。これは凝ってますね〜。


 でもこれ、このはな牛乳は村営牧場製で安いからともかく、果物っていま、高くないですか?

「物や場所によりますよ。台風や水害で被害を受けた果物の産地もありますけど、暑くて晴れが多いことで豊作になっている果物もあります。ですが、暑すぎて予定の出荷時期より早く収穫期を迎えたり、あと風雨で傷が付いたりして、食べられるけど売れないとかあるんで、そういった情報を集めては買い取ってシャーベットなどにしてるんです。普通の市価よりは安く買えるのでコストダウンにもなってます。あ、もちろん買い叩いたりはしてませんよ?」

 分かってます分かってます。このはな村の周りでも余った野菜や果物とかを給食で使ったりするじゃないですか。そうすると農家さんって、引き取ってくれるだけでも有り難いのにそんな沢山お代をもらったら悪い、っておっしゃるんですよね。

「そうそれ。だって農家さんにしてみれば、憐みでお金を受け取りたくは無いし、計画通りのものを自信を持って提供するという誇りもあるから。だからこちらも商売人の矜持を持ち出すわけですよ。真っ当な商人として真っ当な値段を付けさせて欲しい、こちらの顔を立てるつもりでこれだけ受け取ってもらえないか? とお願いして、ある程度の値段を落とし所にするってわけ」

うんうん、わかるー。大切に育てた果物が買い叩かれるのも嫌だろうけど、いちどは価値が無いと見切りをつけた物を変に高く買われるのがゾッとしないのも分かりますー。

「でしょ? だからそこは農家さんが丹精込めて作った品物を、美味しいから買う! っていうスタンスで買い付けてきてますよ。農家さんが果物に込めた想いを、いただいてくださいね」

はいっ! 心していただいております!



 板谷楓のスイートメイプルタイム、お開きの時間が迫ってまいりました。

 今日はこのはな村出身、わたしの中学校の先輩でもある、みよた苗さんと番組初のリモートで繋いでお送りしました。

 ところで、苗さんのお店の肝心の店名を聞き忘れていたのですが、場所も含めて教えてもらっていいですか?

「えー、店名は、ビッ」

ネタ的に危険なボケは無くていいですよー。はい、仕切り直しで、どぞー!

「はーい、今度は真面目に。遠い宇宙まで名前が響くくらいの評判を取りたいと思って付けた店名は」


 「酒どころ、一万光年、略して」


 略さなくていいー! あいっかわらず、同じ女子とは思えないんだからもうっ! えっと、酒どころ一万光年は、横浜から三駅めのレトロな商店街の中にあるので、興味のある方は行ってみてくださいねー。


 ここで番組から重要なお知らせです。皆さんはプレミアムフライデーって覚えてますか? 毎月最終の金曜日は特別な週末にしましょうという呼びかけで始まったものです。

 この精神を思い出すという狙いで、このはなFMでは毎月最終金曜日、夜の放送を音楽のみにすることとなりました。したがって、板谷楓のスイートメイプルタイムも毎月最終金曜日、つまり来週はお休みとなります。

 なにとぞ、ご了承のほどお願いいたします。


 お相手は板谷楓でした。

 それではまた次回、ごきげんよう。


 苗さん、おつかれー。

 あ、プレミアムフライデーうんぬんの本当のところ? 予算の問題と、わたしが月一くらい花金を楽しみたいのと……。

 今年は暑さで野菜が打撃を受けたりする一方、果物などのなかには大豊作なんてとこもあるみたいですね。

 七月ごろに、福島で桃が早熟のため出荷しにくくなっているという話をSNSで見たのですが、その後大手コンビニで福島県産桃を使ったシャーベットを発見しまして、もしかして産地を救いつつリーズナブルなスイーツを作るというコンビニエンスストアの戦略がもしかしてあったのかな、と思ってはいますが本当のところはわかりません。


 それにしても、COVIDの勢いは相変わらず衰えず、そんな中でノーマスクの人が溢れている盛り場はもう恐怖でしかないです。

 少しでも多くの人が危険に気づいてくれれば……。

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