062 ぼくがかんがえた、さいきょうのまおう
2016・15 0:57
間違えて63話をアップしたので差し替えました。
あらすじ
魔王と大天使と遊ぶ長道であった。
― 062 ぼくがかんがえた、さいきょうのまおう ―
夕食後。
軍がすぐに強行軍で、グロガゾウの街まで出発する知らせが来た。
三日かかる行程を二日で進むために今から出発する必要があるのだ。
フレンツ公国が攻めてくるのがわかっているのだから、当然の選択だろう。
僕らとしては、どうしても親衛隊と一緒に進まなければいけない理由はないから先に行ってくれと伝える。
バタバタと忙しい中、ヘルリユ皇女がわざわざやってきた。
「長道、グロガゾウで待っているぞ。」
「暫しお別れだね。街に着いたら知らせるね。」
ヘルリユ皇女と簡単な挨拶をして、軍が出発するのを見送った。
30分後
2千人の軍が居なくなると、あたりは静かになってとても寂しい気がする。
そこで、タイミング悪くマリアお母様に<念話>が届いた。
「…はい、はい。承知いたしました。お迎えが到着し次第ご報告に向かいます。では失礼いたします。」
僕はマリアお母様の手を握る。
「神殿からですか?もしかして進路を変更するのでしょうか?」
優しく微笑むマリアお母様は僕の手を両手で握ってくる。
「長道、わたくしは今からフレンツ公国から危害を加えられた件で、聖教国の神殿へ報告に行かなければなりません。明日のお昼までには戻ってきますがお留守番をして我慢できますか?」
不安になる。
「そんな!マリアお母様が居なくなったら不安で耐えられませんよ。」
でもそんな僕を大豊姫さんが後ろから肩を抱いてくる。
まだ帰ってなかったんだ…
「大丈夫ですよ、マリアちゃんがいない間は私が傍についていますので。」
『食楽王』マリーさんも横に来て僕の頭をなでる。
「私も面倒見てあげますよー。だって長道は友達ですからー。」
大天使と魔王が面倒見てくれるって、すごいセキュリティーだ。
それでも僕は不安だけど覚悟を決める。マリアお母様を困らせるわけにはいかない。
「お二人がいてくれるなら気もまぎれますから大丈夫です。マリアお母様はお仕事を優先してください。」
「ありがとう長道。聖教国の首都からお土産を買ってきますから楽しみしていてくださいね。」
お人形のように可愛いデルリカがマリアお母様に抱き着く。
「お一人で向かわれるという事ですか?どうやって聖教国まで行かれるのですか?」
「これから準大司教様が転移魔法で迎えに来てくれるそうです。用事が終わったらココに送り届けてくれるそうですので大丈夫なのですよ。」
そう言ってると、目の間にシュッと子供があらわれた。
「うわ!なんだ?」
驚いて僕は一歩さがる。
おかっぱ頭の10歳くらいの少女がそこに立っていた。
少女を見るとマリアお母様が深々と頭を下げる。
「ジージョ準大司教様、お迎えに来ていただき感謝申し上げます。」
ジージョ準大司教?
