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小人話

「っぶしゅ!えっしゅっ!ふぇっしゅ!…んあ゛あ…」


 くしゃみ。

 それも三回。どうも僕はくしゃみが多発する体質らしい。


 寒さにも弱いけれど、さっき部屋の掃除したからなァ…。埃が舞って、くしゃみを呼び起こしたのだろう。


「あ゛ー」


 喉を慣らして、ティッシュを求める。


「帰った」

「あ゛ー、お帰り、水瀬くん…」


「うん…って、汚いな。早く鼻水拭けよ」

「わかってるって」


 水瀬くん。

 地毛の茶髪と、バチバチにピアスをした容姿が特徴的な、同室の青年。


「…?ねえ、水瀬くん。ここにティッシュ箱あったと思うんだけど」

「そうだろうよ」


 手を洗いながら水瀬くんが返事する。


「ないんだけど」

「知らねーよ。空になって捨てたんじゃねーの?お前が」


 えぇー?僕?

 …ま、いっか。


 新しいティッシュを出すのは後にして、とりあえずポケットに入れてあったポケットティッシュで鼻を拭く。

 エチケットだからね、ティッシュとハンカチは常備してますよ。


 さて、すっきりしたので、新しいティッシュ箱出すかー。

 えーっと、こっちの棚に…。


 ガラ。


「…?」

「ふー、寒っ。この部屋寒すぎ…」


「ねえ、水瀬くん。ティッシュの買い置きないんだけど」

「…?そんなわけないだろ」


「「…?」」


 棚を見て、ふたりで首を傾げる。


「…んなわけなくないか。こないだ日用品買った時ティッシュもちゃんと買ったし」

「…ンー…?」


 僕と水瀬くんは同じ大学の寮に住んでいる。

 二人で使う共同のものを買う時は、たいてい一緒に行っている。


 だから、こないだティッシュを買ったという情報も確かなものだ。


「…あ」

「どうしたの、水瀬くん」


「…見ろよ、総」


 僕を呼び、棚の隅を指をさす水瀬くん。


「…あ」


 思わず同じリアクションをしてしまう。

 そこには——小人がいた。


 赤色の服を着て、荷物袋を背負いこんだ、まるでサンタクロースのような小人だった。


「「…」」


 僕らは沈黙する。


「…なァ、総。僕は夢でも見てるのか」

「…頬つねってみたら?」


 小人は、見つかったことに気づき、驚いた。


「…やァ。君、日本語話せるかい」


 コイツ小人に話しかけやがった…!


「…小人の耳だとさ、すごい騒音だったりするのかな、僕らの話し声」

「知らんよ。…やァ、初めまして。英語も対応可だぜ。服装的にアメリカ人かもなァー?」


「顔つきや髪色的に、日本人だと思うけど」


 小人は意を決したように、僕らに話しかける。


[こんにちは]

「うぉー、声でかい」


「普通の音量じゃないか」

「バカを言え。小人だぞ。僕らと同じくらいの音量ってことは、すげぇ声張ってるに決まってるだろ」


[あの…?]


「あー、すまんすまん。君は日本人かい?あー、日本人ってわかる?」

[ええ、わかります。僕は混血児です]


「混血児?」

[アメリカ人と日本人との。生まれも育ちも日本ですけど]


「アメリカ人ってのは半分あたりだな」


 嬉しそうに水瀬くんが言う。


「君がティッシュ泥棒かい?」

[泥棒と言われるとあれなんですけど]


「あー、そっか。ごめんな、泥棒呼ばわりは違うな」


 水瀬くんが謝罪する。

 僕らも地球の岩を掘って、宝石を勝手にとったりしている。


 それとこの小人は、何ら変わらない。


「君は自分たち種族のことはなんと称しているのかい?」

[フラッピエンスです]


「フラッピエンス。聞き馴染みないな。フラッピー…羽ばたく、的な感じかな」

「意味なんてないだろ。僕らが『人間』って適当に言ってるのと同じだ。しかし、『エンス』は偶然だろうけど、ホモ・サピエンスに近しいものを感じるな」


 僕の呟きに、水瀬くんがそう返事をする。


「オーケー、ありがとう。僕らのことはなんて言ってるのかな」

[イエス・ヒューマンです。イエス・ヒューマンと呼んでいます]


「「…」」


 なんて言えばいいか、僕らは返事に困った。


「あー…本題に入ろう、水瀬くん。…君はさ、なんで大量のティッシュをとったわけ」

[はあ…理由、ですか。そうですねぇ。最近、フラッピエンスでは、ティッシュを使った利益が多いんですよ]


「利益?」

[はい]


 小人は頷く。


[使えるものは多いんですけど、主にするのは服ですね。生地がよくて、若い女の子たちに人気なんです]


 ピピィ。

 その時、微かに音が鳴った。


[あ、すみません。この時計の音ですね。業務終了を知らせてくれる時計なんです]


 小人は自分の腕についているものを、指さして言った。


「…小人くん」


 それを聞いた水瀬が嬉しそうに言う。


「好きにティッシュとかとってっていいからさ、時計譲ってよ」

[…?構いませんけど]


 小人は腕から時計を外し、水瀬に渡す。


「えぇ…水瀬くん、何言ってんの?」

「総。小人がいた、なんて大学で言っても『はァー?何言っちゃってるんですゥ?なんかキメました?』って言われるのがオチだ」


「そんなうざい感じでは言われないだろ」

「でも気になってしょうがないだろ、小人の科学技術!顕微鏡使って調べよう」


 夏休み前の小学生みたいに、ワクワクしながら水瀬くんは言う。


「それじゃあ、小人くん。ありがとう。アディオス!」


 グッドサインを作り、ウインクをして水瀬くんは言う。


[いえいえ。それでは、アディオス]


 小人も、グッドサインを作る。

 表情は小さくてよく見えなかったけれど、たぶんウインクもしていたことだろう。


 …小人って、ノリいい種族なんだな…。


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