表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/11

凋落の地下遺跡6

            ―― 弧月アルテSIDE ――


(……凄いものだわ)


 オーク&ゲイザーたちとの戦闘を見て私はそう確信した。


 そもそもの大前提として一般的な探索者は戦闘を避けながら進むのが基本だ。


 その割合はおおよそ五割ほど。つまり、魔物を発見したらその半分は逃げるか遠回りを選択する。


 相手取る場合はたいてい明確にこちら有利であるか、もしくは戦闘が避けられない状況であるかのどちらかだ。


 ようはそれだけ魔物が手強いのである。


 "弱い"とされる小鬼(ゴブリン)の群れへ勇み足で近づき袋叩きにされる初心者、"ザコの代名詞"とされるブルースライムへの警戒を怠った隙に顔面へ張りつかれ窒息死させられる初心者など掃いて捨てるほどいる。中級者にもそれなりの割合でいる。


 たいていの探索者たちはそれに懲りて以後、魔物相手に油断せず全力で挑むようになる。


 必然、一戦闘ごとの消耗も激しくなる。


 戦うたびに値の張る回復薬(ヒールポーション)魔力薬(マナポーション)が失われていく。それだけ出費もかさむ。下手を打てば戦利品(ドロップ)の売却で得られる金額を上回りもする。


 加えてダンジョンでは死亡した際、復活時に費用がかかる。


 ダンジョン挑戦時に徴収される手数料である程度まかなわれるとはいえかなりの金額だ。仮に払えなければ一定期間、能力大幅ダウンのペナルティを与えられる。


 そもそも、いくら生き返れるし怪我も治るとはいえ痛いものは痛い。まともな感性の持ち主であれば"戦いが怖い"と感じるのは当然である。



 そのうちみんな必然的に気づくのだ。『戦闘ってしない方がよくない?』と。



 戦闘主体(ハック&スラッシュ)ゲームのような光景は実際のダンジョンでは滅多に見られない。それを行うのは『ドロップを稼ぐつもりで事前に準備している者』か『高い実力を持った上級者』かに二分されると言っていい。


 堂崎大地(どうざきだいち)氏は明らかに後者であった。わざわざ多数相手に戦闘を挑むなど(戦闘狂という言葉は辛うじて飲み込むとして)腕前に相当な自信がなければできないことである。


 その戦闘能力は一級品。これは単にステータスが高いというだけの話ではない。戦闘センスがもう抜群に優れているのだ。


 あの乱戦のさなか『魔物の位置関係をリアルタイムで把握すれば簡単』と解説していたが、それを簡単と言ってのける時点で並ではない(事実本人に目を通す暇がなかっただけで、コメント欄は総ツッコミであった)。


 あれだけ互いが激しく入り乱れるなかでそれを正確に行うのは容易ではない。高い空間認識能力が必須となる。決して一朝一夕で身につく技術などではなかった。


 スキル発動速度は言うまでもなし。それどころかおそらく〈ファイアストーム〉は戦いながら準備していたのだろう。戦闘と術式構築をマルチタスクでこなすなど相当な手練れでなければできないことである。


 なにより最後の〈パリィ〉連続使用による弾幕罠の回避。はっきり言って神業だ。私たち(・・)ですらあそこまで完璧に切り抜けられるかどうか自信がない。


 これらを特別強力な効果が付与されていない市販の装備でこなしている。


 悪い性能ではないが宝箱(トレジャー)から得られるものや魔物の素材(ドロップ)から作られるものに比べれば平凡なものだ。大した補正のない、ほとんど素の実力だけであれをやってのけたと言うことだ。


 もはや間違いない。彼は本物の実力者である。"雷霆(らいてい)座主(ざしゅ)"討伐も凄いが、その話題性だけで終わる人物では決してない。正直、尊敬と対抗心を混ぜたような高揚を覚えているくらいだ。


 ……少し気になるのがこの戦闘の前に話していた『術式を浅い・深い位置で刻む』という内容である。


 私にも心当たりがない話である。単なる個人の独自感覚であろうか?