傍に居たダグラス団やヒーリアさん達が膝をついて頭を下げる。
僕は不思議なものを見る思いで見つめてしまった。
「準大司教って子供なの?」
すると準大司教は不機嫌に僕を見る。
「子供じゃないよ。こうみえて60代なんだからね。」
言われて気が付いた。
「もしかして<状態異常耐性>が10ポイントついてる?」
「そうだよ。でも私はこの年齢で固定化しちゃったの。もっと大人の体ががよかったのに。」
そうなんだー。
ジージョ準大司教は、しばらく僕らを興味深そうに眺めるとマリアお母様に向く。
「じゃあマリアリーゼ司教。神殿に行こう。」
シュン
そのままマリアお母様とジージョ準大司教は消えた。
「おお!消えた!これが転移魔法か、すごいね。ここから聖教国まで一瞬で行けるとか羨ましいなー。」
するとマリーさんが不思議そうな顔でのぞき込んできた。
「長道もできるじゃないですかー。長道はレベル400超えの魔王ですから<転移魔法>をもっているはずですけど?それに<純化魔法>と<時間魔法>があるのでうすから<転移魔法>のスキルを持ってなくても同じことができますよ?」
「あ、そうなんだー。でも<転移魔法>って怖いから使ったことないんですよ。だれかが詳細に教えてくれるまで使う気が無かったんです。岩の中とかに<転移>して死んだりしたら嫌ですし。」
すると呆れた顔をされてしまった。マリーさんに呆れられるとかショックだわー。
「<転移魔法>は次元の壁を破るから危険なところだったら通れないだけですよー。長道を<鑑定>したらスキルや魔法に、ほとんどポイント振っていないですけど、もしかして怖くて使えないからですか?」
里美が手を上げる。
「お兄ちゃん、そういえば魔王や魔物たちから奪った力はどうしているの?使ってるの見たことないけど。」
「え、コレクションしているけど。」
「自分にどの能力を移植したの?」
「え?何も自分に移植していないけど。コレクションしているだけだよ。だって移植の時に苦しいんでしょ。」
この時の周りの目を僕は一生忘れないだろう。
ニコニコ楽しそうにした居た人たちが全員同時に「はっ?」って表情になったのだ。
デルリカが呆れたように僕をのぞき込む。
「お兄ちゃん、まさかスキルをコレクションしただけで終わっているとは思いませんでしたわ。まったく使っていませんの?」
「いや楽しんでるよ。寝る前に奪ったスキルとかステータスを見てニヤニヤするとかして。リストも作ってあるし。」
横を見ると、妹達もあきれているようだ。
う、言い訳しなくちゃ。
「だって怖いじゃん。強力すぎる力だったら周りに迷惑をかけるかもしれなし。」
すると大豊姫さんが正面から僕の肩を掴んできた。
相変わらず、テンパった感じで目が怖い。
「それでしたら私が何でも教えますよ。すぐにテントを立てて寝転がりながらお話しましょう!」
グイグイくるなー。
「わ、わかりました。じゃあテントを立てちゃいましょう。そしたらお願いします。」
僕はテントの設置をはじめた。
うしろで大豊姫さんが「長道さんが逃げないでお願い聞いてくれるー。嬉しいー。」とか言っている。
本当に僕らは友人だったのだろうか?
ビレーヌや妹達に手伝ってもらいながらテントを設置すると、みんなでテントに入る。
このテント、5~6人用のテントだけれど、マリーさんが<純化魔法>の応用で中を異様に広くしてくれたのだ。学校の教室くらいの広さになってる。
<純化魔法>は空間を弄れるのか。勉強になります。
みんなでテントに入ると、大豊姫さんはテントの真ん中でクッションを出してごろりと横になる。
自前の胸クッションがあるんだから、そのクッションはいらないんじゃないかな?
「さあ長道さん、隣にゴロンとしてください。」
なんでゴロンとしなといけないんだろうか?
