038 また魔王かよ
あらすじ
デスシール騎馬帝国に入り、オカマの宿に泊まる。
しかし良いオカマに出会う事で、長道は晴れやかな気持ちになるのであった。
― 038 また魔王かよ ―
早朝に出発したが、宿屋のオネエ主人と女将さんは見送ってれた。
「坊やたち、フィリアは活気がある街だけど魔王が攻めてくるかもしれない場所よ。逃げてくるならここに逃げてきなさいね。宿代なんて取らないから、危なくなったら迷わず逃げてくるのよ。」
「ありがとうオネエさん。またこの街に来ることがあったら、必ずこの宿に来ますから。」
僕らが見えなくなるまで手を振ってくれている宿屋夫婦に感謝しつつ出発した。
今回はいい経験ができた。
ホモが悪いんじゃない。僕が出会った純潔騎士団が悪いホモだっただけだ。
そのことに気づかせてくれた宿屋。
ありがと、オネエさん。
空に笑顔のオネエさんを幻視ながら、暑苦しい笑顔に手を振った。
「お兄ちゃん、何していますの?」
「ん?オネエさんの幻覚に手を振ってたんだ。」
有無を言わせずデルリカに氷タオルを押し付けられる。
いや、大丈夫だから。お兄ちゃん、熱射病じゃないから。大丈夫だから。
そんな風に騒ぎながらも馬車は進む。
商業キャラバンは次の街まで一緒だ。
そこで分かれて、僕らだけは「魔王のお隣」ソフィアに向かう。
で、
特に何もなく、あっという間に一週間。
何事もなく街に着き、
何事もなく商業キャラバンとも別れて僕らは街を出た。
ココからは僕らだけ。
ダグラス団とヒーリアさんも、こちらの馬車に乗り換える。
そのかわり、どこから出て来たかマリアお母様のゴーレムが御者と警戒を務める。
ここまでは商業キャラバンも一緒だったので、ゴーレムの使用は控えていたみたい。
御者はエプロン子。
馬車の上にはバケツヘッド子が警戒に当たっている。
ダグラスさん達は馬車の中で伸びをした。
「はあ、馬車は楽でいいや。なんだかんだ言っても騎馬は疲れるからなあ。」
ここかか6日間で目的地に着く予定。
本当はここから二か月以上かかる旅なのだけど、馬車を引く馬型ゴーレムが速いので6日で着く。
こんな速度が出るなら、初めから出したかったけど、村との行き来をしている商業キャラバンを無碍にも出来ずに付き合ったようだ。
まあ急ぐ旅でもないので問題ないけど。
うわー、高速道路に乗った時みたいなスピードで景色が流れる。
ぼーっと外を見ていた。
すると馬車の天井から声がした。
バケツヘッド子だ。
「マリアリーゼ様、この先で軍が待機しております。いかがいたしましょうか?」
「盗賊ですか?」
「いいえ、明らかに正規の軍です。あれが盗賊だったとしたらスカウトしたいくらいです。」
マリアお母様は少し考える。
「バケツヘッド子がそこまで言うという事は精鋭ですね。トラブルを避けるために速度を落としましょう。」
馬車は速度を落とし、そのまま進む。
荒野の一本道なので迂回するという選択肢はない。
10分ほど進むと待機している軍が見えてきた。
大規模だ。
1000人は居る。
しかも精鋭だ。一目でわかるほどの精鋭。
これはただ事ではないな。
軍を目視でとらえたところで馬車を止めた。
デルリカが不満そうだ。
「何で止めますの?突っ込んでいって敵ならば倒しましょう。」
すかさず抱きしめて頭を撫でて落ち着けてみた。
「まあまあ、トラブルは少ない方が良いでしょ。一応いきなり軍を見つけて動揺しているフリをしてから進むんだ。こういう演技も暇つぶしに良いでしょ。演技して遊ぼうね。」
「なるほど、そういう事でしたらワタクシも遊びに付き合いますわ。」
ふう、すっ殺(すぐ殺そうとする)ちゃんを落ち着けることに成功した。
あとはタケシ君でも隣に置いて、立ち上がれないように座席的に端っこに配置しておこう。
「タケシ君、デルリカの手を掴んで甘い言葉をささやいていて。デルリカが暴れないように。」
「え?いきなり私にそんな事をいわれても。」