 それとも、そこになにか秘密が――


 ……いま考えてもしかたないか。


 私は思考を打ち切る。スマホ画面には彼が戦闘で得た戦利品ドロップを回収し終えた場面が映し出されているところだ。


 私はペットボトルの水をひとくち含み、視聴に意識を切り替えた。






 戦闘後、魔物たちが残したドロップを回収した。


 ちなみに探索者は大きなカバンを持ち歩く必要がない。最初に使用可能となるスキル〈ストレージ〉によって、異空間に荷物を納めることができるためだ(技量を上げることによって容量が増える)。


 回収しながらリスナーたちのコメントに目を通す。なにしろ戦闘中はそちらに視線を移す暇がなかった。


「――まとめますと、飛んでくる攻撃を武器に刻まれた術式の中心部で正確に捉えつつリアルタイムで術式の修復を行えばできます。要練習ですね」


 特に多く寄せられた『なんで〈パリィ〉を連続で使えたの?』という点について解説をした。



コメント

・できるか!!!!!!

・サラッと達人技要求するのやめーや

・「金メダル? 練習すればいつか取れます」並の解説

・理屈は聞いたことあるから前に試したことがある、シンプルに無理ゲーだった

・狙って一回成功させられるだけでもおかしい

・あの罠を被弾ゼロはもはや人類のバグだろ

・〈魔力吸収攻撃(アブソーブアタック)〉解説の段階でこんな回答がくることは分かっていた。あっちの時点で大概だったからな

・だからそれを実践するためにはどうすればいいのかって話をだな

・具体的に術式の中心で攻撃弾くためのコツとかあるんですか?



「コツですか……」


 これは困った。


 知識なら言葉にできる。基礎的な戦闘動作も道場などで教わったことを伝えればいい。


 だが多くの技術は実戦のなかで感覚を鍛えてきたものだ。いわば独学である。うまく言語化できるものもあれば、どうにも難しいものもある。


 ましてや〈パリィ〉は瞬間的な判断が必要だ。じっくり思考を整えているヒマなどない。研ぎ澄ました感覚にゆだねることがもっとも確実なのである。


 ……が、さすがにこの要求の数を無視する訳にもいかない。なんとかがんばって期待に応えてみよう。



「……そうですね。まず何度も武器を素振りして意識しなくても術式中心部の位置を感覚で掴めるようになってください。何度もやっていればそのうち体が覚えます。


 そして何度も戦闘を繰り返して敵の攻撃を瞬時に見切る感覚を掴んでください。攻撃を何度も受けていればそのうち分かってきます。


 最後に何度も練習して目で確認しなくても攻撃を中心部で弾き返せるよう感覚を掴んでください。数をこなせばそのうちなんとかなります。


 これら感覚を掴むためにも毎日ダンジョンに潜って練習しましょう。そうすればそのうちコツを掴めます」



コメント

・君にはガッカリだよ

・ごめん。俺らが悪かったな

・無理言ってすまなかった

・もういい、もういいんだ

・よくがんばった、それだけで十分価値があるよ

・もう無理するな

・ごめんな

・今夜はゆっくり休めよ



「なんでみんな急に優しくなるんですかねぇ!?」



コメント

・オメェの解説が酷すぎるからだよァアンッ!?

・文句言う前にもっとマシな解説しろやゴラァッ!!

・この妖怪ダンジョン小僧めが!!!!

・「何度もやって覚えろ」しか言ってねえw

・ちょい前の術式の浅い深いの話はまだマシな部類だったんだな……



「じゃあアレですよっ!! ダンジョンにスッと立って攻撃を骨で捕まえに行って自分の認知を超えるんですっ!! ……てかさっきリザードマンの具体的解説したらしたで文句言われてんですけど俺はどうすりゃいいんですかねぇ!!」



コメント

・まず適度って感覚掴んでこいw

・駄目だ、こいつ常人の感覚持ってねえw

・こいつの生態そのものが面白コンテンツ

・凸部分と凹部分の差よw

・確かな実力、豊富な知識、狂った情熱、信用ならん感性を兼ね備えた傑物

・色んな意味で目が離せない



 なんかめっちゃボロクソ言われてる。


 ……まあでも(不本意ながら)配信の雰囲気は悪くない。空気がほぐれてきているおかげでこちらもやりやすい。


 それに高評価数も三〇〇〇に届いた。快挙と言っていい数字である。この調子を維持しつつ、気を引き締めてがんばろう。


「それよりもみなさん、お忘れではないですよね? 安全も確保したところでお楽しみの宝箱(トレジャー)確認しましょう!」

お読みいただきありがとうございます。

『面白い』『続きが気になる』と思われた方は下部からブックマークおよびポイント評価(☆マーク)をお願いいたします。

執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