でもまあ、大豊姫さんがクッションをもう一個出して待ち構えているので、素直にそのクッションに顎を乗せるように横になる。
僕の反対側の横には里美がゴロリと横になる。
「私も参加するー。」
デルリカと康子も前方に横になる。
修学旅行の時に消灯後のおしゃべりをするみたいなフォーメーションだな。
うつ伏せに横になっている僕の上に、マリーさんが覆いかぶさってきた。
「あははは、長道ぶとんです。」
イラっときたけど、背中に当たる柔らかい感触が悪くないので許すことにしよう。
少し離れたところで、ダグラス団やヒーリアさんがお茶を飲みながらこっちを見ている。
さすがに横になって参加はできないようだ。
魔王と大天使をまえに、緊張しているのかもしれない。
特にユカエルさんは興味津々に聞き耳を立ているっぽい。目を瞑って集中している。
ギルド長をするくらいだから、こういう情報には真剣そのもだ。聞き逃さない気満々だな。
まあいいか。
僕は大豊姫さんに顔を向けた。
「じゃあ、僕の持っているスキルや魔法をガンガン質問しますね。」
「はい、なんでもぞうぞ。納得いくまで教えちゃいますから。」
顔が近いので少し照れるな。
いきなり背中でマリーさんが「デュ、デュ、デュデュ」とか口で言いながら暴れ出す。
またエアDJの動作だ。
「はい、またまた始まりました。魔王と大天使のなぜなにコーナーです。実況は私『食楽王』マリー。」
「解説は大天使・大豊姫でお送りいたします。本日のゲストはおなじみ、長道さんです。」
また小芝居が始まった。
僕はあきらめの境地で小芝居を受け入れる。
「はい、長道です。本日はよろしくお願いいたします。」
「「よろしくお願いいたします。」」
背中の上でエアDJをするマリーさんがうざいけど、質問を始める。
「沢山あるんで端から順に聞きますね。」
僕は次々に質問をする。
魔王たちが持っていた能力について。
魔物から奪った能力について。
妹達が持っている能力について。
大豊姫さんとマリーさんは、明快に答えてくれた。
こんな事なら、もっと早く聞いておけばよかったかも。
大体疑問が解決したころ、デルリカが興味津々に僕を見る。
「お兄ちゃん、みんなで最強の魔王能力を考えませんこと?リストを書き出してお兄ちゃん持っている能力でベストを考えたいですわ。」
「なんか面白そう。いいよ、いま書き出すから待ってね。」
書き出すのは僕のスキルや魔法を管理している人工精霊のデーク南郷。
一瞬で人数分のリストを作って<空間収納>から渡してきた。
さすが仕事が速い。
その紙をみんなに渡してワイワイ考え始めた。
リストをもらったユカエルさんの顔が固くなる。
「なんだいこのラインナップは。しかもブレスが3種類もあるよ。長道坊っちゃんは私の想像をはるかに超えてるね。」
魔王たちから奪った能力もあるし、狩りのついでに他の魔物たちから奪った能力もたくさんある。
大体300種類以上あったはず。
それを見て、ユカエルさんやダグラス団は目を丸くしている。
ヒーリアさんは、大体知っているから驚いていないけど。
そのリストを見て、妙にダグラス団が静かだと思ったら、代表してダグラスさんが恐る恐る聞いてきた。
「長道坊っちゃんの職業欄がさ、魔法技工士・錬金練成士・村人・魔王・ネクロマンサーになってるんだけどよ…魔王って、あの魔王か?」
言われて気が付いた。
「あ、ダグラス団とユカエルさんには言ってなかったかも。僕は魔王なんですよ。黒竜王を倒すときにうっかり魔王になっちゃんたんです。他のみんなには内緒だよ。てへ。あと、ちなみにデルリカとビレーヌも魔王だから。康子と里美とヒーリアさんは勇者です。」
あ、厳ついダグラスさんたちの顔がみるみる青くなる。
うっかりしちゃったな。
でもユカエルさんがすぐに復活する。
「まあ、よく考えたら魔王や勇者だって言われた方が納得がいくさね。なんせ3体もの魔王をあっけなく倒しているんだ。しかも魔王『食楽王』が友達だっていうのも、長道坊っちゃんが魔王だってんなら理解できるよ。ほんと、考えれば当然ってことだよ。」
その言葉で、ダグラス団も落ち着いてきた。
ダグラスさんは、腰から酒のビンを出すとクイっと一口飲んで深呼吸する。
「ふー、それもそうだな。もとより悪魔に魂を売る覚悟で長道坊っちゃんの誘いに乗ったんだ。魔王だったからって驚くことじゃないか。たしかに俺たちにこれだけの力を与えるんだから、魔王でもなければありえないよな。」
ダグラス団も落ち着いたようだ。
「じゃあ始めましょう。自分が魔王や勇者になるなら、どんな感じの構成にするか考えてくださいね。」
シンキングターイム
(デーク南郷がゴル○13みたいな目のまま、歌いながら踊っているイメージで)
ふがふがふー、ふがふがふー、ふんふんふん。
「はい、終了」
みんな真剣に考えたので2時間くらいかんがえた。
考え出すと、けっこう時間がすぐにたってしまうもんだな。
みると、それぞれの性格が出る内容だった。
ダグラスさんは、接近戦攻撃力重視。
ユカエルさんは、万能型にまとめていた。
ヒーリアさんは、遠距離攻撃型だった。
面白ほど違いが出るなあ。
そして参考になる。
みんなが書いたものを見せ合っていると、ビレーヌが赤毛を振り乱して僕の前に来る。
「長道様、見てください!」
「お、おう。」
迫力に気おされながら見ると、ビレーヌの考えた構成はまるで赤竜のようだった。
「長道様、わたくしは先日倒した『紅竜王』を襲名しようかと思っているのですが、どう思われますか?」
赤竜が好きなのかな?