「頑張って!人命のために」
「は、はい。ガンバります。」
地味で気配が薄いタケシ君だが、ここ一番でのデルリカストッパーとしては優秀だ。
今も手をつないで「デルリカさんは可愛くて一緒に旅ができて幸せです」とか言っている。
言われてデルリカも嬉しそうにモジモジしはじめた。
よし!さすがタケシ君。これで安心して軍との接触ができる。
ゆっくり馬車を進めると、軍から一騎ゆっくりと近づいてきた。
いかにも強そうな馬型ゴーレムに乗った騎士。
騎士と言っても、着ているのは中国の戦国時代みたいな鎧だ。
金属よりも魔物の素材がふんだんに使われている感じ。お値段高そう。
武器は持っていないようだ。
怖くないアピールだろう。
馬車まで来ると、ヘルメットを外した兵士は場所の上のバケツヘッド子に声をかけた。
「我らはデスシール第4皇女親衛隊である。貴殿らの馬車をあらためたい。乗っている者は外に出て身分を明らかにせよ。」
その言葉にマリアお母様が外に出る。
「わたくしはマリユカ神聖教の司教、マリアリーゼ・グラハルと申します。馬車に居るのは我が子達と従者、警備の者達です。これよりフェリスに向かう途中です。そちらはなぜこのような場所に軍を展開されているのでしょうか。」
マリアお母様は杖を掲げる。
杖は水色に輝く。
いつも仕事中は持ち歩いてる杖だけど、なんか意味があるのだろうか。
その杖を見るなり、兵士は慌てて馬を降りた。
「これは失礼いたしました司教様。よくみれば馬車の上に乗っている方は聖騎士様ですね。詳しい話は本陣にて行いたいと思いますので、ご同行願えないでしょうか?」
「承知いたしました。ではご案内をお願いいたします。それと子供たちは馬車に乗せたままでもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。司教様も馬車にてご同行ください。」
僕らの馬車は兵士の先導で進んだ。
あの兵士、マリアお母様が司教だとわかったとたんヘコヘコしだしたな。
やっぱり司教って凄いんだあ。
軍が待機している場所に先導されて進む。
デルリカが「無視して進めばいいのですわ。走り出してくださいませ。」とか言い出してヒヤリとした。
だけどタケシ君が「私は軍の待機を見られて楽しいです。興味深いです。」と言ってくれた。そのおかげでデルリカは「軍も面白ですわね。見物いたしましょう」と意見を翻して機嫌が直る。
ぐっじょぶタケシ君。さすがデルリカストッパー歴2年のベテランだ。頼りになる。
トラブルは避けたいから、大人しくいきたいね。
本陣まで来ると、さすがに全員馬車から降ろされてテントに招かれた。
そこには、長い紫髪の少女が座っていた。
歳は12~13歳くらいだろうか。
僕らはマリアお母様がする礼をまねて一礼。
落ち着いたマリアお母様は、先ほどとと同じように自己紹介をする。
「わたくしはマリユカ神聖教の司教、マリアリーゼ・グラハルと申します。フェリスの街に赴任する途中にてこの道を通りかかった次第です。よろしければこのままお通ししていただきたいのですが。」
マリアお母様の言葉に少女は座ったまま自己紹介をした。
立ち上がらない。それは司教よりも地位は上だという事だ。
「かの高名な『人形司教』こと、マリアリーゼ司教様とここで出会えるとは。我が幸運に感謝してしまいますな。私はデスシール王家、第4皇女ヘルリユ・デスシードです。以後お見知りおきを。」
自己紹介が終わると椅子が用意されて皆座る。
どうやら話が長くなるらしい。
ヘルリユ皇女か。
いきなりのVIP登場にダグラス団とヒ―リアさんは緊張して顔が白くなったが、僕らは変化なし。
何故か王族というモノに緊張しなかった。
平然としているとヘルリユ皇女は僕の顔を見てニヤリとする。
「君たち面白いね。王族と聞いても顔色を変えないとは。どういう教育を受けているのだ?」
僕を見ながら言って来るから、僕が答えるしかないのかな。
