045 能力移植核
あらすじ
フィリアの地に来たら、全てがクズだった。
報復のため、この街の財源である、魔物や魔王を壊滅させようと心に誓う長道。
大海姫に武器や道具の設計図をもらい、次の戦いに備える。
― 045 能力移植核 ―
教会に着くと、司祭たちのご遺体が安置されており、バケツヘッド子が黙とうをささげていた。
ご遺体はミイラのように干からびていて、昨日今日に殺された訳ではないのがわかる
ここはそこそこ立派な教会だが、信者の姿はない。
盗まれたのか、本来教会にあるべき備品がまったくなく、この街に信仰が無いのがよくわかる。
さびれているという感じなので、横たわる司祭のご遺体が余計に物悲しい。
僕らが近づくとバケツヘッド子は怒りに満ちた表情をする。
「マリアリーゼ様、ここの近隣の者たちは2か月近く前に司祭が殺された事を知ってたようです。それなのに何もせずに気にしていたなかった。司祭が死んだことを良いことに教会の物もかなり盗まれております。このような地にマリユカ様の教会を置く必要があるのでしょうか。」
「バケツヘッド子。それをお決めになるのは神殿です。今は出来ることをいたしましょう。」
ご遺体に近づき、黙とうをささげるマリアお母様。
その横に、三人の影が立っているのが見えた。
そう影である。
人の形をしているが、実態を持たない影。
僕はまさかと思い、影に話しかけた。
「あの、もしかして幽霊さんですか?」
影はちょっと驚くようなしぐさをして静かにうなずく。
同時に女性の声が頭に響く。
『ぴろりろりーん。長道はネクロマンサーの職業を手に入れた。
ネクロマンサーレベルが1になった』
うわ、いつものレベルアップボイスに驚いた。
やめてよ幽霊と話している時にいきなり頭の中で響くの!
ちょっとビクってしちゃったじゃない。
そんな僕にマリアお母様が静かに問いかける。
「長道、アーデル司祭が見えるのですか?」
「ぼーっと影のような感じですが。僕の言葉にうなずいてくれたくらいまでは分かりました。ネクロマンサーの職業が開花したいみたいなんです。」
眉を寄せる。
「ネクロマンサーですか。聖職者方面の職が目覚めてくれると嬉しかったのですが。」
苦笑いするしかなかった。
「僕はすでに魔王持ちですから、暗黒方面のスキルが増えやすいのかもしれません。」
そう僕は魔王だ。
そして今回も魔王を倒しにいかないといけない。
不思議な気分だが、これも運命かもしれない。
「マリアお母様、4~5日ほど出掛けてこようと思います。」
「分身をここに置いていきなさい。そのうえで貴方が無事に帰ってくることを祈っていましょう。」
「はい、やれるだけの事をしてきます。」
僕は分身して教会を出る。
妹達も当然分身をして出てきた。
ビレーヌとタケシ君もいる。
その後ろからヒーリアさんとダグラス団もついてきた。
11人。
魔王討伐するには悪くない数だけど、魔物殲滅には苦労しそうだ。
やっぱり武器をそろえたいな。
「高麗、新しく設計図を手に入れた武器を作りたいけどできそう?80セットほど作りたいけど。」
『素材が足りません。特殊な金属なども使いますし。まずは購入をお勧めします。』
「わかった、必要そうな量の素材の5倍くらい購入しよう。今後も作ることがあるだろうから。量を算出して。」
『はい、ではこちらにメモを用意いたしました。』
<空間収納>からメモが出てくる。
書いてある必要資材は結構な量だ。
ダグラスさんが後ろから僕の肩を叩いく。
「こういう時はギルドだぜ。倍金を出す気があれば今日中に手に入るぞ。」
「なるほど。そういえばこっちのギルドにユカエルさんも来てる筈ですし、頼んでみましょうか。」
僕らは足早にギルドに向かう。
ギルドに入ると、受付に冒険者がたむろっている。
その彼らの先には、ユカエルさんが居た。
モテモテだな。
「ユカエルさーん、お久しぶりー。」
手を振ると、ユカエルさんは花が咲いたような笑顔になり、囲む男たちを突き飛ばして僕の前に来た。
「長道坊っちゃん!やっと来たんだね。コッチは暑いから、ここまで辛くなかったかい?」
男たちは怪訝顔で僕みている。
ギルドのマドンナを奪ったのだから妬まれてもしょうがないかな。
そっとマフラーを出してユカエルさんの首に巻いた。
「これ僕の新作です。ユカエルさんの分だからあげる。」
「うわ、涼しい!これはありがたい。ありがとう長道坊っちゃん。」
頬ずりしてきそうな勢いのユカエルさんを全力でブロックして、メモを差し出す。
「そうだ仕事を頼みたいんです。このメモの資材を至急用意してほしんです。できたら今日中に。お金は割高で構いません。大事なのは今日中に手に入る事ですから。」
「結構な量だね。金貨1200枚くらいかければ明日の朝までに出来ると思うけど。」
「それでお願いします。もしも余計に手に入っても買います。」
冒険者たちがざわめく。
急に来た美味しい仕事だ。
ユカエルさんは真面目な顔になった。
「なにするんだい?」
ニヤリと返す。
「向こうの山の魔物をきれいさっぱり全滅してきます。もちろん魔王も含めて。ですからこの街の魔物素材産業はあと数日で終わります。」
冒険者たちは僕らをバカにした目をしてきた。
