037 デスシール騎馬帝国
あらすじ
砂漠の強国、デスシール騎馬帝国につく。
しかしデスシールは砂漠というイメージが強いが、じつは領土の7割が草原で、2割が火山帯。砂漠は国境沿いの1割くらいしかない。
― 037 デスシール騎馬帝国 ―
目が覚めたら熱射病は完治していた。
周りは涼しい。
この涼しい風は人工精霊の高麗の力だろうか?
起き上がると、もうマリアお母様は朝ごはんの準備をしていた。
「あら長道、調子はどうですか?」
「おはようございます。もう完全に良くなりました。」
「でしたら安心しました。わたくしは各種の耐性が高いので気温の変化などに疎いかもしれません。長道には悪いことをしました。」
「いえ、僕が間抜けだったんです。でももう高温対策も考えましたから大丈夫です。」
そんな朝の会話をして、朝食ができるまでの時間つぶしに外に出た。
外の空気を捨て深呼吸。人工精霊のデーク南郷の声が脳内に響く。
『気温調整の道具を作った。50個あるから好きに使え。』
<空間収納>から取り出すと、マフラーだった。
だがヒンヤリしている。
『冷房』ではなく『気温調整』という事は、寒ければ温かくなるのかな?
首に巻くと、体全体が涼しくなる。
首元がヒンヤリするだけかと思ったら違ったみたい。本当に気温調整装置だね。
「ありがとう、これをあげればヒーリアさん達も喜ぶとおもう。」
警護の人たちのたまり場に行くと、そのマフラーをヒーリアさんとダグラス団にあげた。
そしてすぐにテントに帰る。
だって朝食の準備ができているはずだから。
マフラーを巻いてテントに着くと朝食の用意ができていて、妹達も席についていた。
僕もそそくさと席に座る。
マリアお母様が手を組んだ。
「では黙とうを」
僕らも手を組んで黙とうをする。
最近はこの黙とうの時間を、神様や大天使さんへのメッセージの時間としているんだ。
今日は大豊姫さんにしよう。
『大豊姫さん、フィリアでも沢山果物が手に入りますように。フィリアは荒地らしいけど、沢山食べ物が育ちますように。』
「では頂きましょう。」
マリアお母様の掛け声で食事が始まる。
そういえばエプロン子やバケツヘッド子はどうなったんだろう?
先に向こうに行ってるのかな。
もぐもぐ。
食事が終わり、テントを撤収。
馬車に乗り込んだ。
昨日と違い馬車の中はヒンヤリしていた。
「高麗かな?冷房ありがとう。」
馬車に乗り込みゆったりする。
これだけ涼しければ熱射病はないな。
実は昨日、僕以外にも何人か熱射病だったらしい。
だからさっき、テントを片付けている時に、全員に温度調節のマフラーを金貨10枚で売ったんだけど…。
せっかっくマフラーを買ったのに馬車の中がこんなに涼しいんじゃ詐欺だな。
…っと思ったけど、お昼には予備や家族のためにと、さらに数本追加買いする人が居た。
途中のトイレ休憩で馬車から降りたら、マフラーがすっごい威力を発揮したためだ。
この人たちもこれからデスシール騎馬帝国で暮らすのだ。
それを思えば今このマフラーを買っておくのは当然かもしれない。
魔法の力が付与されたマフラーが金貨10枚なら、安すぎる買い物だし。
そのあたりは商人の家族だから分かるんだろうな。
などと思っていたら、商人キャラバンからも「余分があったら売って欲しい」と言ってきた。
面倒だから金貨20枚と吹っ掛けたら、その値で買われてしまった…
まあ、お小遣いができたからいいか。
さらに数日馬車に揺られて、僕らはデスシール騎馬帝国の表門に着いた。
僕はその大きな門を見て感嘆の声を上げる。
「すごいー。ここが国境の町『デスゲート』か。なんでこんな門が大きいいんだ?凄いなあ。」
街の壁は高く分厚い。40メートルはあるだろうか。
その壁が街を丸々と囲っている。
凄い労力だ。
ただデカいというだけで、ここまで人は感動するものなんだな。
めちゃくちゃ見上げて楽しんだ。
ここからがデスシール騎馬帝国。
砂漠と草原の強国デスシールか。
怖い人が居ないか心配になる。
絡まれたりしないようにと祈る小心者な僕だった。