「僕らは教会の者です。ただそれだけです。」
余計なことは言わないで、相手に勝手にミスリードを誘う作戦だ。最小限の言葉で誤魔化してみた。
その言葉に嬉しそうに頷く。
「神の前では王家は小さいって事か?まあ、そういう考えもあるな。じゃあ私と対等な友達のように接っしほしいがどうだ?皇女って孤独なのだ。」
「いーよー。」
フランクな皇女だな。おもわず普通に返事をしてしまった。
周りにいる騎士団の人は特に怒り出したりしていない。
ギリギリ大丈夫か。
「じゃあ君の名前を教えてくれ。ふつうの話し方で。」
「いーよー。僕は長道。この兄妹の一番上で13歳だよ。で、この天使のようなブロンドの子が妹のデルリカで11歳。こっちの大きくて熊さんみたいに可愛いのが妹の康子で10歳。そして黒髪の小悪魔的な美少女が末っ子の里美で9歳。こっちの赤毛のビレーヌと、黒髪のタケシ君は僕らの従者ね。」
子供だけ紹介した。
ヘルリユ皇女は嬉しそうにうなずいた。
「つまり長道は私と同い年か。よろしくな。」
「よろしくー。」
ヘルリユ皇女は立ち上がり、マリアお母様の前に来た。
「ところでマリアリーゼ司教。ここからはお願いなのですけど聞いてもらえますか。」
「聞いた後にお断りできないお話でしたら、聞かせないでいただけますと助かります。」
真面目なお顔になる。
「いや、それは大丈夫です。この話はすでに知れ渡っている話ですので。実はこの先で魔王同士が縄張り争いを始めておりまして危険極まりない。そこで今暴れている新参者の魔王の方を討ちとってこの地の安定を図ろうと考えています。お力をお貸しいただけませんか?」
また魔王か…
なんか前も『いーよー』って返事を繰り返すことで魔王と戦う必要がある場所に放り込まれたっけ。
嫌になっちゃうな。
マリアお母様はやんわり微笑む。
「わたくしなぞお力にはなれないかと。戦い事は専門の皆様にお任せいたします。」
「1人で2000体のゴーレムを操れる『人形司教』ことマリアリーゼ司教様は、単身でも軍隊のようなものではないですか。それに回復魔法をつかったり職業ステータスを与えることができますよね。でしたらぜひわが軍にお力をお貸しください。」
するとマリアお母様はサイコロを2つ出した。
「これは神殿の特殊なサイコロです。これを振って10回以内にのゾロ目が出せたら協力いたしましょう。このサイコロは神の賽と呼ばれる特殊な神器となります。もしも神の意思でわたくしが協力すべしと出ましたら、この力をお貸しいたしましょう。」
「10回ですね。だったらゾロめは絶対でるはず。」
そこからヘルリユ皇女は一心不乱にサイコロを振った。
しかし、200回振ってもゾロ目は出なかった。
「何故だ。これはゾロ目が出ない仕組みなんじゃないのですか?じゃあマリアリーゼ司教に協力を申し出ないという条件で10回振ってやる。」
そういって賽を振ると、一回目で1のゾロ目が出た。
「うそ、そんな。」
驚くヘルリユ皇女からサイコロを返してもらうと、マリアお母様はゆったり頭を下げる。
「これにてお答えが出ましたようですので、失礼させていただいて宜しいでしょうか。」
皇女は悔しそうに頷いた。
「いたし方ありません。ですが作戦が終わるまでは危険ですので、この本陣でお待ちください。一か月以内にはケリをつけますので。」
「ではお言葉に甘えて、この地で簡易教会を開きましょう。お困りのことがありましたら皆さま遠慮なくお立ち寄りください。」
簡易教会を開く。
つまり呪いやケガで苦しむ人を助けるという意味だ。
ヘルリユ皇女は言葉の意味を理解し浅く頭を下げた。
「ご譲歩頂きありがとうございます。兵も安心できるでしょう。」
そして僕らは皇女のテントを出て、空いた場所に自分たちのテントを立てる。
なんか面倒なことになったなと、ため息が出そうになった。
でも飲み込む。
幸せは逃がさないよ。
お読みくださりありがとうございます。
次回
長道のモノづくり回