なんせ上位の魔物が出る山だ。夢物語に聞こえるだろう。
でもユカエルさんは真剣に僕を見つめる。
「そうかい、長道坊っちゃんがそういうならそうなんだろうよ。だったら私も一緒に行くよ。それは構わないよね。」
返事の代わりに、僕が開発した新しい戦闘装甲服と自在杖を差し出す。
「来るのはご自由に。その時はユカエルさんの武器もそろえておきます。でも、こき使いますからね。あとこれはユカエルさんの装備です。使ってください。」
戦闘服セットを受け取ると嬉しそうに抱きしめて微笑む。
「ああ、まかせてくおくれよ。だったら塩漬けになっている魔王討伐の依頼を受けておこうかい?」
僕は肩をすくめて見せる。
「そのあたりはお任せします。明日の朝までに素材だけお願いします。来る途中でも金貨800000枚ほど儲けていますので、お金はあります。資材が数倍の量になっても構いませんの。大事なのは最低限の量がある事ですので。余計な量が何倍有っても構いません。」
「さすが長道坊っちゃん。冒険者の使い方をわかってるね。それなら連中も張り切るから確実にそろうだろうよ。いそいでクエスト作って張り出すよ。何パーティーが参加してもOKなんだね。」
「もちろんです。」
「じゃあ明日の朝を楽しみにしていておくれ。」
ユカエルさんが受付に消えると、冒険者たちも我先にと受付に並んだ。
僕らはギルドに併設されたレストランに移動する。
そこで、まずダグラス団のクロードさんに今回の武器の設計図を魔法で印刷して渡した。
「念のため渡しておきます。クロードさんの人工精霊にも手伝ってもらって、弾丸の生産用の道具を先に作ってください。」
「これは凄そうだ。わかった、できるだけ明日の朝までに作っておこう。」
僕は、それ以外の設計図を見ながら使えそうなものを探していた。
そして新しく来た設計図の中に、とんでもないものが入っていることを見つけて驚愕する。
今回来たのは物理兵器の設計だけではなく、魔法道具の設計図も入っていたのだ。
『能力移植核』
説明書きが凄かった。
『スキルや魔法を生贄にささげることで、その能力を核に移植することができる。
ポイントは提供者の持ち分を付与することができる。
ただし作成者に<純化魔法>か<原始魔法>がある場合に限り、スキルポイントを0ポイント分で作る事で生贄を必要とせずにコピーすることができる。』
おいおい、これヤバイでしょ。
素材はあった。
・純度80%以上の魔石。
・竜種の鱗。
・封じ込める魔法やスキルに対応した能力を持つ魔物の素材。
・封じ込める魔法やスキルに対応する宝石。
・オリハルコン。
・封じ込めるスキルや魔法を持つ協力者。
試しに素材を出してみた。
そこにユカエルさんがやってくる。
「何やってるんだい、長道坊っちゃん。」
その素材を錬金錬成で適切な素材化をする。
正確な素材の量に切り分けて、それを錬成した。
封じ込めた魔法は『一意多重存在』。
ポイント0で作成する。
それにポイント3を僕のポイントから与えた。
その核を使って指輪を作る。
完成。うわあ、あっけない。
ビレーヌに渡した。
「ビレーヌ、これを君にあげよう。」
顔を真っ赤にして嬉しそうに受け取ってくれた。
「まあ素敵ですわ。わたくしにプレゼントしてくれますの?これって、これってもしかしてプロポー…」
「新しい魔道具だから実験してみて。分身の力を込めてみた。」
ビレーヌ、なに危険なことを言おうとしているんだ。危なかった。
それを指にはめてビレーヌは分身する。
あっというまに8人になった。
「長道様!これは凄まじいモノではないでしょうか!」
一意多重存在を知っているビレーヌは目を見張っている。
「よし成功だね。山の魔物を全滅させるには人手が多い方が良いから、これが役に立つんじゃないかと思ってさ。康子以外には全員分作ろう。」
僕はその場で黙々と『能力移植核』に、<一意多重分身>を込めて作る。
妹達の分と、マリアお母様の分と、ヒーリアさんの分と、ユカエルさんの分と、ダグラス団の分。
ついでにいつか再会した日のためにヘルリユ皇女の分も作るか。
パッパっと作っていると、まわりでほかの冒険者が驚いたような顔で「凄腕の錬成士だ」と驚いている。
ま、僕は凄腕ですけどね。
指輪を人数分作り終わるとメンバーに渡す。
これで錬金錬成士のクロードさんも作業がはかどるだろう。8人で働けるんだから。
魔物討伐もこれで楽になるはず。戦力が8倍だもの。
そうなると、作る武器も増やさなくちゃな。
余った指輪を<空間収納>に仕舞おうとして困った。
あれ、指輪が一個しか余ってないぞ?
マリアお母様の分とヘルリユ皇女の分で二個余るはずなんだけど…
もう一個はどこに行ったんだろう。
指輪を探そうとして周りを見たとき、タケシ君と目があった。
あ、タケシ君を忘れてた。
あぶねえ、今回は余計に作ってたからよかったけど、タケシ君の分だけ無いとかなったら可哀想だもんな。
あっぶねー。
タケシ君は存在感が薄いから、いっつも忘れたちゃうんだよね。気を付けないと。
これからも常に余分に作るように心がけようっと。
気を取り直して準備の計画を立てるのだった。
お読みくださりありがとうございます。




