不可能が破られた日
――現役女子高生迷宮配信者(登録者数五〇万人)"弧月アルテ"SIDE――
「――はいみなさーん、迷宮守前に到着しましたよー。ここ抜ければ『藍晶の洞窟』はクリアですね」
コメント
・二時間切ってるやん
・速いw
・ソロとは思えん
・能力ダウンした状態でこれか
・恐ろしい子……!
・さすアル
・すげえよアルは
・かわいい
・かわいい
私こと弧月アルテがカメラ代わりの精霊さんに向かって言うと、空中に投影されたリスナーコメントがずらずらと流れていく。
同接人数は先ほど一万人を突破。我ながらかなりの盛況ぶりである。むしろ本来の実力をお見せできていないのが申し訳ないとさえ思う。
そうそう、説明がまだだった。
私は魔物がひしめくダンジョンへ潜り内部のお宝を回収する『ダンジョン探索者』にして、その様子を動画配信する『ダンジョン配信者』である。弧月アルテという名前も配信用のものだ。
で、ダンジョン内では電波が遮断されてしまう。スマホでは録画はともかく、ライブ配信は不可能。
だからライブ配信には精霊さん(見た目は宙に浮く光球だ)の力を借りる必要がある。手が塞がらないし、むしろスマホよりも都合がいい。
「通路の先にある大広間にはボスが待ち受けている訳ですけど。知らないリスナーさん向けに事前説明をしておこうと思います」
あちこちから青い水晶が生えた通路の先を指しながら言う。
「結論から言うと、ここのボス"雷霆の座主"は絶対に倒せません」
コメント
・うん
・な、なんだってー
・知ってる
・有名だしね
・害悪水晶ゴーレムゆるさん
絶対に倒せない。
これは単に強いとか堅いという話ではない。そもそも討ち滅ぼすことのできない存在である、という意味だ。
ダンジョン用語では『敵性障害物』と呼ばれている。
剣だろうが炎だろうが、あらゆる攻撃が通用しない。
倒す以前に傷をつけることすら不可能。
敵というよりも探索者を排除するために配置された機構。
そういう存在なのである。
ではどのように攻略するのかと言うと――
「ボスは広間全体を見渡せる高所に陣取り、視界に入った探索者に向けて雷を落としてきます。だからそれを避けながら奥の帰還の間にたどり着け、って趣旨なのです」
コメント
・変則的なボスだよな
・ギミックエリアのボス版て感じ
・※なおあちこち生えてる黄色い水晶も奴の視界代わりとなります
・※なお地上にも空中にもザコ敵が普通にいます
・本当に倒せないんかな
・アルテちゃんならワンチャン
・行こうぜ
・ダンジョンなら死んでも生き返れるからへーきへーき
・きみなら行ける!
・やろうず
なんかリスナーのノリが挑戦する方向に流れている。
「しないからね! 前フリとかでもありませんからね!」
まあ単なる冗談だろうが念のため断りを入れておく。
そもそも"藍晶の洞窟"を攻略しているはリハビリの一環なのだ。
少し前に不覚にも"総戦闘力ダウンの呪い"を食らってしまった結果、現在の私は本来の実力を発揮できない状態にある。
呪いが解けるまでダンジョン探索を控えるべきかとも考えたが、それでは勘が鈍ってしまう。別に動けない訳ではないのでそれは避けたい。
かといって普段挑んでいる上級者向けダンジョンはさすがに荷が重い。
という訳で中級者向けダンジョンを選んで攻略しているのだ。実戦経験を途切れさせないのが主目的であり、倒せない強敵挑戦への準備も覚悟もまるで足りていない。
それに"雷霆の座主"の討伐検証動画ならネットに何本も上がっている。
なんなら普段パーティーを組んでいる仲間に検証参加者がいる。
いずれもまったく歯が立っていなかった。
凄腕探索者パーティーによる遠距離高威力術技の一斉射を前にしても"雷霆の座主"はかすり傷ひとつ負わない。
ならば近接攻撃で、と隙をついて高台へ登った探索者たちはもれなく全方位無差別放電で返り討ちに。生き残りが捨て身で一太刀浴びせても無駄であった。
いくら試行錯誤を繰り返しても結局は"不可能"というシンプルな答えで退けられる――それが、私が確認したすべての検証における結末であった。
