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第20話 異世界外交官アニラ

人物名変更のお知らせです。

あらすじにも記載しましたが、

セオ・オーウェル→セオ・ローウェル

に変更いたしました。ご了承ください。


 波乱の国交会談を切り抜けたアニラたち。

 彼女たちはある人物と面会すべく、ノーグ・ローデン第四層、特殊捕虜収容所を訪ねていた。


 特殊捕虜収容所は、捕虜となった敵対国の将官や要人などを収監する施設だ。

 収容対象への配慮からか施設内は清掃が行き届いており清潔で、内壁一面が白く塗装されている内部は、一見すると医療施設のようにも見える。

 されど、通路の左右に並ぶ独居房の扉、その上部に設えられた小窓は鉄柵で塞がれており、施設全体に物々しい雰囲気が漂っている。


 そんな収容所に、アニラの能天気な声がこだまする。


「がいこーがいこー、がいこーかーんっ」


 ファルデンの尋問官に案内され通路を進むアニラは、上機嫌に腕を振って歩く。

 その姿からは、国交会談で披露した怜悧な印象は微塵も感じ取れない。

 明るく、元気な少女――『無垢のアニラ』に戻っていた。

 浮かれ気分なアニラに、シアは小声で話しかける。


「アニラちゃん、楽しそうだね」

「もちろん!」


 胸の前で両こぶしを握り、アニラは力説する。


「だって私、今外交官なんだよ、がいこーかん!」


 彼女が浮かれるのも無理はなかった。

 なぜならアニラは名実ともに、異世界問題を解決する重要人物になったのだから。

 つまり、異世界文明との橋渡しを担う役職――異世界外交官に。


 先刻、大統領官邸で緊急締結された「異世界外交協定」。

 それによりアニラは世界最初の異世界外交官に任命された。

 なおその際、『最初のアニラ』による大立ち回りの記憶がすっぽり抜けている『無垢のアニラ』は、


「え、私が外交官でいいんですか? 本気ですか?」


 と困惑し、直前までのギャップから周囲を戸惑わせたりもしたが、最終的には彼女の「でも、おもしろそーですね!」という一言により丸く収まったのだった。


 やや緊張感が足りないながらも、異世界外交官に就任したアニラ。

 そんな彼女にさっそく、最初の派遣要請が下った。

 異世界外交官アニラの初任務。それは「ファルデン軍が捕らえた異世界人捕虜の事情聴取」というものだった。


 協定締結後、ファルデン国防長官は「異世界人の捕虜がいる」ことを明かした。

 彼が言うには、捕虜を捕らえたはいいが言語の違いから会話が成立しない。

 これでは情報を引き出すことも相手国との交渉役にすることもできないため、頭を悩ませていたのだという。

 そこで対話魔導式を持つアニラに白羽の矢が立ったということだった。


 そのような経緯でアニラとシア、それから数名の特使団員は、異世界人に面会すべく収容所を訪ねていた。

 まだ見ぬ異世界人との出会いに、アニラは期待で胸膨らませる。


「異世界人さんってどんな人だろ! 角とか翼とか生えてたりするのかな?」


 ひょこひょこっと、アニラは角や翼をジェスチャーで表現する。


「そっか、人間とは限らないんだもんね」

「……人間でしたよ」


 少女たちの会話に反応したのは、先頭を歩く尋問官だった。


「え、私たちと同じ?」


 彼は振り向くこともなく、低くしわがれた声で話す。


「……おそらく、我々と同じ種族かと」

「ほー?」


 まだ実際に見たわけではないが、どうやらその異世界人もまた人間らしいと知り、アニラは思いめぐらす。


(ヴィストニアもファルデンも、そして異世界人もみんな人間……。偶然なのかな?)


 しばし収監区画を進むと、先導する尋問官が歩みを止め、振り返る。

 薄暗い電灯に照らされた尋問官は長身やせ型で、頬や目元は落ちくぼみ、その姿はさながら骸骨か、死して動く亡者だ。

 亡者然とした彼がアニラたちに語りかける。


「……この部屋に、件の人物がおります」


 扉の向こうは静かで、そこにどのような人物がいるのかは想像できない。


「……捕らえた時は武装しておりましたが、今は凶器となりうるものはもちろん、所持品はすべてこちらで保管しております。……本人も戦闘の意志はないらしく、襲われる危険性は低いと判断します」

「あの、聞いてもいいですか?」


 アニラは律儀に挙手し、尋問官に確認する。


「その異世界人さんに、ひどいこととか……」


 アニラも尋問官の外見からそう決めつけているわけではない。

 ただ彼の感情が欠落した死人じみた姿を見ていると、よくないことまで想像してしまうのだ。

 もっともそれは杞憂に過ぎなかったらしく、心配は無用、とばかりに彼は首を振る。


「……言葉が通じないのでは、あらゆる尋問も意味をなしません。『彼女』を捕らえて以降、その負傷を治療することはあっても、心身を脅かす行為は一切しておりません」

「彼女? その人は女性なんですか?」


 尋問官の発言に、アニラは耳ざとく反応する。

 彼は頷き、肯定する。


「……外見から、我々はそう認識しております」

「そっか、女の人……」


 これから出会う相手が女性と知り、アニラはやや思案する。

 そしてこう切り出した。


「あの、なら私一人だけで話させてもらえませんか?」


 提案した少女を、尋問官は訝しげに見つめる。


「……理由を」


 静かだが迫力のある尋問官に、アニラは手をわたわたと振って述べる。


「ほら、女性同士の方が話しやすいし、安心すると思うんです……えっと、ガールズトーク!」


 最後の一言は余計だったかもしないが、アニラによる異世界人への配慮は伝わったらしい。

 尋問官は小さく頷くと、一行の後方へ視線を向ける。

 その先には、護衛役として追従するセオがいる。

 視線から尋問官の意図を察した彼は、列の前方へ歩み出る。


「……ならば、ローウェル氏を付き添わせてください」


 アニラはこくこくと頷く。


「はい、それで!」

「……改めて言いますが、本格的な聴取は取調室で執り行います。この場では、意思疎通が可能である、ということだけ示せれば結構」

「了解です!」


 この聴取に関する段取りは、アニラたちも説明を受けている。

 これからアニラが取り組むのは、その第一段階。

 対話魔導式が異世界人に対しても有効かを確認し、有効な場合は対話を試みる。

 第一段階が遂行できれば、第二段階の聴取へと移行する、という流れだった。


(でも、ちょっと友達になるくらいは……いいよね?)


 アニラは心中でささやかな希望を抱く。


「……では、入室を」


 尋問官によって開錠され、収監室の扉が開かれる。

 まだ見ぬ異世界人が待つその部屋へ、アニラは踏み込む。


 異世界外交官、アニラ・リア・フルルータの初仕事が始まろうとしていた。



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