凋落の地下遺跡5
その後もゲイザー&オークの数を減らしていく。ひたすら動き、攻撃を重ねつつスキル術式を刻む。
「はい、ここでソロで多数の魔物と戦う場合のコツを解説しておきます!」
多少余裕の出たタイミングで精霊さんに向けて言った。
「よくソロ側不利と言われますし基本その通りなのですが! 工夫次第で十分に渡り合うことがます!」
解説しながらも数体の目玉オバケが光弾を撃とうとしているのを視界の隅に捉え
る。
「例えば敵方は同士討ちの可能性に注意を払わなければなりません! ですのでこの通り――」
櫂杖を振るいながら移動、ゲイザーの射線をオークの巨体で遮ってやる。
「――はい、これでゲイザーはうかつに撃てませんね! 戦闘中、頭の中で彼我の位置関係を俯瞰したイメージ図をリアルタイム更新すれば簡単にできます! ……はいさぁっ!!」
横薙ぎに渾身のフルスイング、木製の杖がオークの腰にめり込む。骨がきしむ手応え。オークの悲鳴。
木製武器の威力を舐めてはいけない。武器・俺ともに術式で強化されているのもあるが、仮に素のままでも凶器たり得るポテンシャルを秘めているのだ。
例えば達人の振るう木刀は真剣と変わらぬ殺傷力を秘めている。中世期日本における剣の死合で幾人の剣客の命が木刀に吸われてきたことか。幕末期には竹刀の突きが相手の装着する鉄面を突き破った事例も残されている。
ましてや俺が手にしているのは櫂(のような杖)。かの宮本武蔵が巌流島決闘に得物として選んだ決戦兵器やぞ。諸人よ、木を畏れ崇めよ。
『GAAAAAAッ!!』
手痛い一撃をもらったオークがムキになって金属製の戦鎚を振り回す。
が、はずみですぐそばにいた別のオークに直撃。俺を無視し、味方同士で罵るように吠え声を上げ合うオーク。巨体が邪魔になり、背後のゲイザーたちが攻撃できずにいることにはまったく気づいていない。
多罰多責野郎が騒ぐせいで真っ当な奴が割を食うこの構図、いやぁ敵側で繰り広げられるのを見る分には白飯茶碗三杯はいけるなぁっ!!(※外道の感想です)
しかたなく、といった風にゲイザーは連携を諦める。それぞれ左右に散ってバラバラに光弾を放ってくる。なかには皮膚部分から生える触手を伸ばしてくる個体もい
た。
俺は後方へ飛び退きつつ回避、そのまま魔物の群れから距離を取る。そうはさせじとオーク&ゲイザーは追いかけてくる。
「同時にここがソロのいいところ! 味方を一切気にせず遠慮なく範囲攻撃をぶっ放せます! ……〈ファイアストーム〉!!」
迫る群れにパドルロッドを突きつけ、すでに準備を完了させていたスキルを発動。
先端から放たれる赤色の光球、それが群れの中心部ではじける――瞬間、紅蓮が膨れて渦を巻く!
灼熱の炎が嵐のごとく通路内で荒れ狂い魔物たちを容赦なく焼き払う。逆巻く熱波が石造りに空間を駆け抜け、俺の肌を撫でる。
通路は広いとはいえそれでも逃げ場のないほどに炎は充満する。巻き込まれたゲイザーたちは瞬時に消し炭、オークたちも耐えきれず一体、また一体と倒れ伏す。
炎が収まり、残っていたのは範囲外のゲイザーと虫の息なオークが一体ずつ。もちろん手心は加えない。余熱のくすぶる通路へ駆け出し、まずはオークへ杖を振るう。
巨体を床に沈めるのと同時に、ゲイザーがこちらに背を向け飛び去るのに気づい
た。
逃げる? ……いや、妙だ。
たいていの魔物は好戦的であり、生命の危機よりも戦闘を優先する傾向にある。そういう風にダンジョンが設定したから、ではない。元々住んでいた異世界での生態からしてそうであったらしい。
ふらふらと飛ぶゲイザー。その先には通路にぽつんと置かれた宝箱がある。罠の臭いがぷんぷん漂っている不自然な配置の。
そしてゲイザーは探知能力と知能が高い――そういうことか!
背筋に直感が走った瞬間、宝箱手前に魔術障壁が展開、その手前側に術式回路が出現する。
……あいつわざと罠に引っかかったなっ!!
おそらく付近に目視できないマナの"糸"が張られていたのだろう。それを一か八かの死なばもろとも精神で起動させるとは。
まったく、いい根性してやがるぜっ!!
「罠! おそらく射撃系! 遮蔽物なし! 凌ぎます!」
リスナー向けに手短な状況説明をし、速攻で術式を刻む。
直後、術式回路から無数の光弾が乱射された。
「〈パリィ〉ッ!!」
断続的な発射音とともに迫る色とりどりの魔術弾、その一発目が命中する寸前に防御スキルを発動。
杖を短く振り抜き先端の平部分で打ち返す。まだ飛んでくる。すばやく切り返しさらに弾く。
スキル使用のため構築する術式は発動することで崩れてしまう(常時自動発動系は自動修復術式があらかじめ組み込まれている)。そのため使用するたび改めて刻み直す必要がある。
これは〈パリィ〉も例外ではない。一度攻撃を弾けば術式が崩れるため、立て続けに弾くことは不可能――というのは通常の話だ。
"弾く力がもっとも強い術式の中心部で相手攻撃を正確に捉えれば"、術式の損耗は最小限に留まる。
つまり上手くやれば連続で防ぐことが可能! あとは損耗した術式を逐一修復してやれば完璧!
雪崩のごとく襲い来る弾幕をひたすらに凌ぎ続ける。一見凄まじい量だが俺に命中する分は全体のごく一部、冷静に見切ればやって出来ないことではない!
「……っらぁ!!」
最後の一発を弾く。騒乱の過ぎ去った石造りの通路に静寂が戻る。
見れば、ゲイザーがふらふらとこちらに向かっている。奇跡か実力か、あの弾幕を生き延びたらしい。最後の力を振り絞るように触手を伸ばしてきた。
「……大した奴だったぜ」
そうつぶやき、パドルロッドを振るって介錯する。
戦闘終了である。
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