「良いと思うよ。似合ってるし。」
「ほんとうですか!ありがとうございます!」
ビレーヌは早速、自分のステータスの称号をN魔法で書き換えている。
そんな事、僕に許可取らなくてもいいのに。
そして嬉しそうにステータスが見ながら「長道様とおそろい」とかつぶやくのが聞こえた。
ああ、なるほど。
僕が『黒竜王』だから『紅竜王』でお揃いか。
子供は変なところで羨ましがるんだな。
するとデルリカが僕の紙をのぞき込んできた。
「お兄ちゃんは、どのような感じにしましたの?」
「僕の?あんまりおもしろくないよ。」
スキル:
<空間収納><鑑定探査><空間ファクトリー>
<全耐性:10><錬金系:10><錬成系:10><技工士系:10>
<鱗増殖:10><体毛増殖:10><黒竜ブレス:10><赤竜ブレス:10><咆哮ブレス:10>
魔法:
<一意多重存在:10><時間魔法:10><純化魔法:10><原始魔法:10>
<転移魔法:10><変身魔法:10><高速飛行:10><日本ライブラリー:10>
武技:
<ミスリル体毛:10><ローリング:10><オリハルコン爪:10><絶対牙:10><鱗刃:10><飛鱗:10><ボディーソニック:10>
デルリカは納得いかない表情だ。
「これだけですの?魔眼や魔咆哮も必要ではないでしょうか?魔法だって各種持てばよいと思いますが…」
「いーの。地味な魔王を目指すから。それに魔法は特殊なものを除けば、N魔法でどうとでもなるし。」
そう、一部の例外を除いて、魔法スキルは僕らには必要ないのだ。
N魔法を持たない人は魔法スキルで手にれるのが常套手段なのだろう。
でも僕らはN魔法がある。自分で魔法のパッケージを作れるので、特殊な物を除いて魔法スキルがなくても実現できるから。
究極魔法みたいな上位魔法はN魔法で実現できないので、個別で持つしかないっぽいけど。
なので魔法スキルはごっそり排除して、N魔法で実現不可能な固有魔法や固有スキルで集めてみた。
僕はこれを「ぼくのかんがえた、さいきょうのまおうセット」と呼ぶことにしよう。
そのあと…
マリーさんが嬉しそうにエアDJを再開する。
「では本日のプレゼントコーナーです。当選者には能力移植のプレゼントですよ。ではお葉書のなから私が目を瞑って選びまーす。」
ラジオ番組風コント、まだ続いていたんだ…。
マリーさんは有無を言わさず全員のリストを奪い取り、目を瞑って一枚を選び出した。
「どれどれ、誰があったったかな? これは…ペンネーム食楽王さんですねー。原始魔法が欲しいそうですよー。では長道、プレゼントしてください。」
八百長か!
「僕が選びます。その紙をこっちに渡してください。自分で自分の紙を引いたら無効です!」
「えー、長道ケチんぼー。マリー悲しいなー。」
うっさい!
マリーさんの手からみんなが書いた紙を奪い取り、僕は目を瞑って4枚選ぶ。
デルリカ
康子
里美
ビレーヌ
おお!自分で言うのもなんだけどクジ運が神がかっている。
後ろでブツブツ「マリーも欲しいなー。」とかいう声は当然無視。
その後、マリーさんを無視して妹達とビレーヌに、希望の能力を移植したのはいうまでもない。
お読みくださりありがとうございます。