「とにかく、私は普通に隠れながら進んで行きます。じゃ、さっそくゴー」
そう言って私はボスの待つ広間へと抜けた。
「見えますか? あそこにいる巨人、……?」
高台を見上げてすぐ異変に気づいた。
身長十メートル強の青い水晶人形――"雷霆の座主"。
その左腕が砕けていた。
傷を負っているのだ。
あり得ない。
倒すどころかダメージさえ絶対に与えられないはず。それは数々の挑戦が実証している。
だというのに。
視界の向こうにいる"雷霆の座主"の左腕は破壊されている。断面からは魔物が"出血"している証拠である赤紫の煙がくすぶっている。よく見れば身体にもあちこちにヒビが走っていた。
いったいなにが――呆然とする私の耳に、
『――〈インフェルノ・バンカー〉ァァァァァァ――――――ッ!!』
知らぬ男性の叫びが届いた。
直後、視界の端から赤い閃光が走る。
炎の杭だった。
高速で撃ち出された杭が射線上の飛行型魔物を次々巻き添えにしつつ"雷霆の座主"へまっすぐ伸び、青い巨体の胸へ深々と突き刺さる。
次の瞬間、耳をつんざく轟音とともに大爆発。
紅蓮の炎が巨人の内部で膨れ上がり胴体を真っ二つに引き裂く。虚空に水晶体の破片と赤紫の煙を撒き散らしながら"雷霆の座主"は爆炎の中へと消えていった。
「………………え?」
コメント
・は?
・は?
・え
・んん?
・ええええええええええ
・なんで?
・イベント?
・なにごと?
・なにが起こった
・倒した?
静寂に包まれる広間。二の句が継げずにいる私。猛烈な勢いで流れていくリスナーたちの動揺コメント。
私が現実を飲み込む前に、
『しゃああああぁぁぁぁ――――――っ!! やってやったぜざまぁみろオラアアアアァァァァ――――――ッ!!』
先ほどと同じ男性の声が射点の方角から響いた。
……やって、やった?
つまり、この声の主が"雷霆の座主"を撃破した?
コメント
・ガチで倒した?
・はあああああああああああああああああ!?
・うそやろ
・なんかの間違いだろ?
・すげええええええええええええええ!!!!
・まじかああああああああああああああああ!?!?
・すげえもん見た
・やべええええええええええ
・倒したの誰だ
・やばい
・男の声だよな
・何者だ
当然、彼の叫び声は配信に乗っている。コメント欄がさらに加速していく。
「あ……なんか倒されましたね……」
とっさに気の利いた言葉が思いつかなかった。私は凡庸極まりないつぶやきを残したきり、"雷霆の座主"がいた高台を呆然と眺めるばかりであった。
コメント
・アルテちゃんフリーズしてる
・そらそうよ
・だってあれダンジョン史上初じゃね?
・やばすぎる
・マジで誰だ
・確認取れる?
・話聞きに行くとか
・急げば間に合いそう
リスナーの言う通りだ。まずは彼にコンタクトを取ろう。
「そ……そうですね。倒した人に確認を――」
と口を開いたところで、魔物が多数――三メートルほどの水晶人形や群れる水晶コウモリたちがこちらに向かってくるのが見えた。
「……っの前にこっちっ!」
さすがに無視できないので得物である刀を抜いて応戦。
だが格下相手とはいえこちらは能力低下中。しかも水晶人形はやたらタフでコウモリは的が小さい面倒な相手。突破するのに少々時間がかかった。
ようやく高台に登ったが、探索者の姿は影も形も見当たらなかった。
「……あぁ~、間に合わなかったぁ……」
コメント
・おのれザコめ
・もう地上に戻ったんかな
・結局誰だったんだ……
・謎だ
それでも念のため周囲を捜索。思い切ってこちらから叫んで呼びかけもした。
だが結局コンタクトは取れなかった。魔物が追加で寄ってきただけだ。
適当に返り討ちにしてそのまま帰還した私はしばらくリスナーとの雑談タイム。当然、話題の中心は撃破不能ボスを撃破した件の人物である。
手がかりなし――そう思われていた謎の人物だが、ひとつのコメントによってその正体が明らかとなった。
コメント
・分かった。『堂崎大地』って人だ。チャンネルで生配信やってた
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