デルリカも興奮気味だ。
「お兄ちゃん、このような大きな門をどのように作ったのでしょうね。」
「僕もそれを考えていたんだ。きっと大魔導士でもいたんだろうなあ。」
一時間ほど門の前で並んだが飽きなかった。
壁がでっかいんだもん。ずっと眺めてしまった。
眺めながら、自分ならどのくらいで作れるか考えたりしながら。
気が付くと入門の番が来ていた。
門はあっさりと通ることができて、少し拍子抜け。
商人キャラバンと一緒に来たからかな。
入国税を払って門を通ると、異世界が広がっていた。
今まで森に囲まれて生活していたけど、ここは乾燥した世界。
アメリカの西部開拓地みたいな感じ。
本当の砂漠ではないけど、荒野という感じだ。
荒野の上に街が出来上がっている。
デスシールは砂漠というイメージがあったけど、街はこういう地盤がしっかりした場所に作られるのだね。
街並みを眺めていると、スマ子が現れて里美に語り掛ける。
『里美ちゃん、知ってた?デスシールって砂漠の国みたいに言われてるでしょ。でもデスシールの7割は草原なんよ。2割は火山帯。砂漠は国境沿いの1割だけなんよ。他国から来た人は、この最初の砂漠のインパクトでデスシールを砂漠の国と語ることが多いわけよ。風評被害マジぱないっしょ。』
そっか、砂漠は最初だけか。
そこに康子が補足を入れる。
「あと、他国が攻め込んだときに砂漠を抜けて攻め込めた国が少ないのも原因らしいですよ。どの国も砂漠で軍を引き返さざる得ない状態になるんで、教科書では砂漠の国って書かれているらしいですね。」
さすが康子、よく勉強している。
うちで一番お努力家だ。さすが康子!流石我が妹!
っていうことは、砂漠の光景を見ることができるのは今だけか。
馬車の中から街並みを見た。
砂漠を見よと思ったけど、それ以外のモノが面白い。
何というか、亜人種が多い。
エルフや獣人とか。
面白いなあ。
妹達も目を輝かせて外を眺めた。
これがデスシール騎馬帝国か。
少し胸が躍った。
ただ、女性の衣服はヘルウェイの村よりも厚着な感じがする。
昼間の暑さよりも、夜の寒さに備えているのかもしれない。
馬車の中から道を眺めているだけで楽しい。
パカポ
パカポ
でも、ちょっと馬車から降りたいなあ。
ちょっとでいいから探索したいなあ。
パカポ
パカポ
「マリアお母様、ちょっと馬車から降りたいんですけどダメですか?」
「ダメです。宿屋まで我慢しなさいね。」
ううう、宿屋に早く着かないかな。
あ、ケバブ売ってる!
しかもソースが白色だ!
くううう買いに行きたい。
宿屋に着いたら、速攻で買いに行くぞ。
それから20分程して宿屋に着いた。
「よっしゃ、ケバブ買いに行ってきます!」
「お待ちなさい長道。」
漫画みたいに後ろ襟をつかまれて、僕は首が閉まって動きを止めた。
「グハ!なんですかマリアお母様。急いでケバブを買いに行きたいのに。」
「今日はこのまま宿ですぐに寝て、明日早朝に出発します。宿に入りますよ。」
そんな殺生なあ。
「ちょっとケバブを買いに行くだけですから。ね、良いでしょ。」
「ダメです。」
「どうしても?」
「どうしてもです。それにこのあたりはホモも多いのですよ。」
「…宿で大人しくします。」
「それで結構。」
くそ、ホモさえいなければ。ホモさえいなければ…
諦めて宿に入ると。
「あーらいらっしゃい。まあ可愛いお子様たち。もう食べちゃいたいくらい可愛いわね。オネエさん、サービスしちゃうわよ。」
おっさんが、くねくねしながら現れた。
髭剃り跡が目立つ、ガタイの良いオカマ!
ビクッ!
体が硬直した。
逃げなきゃ。
急いで<純化魔法>で異次元に逃げようとしたら、奥から小柄な女性が出てきた。
「あんた!怖がられてるじゃないの。あんたは気持ち悪いんだから子供に近づいちゃだめだろ!」
小柄な女性は、おばちゃん的なノリでオカマのおじさんを叩き、そのまま僕の頭をなでる。
「ごめんね、うちの亭主は気持ち悪いから怖かったでしょ。あれでも優しいオカマで怖くないから大丈夫だよ。」
亭主?
「あの、あのオネエの人はホモではないんですか?」
「そんなことを心配してたのかい。男もいける人だけど大丈夫だから安心しな。」
両刀使いってやつか。
「それって、安心できないんですけど。」
すると、宿屋のおかみさんはカラカラ笑う。
「街の中に女を襲う強姦魔はどのくらいいる?そんなの男の中でも一部だろ。ホモだって無理やりやりにくるのは一部だよ。大事なのはその人の人間性さ。少なくてもウチの亭主はお客に手を出すような恥知らずじゃないから安心しな。」
それを聞いて、目から鱗が落ちる想いだった。
不埒なホモの方が少ないのか…
「なるほど。たしかにそうかも。ホモの人がすべて酷いわけじゃないんですね。そっか、良いホモもいるのか。なるほどなるほど。」
僕が納得したところで、マリアお母様が宿泊の手続きをしてくれる。
そこで、いつの間にかいなくなっていた、オネエの宿主が外から帰ってきた。
「坊や、コレ欲しかったんでしょ。子供が1人で出かけるのは危ないからオネエさんが買ってきてあげたわよ。」
その手にはいくつもケバブがあった。
「ケ、ケバブ!僕のソウルフード!ありがとう…えっと、オネエさん。」
手からケバブを受け取ると即かぶりつく。
白いソースがかかってる。オネエさん、わかってるじゃないか。
ケチャップやチリソースがかかっていたら、ガッカリ感で泣くところだった。
「美味しい!これこそケバブ!このニンニク風味のソースこそ正義!」
たまらん!
このケバブ感がたまらん!
これこそ我が心の故郷、秋葉原の味だ!
マリアお母様がお礼を言いながらケバブ代を払っている。
そっか、デスシールはケバブがある国なんだ。
デスシール、好きかも。
デルリカもケバブをもらって食べているけど、口の周りを油とソースでギトギトにしながら食べている。
しかもボロボロこぼしているし。
デルリカ可愛いな。
横で見ているオネエさんが僕を見ながら感心してた。
「坊やはケバブを上手に食べるのね。慣れない人はボロボロこぼしながら食べるのに。全然こぼさないし、口の周りもきれいなままなのね。」
軽く胸を張った。
「僕の大好物ですから。毎週食べてましたし。」
「まあ、あなたの街でもケバブがあったの?」
そう言われて考えた。
あれ?ヘルウェイ村にはケバブ屋なんてなかったよな。
秋葉原で、、、
そうだ、これは僕の日本での記憶だ。
気づいて里美を見た。
口の周りを肉の油でギトギトにした里美が、黙ってうなずく。
そうか、ケバブがきっかけで、また少し思い出したんだ。
オネエさんを適当に誤魔化して、僕らは部屋に入る。
僕ら家族で一部屋。
妹達とまとめてお風呂にいれられた後、お茶を飲んでくつろぎタイムに突入。
里美が嬉しそうに隣に座ってきた。
「お兄ちゃん、また少し記憶が戻ったんじゃない?お兄ちゃんは日本の秋葉原でケバブ食べるのが大好きだったんだよ。」
「やっぱりそうなんだ。あまりにさりげなく記憶が戻ったんで気づくのに時間がかかっちゃったよ。」
デルリカが興味深そうにしている。
「お兄ちゃん、秋葉原ってどんなところですの?」
「そうだな、パソコンとアニメと同人誌とアイドルとメイドの街かな。男がショッピングを楽しむ街だよ。」
「アニメ!魔法少女もありますの?」
「もちろん。魔法少女の格好をした女性もたくさん居る街さ。」
あれまあ、デルリカさん。ぽやーんとした表情になった。
「パラダイスですわ。そしてお腹がすいたらケバブを食べるのですね。」
「そのとおり。デルリカは理解が早いな。」
なんかデルリカの中で秋葉原は、アニメと魔法少女の似合うメルヘンで可愛い街をイメージしている気がする。
そんな僕らに康子が優しくお茶を持ってきえくれた。
秋葉原は絶対デルリカが思っているような場所じゃないけど、それをあえて教えない康子と里美は優しいね。
そんな話をしたせいだろうか。
その日はぐっすり眠ったけど夢を見た。
夢の中で秋葉原を探索しながら、魔法少女コスプレを買って、里美がセンターを務めるアイドルライブを見にいく夢を。
お読みくださりありがとうございます。
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長道vs第4王女




